行政書士補助者とは?年収や求人の実態・受験への影響まで解説

キャリア

2025年09月11日

「行政書士事務所で働きたいけど、資格がないと難しい?」
「行政書士になるために、まず実務経験を積みたい…」
そんな方の選択肢となるのが、行政書士補助者という職種です。

行政書士補助者になれば、資格試験に合格していなくても行政書士の専門業務に携われます。行政書士の実務を間近でサポートできるため、試験勉強だけでは分からない現場感覚も身につくでしょう。

本記事では、行政書士補助者の具体的な業務内容から必要な条件、年収・求人状況まで詳しく解説します。さらに、一般事務スタッフとの違いや、補助者として身につくスキル、試験への影響についてもお伝えします。

行政書士事務所へ就職したい方、将来的に行政書士を目指している方は、ぜひご一読ください。

1.行政書士補助者とは?

行政書士補助者は、行政書士の指揮監督のもとで、行政書士の独占業務をサポートする職種です。

行政書士の独占業務には、許認可申請書の作成や官公署への提出などがあります。これらは、本来、行政書士以外の関与は一切認められていません。しかし、行政書士補助者として登録すれば、資格がなくても、行政書士の指導のもとでこれらの業務に関わることができます。

補助者になるのに特別な資格は不要ですが、都道府県の行政書士会への登録と「補助者証」の取得が必要です。

(参考)東京都行政書士会補助者規則

第2条 (定義)
この規則において「補助者」とは、行政書士法(昭和 26 年法律第4号。以下「法」という。)第19条の3に定める「使用人その他の従業者」のうち、行政書士法施行規則(昭和 26 年総理府令第5号)第5条(第12条の3により準用される場合を含む。)に定める者であって、会員が法第1条の2及び第1条の3に規定する業務及び他法令等に基づく行政書士業務を行うにあたり、当該会員の指揮命令及び監督を受けて、当該業務に関する事務を補助する事務(以下「補助者事務」という。)に従事する者をいう。

1-1.行政書士補助者と一般事務スタッフの違い

行政書士補助者と一般事務スタッフの最大の違いは、行政書士の専門業務に携われるかどうかです。
もっとも分かりやすい例は、戸籍謄本・住民票の写しなどの請求(職務上請求)です。
職務上請求は、行政書士事務所で日常的に発生しますが、一般事務スタッフの関与は認められていません。行政書士会へ届出済みの補助者のみが、行政書士の指揮監督のもとで請求業務に携われます(使者として)

つまり、一般事務スタッフがあくまで事務所運営のサポート業務のみを担当するのに対して、行政書士補助者は専門業務も含めて幅広く担当できる、というイメージです。

◉行政書士補助者と一般事務スタッフの違い

項目 行政書士補助者 一般事務スタッフ
できる仕事 ・許認可申請書の作成補助
・役所への書類提出
・戸籍謄本等の職務上請求
・電話対応
・書類整理
・データ入力
行政書士の
専門業務
◯ 携われる ✕ 携われない
必要な登録 行政書士会への登録が必要 不要
身分証明 補助者証を取得 なし
働き方 行政書士の指揮・監督の
もとで専門業務を補助
事務所運営の
サポートのみ

2.行政書士補助者の業務内容とは?

行政書士補助者の業務は、行政書士のサポート全般です。
書類の作成、役所での手続き、依頼者との連絡調整などを幅広く担当し、行政書士が専門業務に集中できるようサポートをしていきます。
行政書士の秘書のような存在と考えると分かりやすいかもしれません。

2−1.行政書士補助者の仕事内容

行政書士補助者の仕事には、主に以下のような内容が含まれます。

・官公署に提出する申請書の作成
・役所や警察署などへの提出・受取
・添付資料の収集
・依頼者とのやり取り
・必要書類の案内や不足資料の催促、進捗連絡など
・案件の管理
・その他、事務所内のサポート

ただし、具体的な内容は行政書士事務所によって異なります。なかには、行政書士の仕事の大部分を補助する事務所もありますし、「補助者」とはいいつつも、一般事務スタッフと変わらない仕事をする事務所もあります。

行政書士事務所は基本的に個人経営が中心なので、所長の方針によって仕事内容が大きく変わってくるのです。

2−2.行政書士補助者にできないこと

行政書士補助者にできないのは、自分の名前で仕事をすることです。
先ほど、事務所によっては行政書士の仕事の大部分を補助すると説明しました。しかし、これはあくまでも「行政書士の指揮命令及び監督の下」という条件付きです。自分で何かを決められるわけではありませんし、自分の名前で書類を作るわけでもありません。もちろん、自分の判断で依頼者から仕事を引き受けることも禁止されています。

行政書士補助者は、どこまでいっても「補助者」という立場なので、自分の権限・責任で業務を行えるわけではありません。

3.行政書士補助者として働くと身につくスキル

行政書士補助者に興味がある人のなかには、将来行政書士になって活躍するために補助者になりたいと思っている人もいるでしょう。
そこで、行政書士補助者になると身につくスキルを4つ紹介します。

・一般的な事務処理スキル
・情報収集力
・コミュニケーションスキル
・行政書士としての現場感覚

3−1.一般的な事務処理スキル

1つ目は、一般的な事務処理スキルです。
行政書士事務所では、官公署への申請書や契約書など、正確性が求められる多数の書類を作成・管理します。そのため、WordやExcelといった基本的なPCスキルは実務を通して自然と磨かれていきます。
法律用語やビジネス文書特有の表現に日常的に触れるため、正確な日本語力も身につきます。

3−2.情報収集力

2つ目は、情報収集力です。
行政書士補助者は、行政書士の指導のもとで書類を作成する機会がありますが、詳しいマニュアルが整備されているケースは少ないです。
そのため、行政庁の告示や通知、疑義解釈などを読み込んだり、実際に行政庁の担当者とやり取りをしたりして、必要な情報を収集し、整理する力が必要になります。

さらに、法律は頻繁に改正されるので、最新の情報をキャッチして、法改正に対応する力も養われます。この過程で、行政書士として必要な情報収集力が自然と身についていきます。

3−3.コミュニケーションスキル

3つ目は、コミュニケーションスキルです。
行政書士補助者は、依頼者から必要書類を聞き取ったり、手続きの進捗を報告したりと、直接やり取りする機会が多くあります。しかし、依頼者の大半は行政手続きに詳しくありません。
そこで、「なぜこの書類が必要なのか」「どうしてこんなに時間がかかるのか」といった疑問に対して、分かりやすく説明するスキルが求められます。

たとえば、「役所の審査期間が2週間と決まっているから」「この書類がないと法律上許可が下りないから」など、相手が納得できる説明が必要です。このような説明を日々繰り返していくうちに、相手の立場に立って物事を伝えるコミュニケーションスキルが身についていきます。

3−4.行政書士としての現場感覚

4つ目は、行政書士としての現場感覚です。
行政書士補助者として働くと、実際の行政書士業務の流れを経験できます。
そのため、「○○業の申請は年度末に駆け込み需要が増える」、「営業許可は○○ヶ月前から準備が必要」、「相続手続きは○○のケースで揉めやすい」など、教科書には載っていない現場感覚が養われていきます。さらに、新規顧客がどこから来るのか、報酬の相場はいくらかなど、将来独立する際に必要なノウハウも学べます。

つまり、試験に合格しただけでは分からない、実践的な知識が得られるのです。補助者として得た経験は、行政書士になった後も大きな財産となるでしょう。

4.行政書士補助者になるには?

では、行政書士補助者になるには何が必要なのでしょうか。必要な条件や手続きについて説明します。

4−1.行政書士補助者になるため資格は不要

行政書士補助者になるために、特別な資格は必要ありません。ただし、補助者として業務に携わるには「補助者証」が必要です。
補助者証は、行政書士事務所に採用された後、行政書士が行政書士会に補助者設置届を提出すると交付されます。もっとも、この手続きは基本的に採用した行政書士が行うため、補助者自身が申請するわけではありません。
なお、必須資格ではありませんが、運転免許はあったほうがよいでしょう。役所や顧客のもとへ行くときに運転業務があるため、多くの事務所で必要とされています。特に地方では、必須条件であるケースがほとんどです。

4−2.欠格事由にあたると行政書士補助者になれない

行政書士補助者の欠格事由は、所属する行政書士会によって異なります。たとえば、東京都行政書士会では以下のような欠格事由が設けられています。

・18歳未満など、行政書士の欠格事由に該当する者
・行政書士から懲戒解雇されて3年経過していない者
・通勤に2時間以上かかる遠方居住者
・在留資格を持たない外国籍の者
・すでに行政書士として登録済みの者
・反社会的勢力との関係がある者
・誠実な業務遂行が困難と思われる者

特に見落としがちなのが、「通勤に概ね2時間以上を要する者」「現に行政書士として登録されている者」という2つです。
あまりにも遠方に住んでいたり、すでに合格して登録まで済ませていたりすると欠格事由に該当する可能性があるので、各行政書士会への確認が必要です。

(不適格事由)
第4条 会員は、次の各号のいずれかに該当する者を補助者としてはならない。
 一 法第2条の2各号のいずれかに該当する者(※行政書士としての欠格事由)
 二 行政書士又は行政書士法人から懲戒解雇され、その日から3年を経過していない者
 三 住所又は居所が勤務を要する会員の事務所の所在地から著しく遠距離にあり、通勤に概ね2時間以上を要する者(通勤確認のできる資料を提出した者を除く)
 四 日本国籍を有しない者にあっては、補助者事務に従事することができる在留資格等を有しない者
 五 現に行政書士として登録されている者
 六 反社会的勢力と密接な関係性を有する者
 七 行政書士又は行政書士法人の補助者としての誠実な業務遂行が阻害されるおそれのある者

(引用:東京都行政書士会補助者規則

4−3.補助者として働くまでの流れ

行政書士補助者の採用情報は、各事務所のHPや一般的な求人サイト、ハローワークなどで募集されています。このほか、都道府県によっては行政書士会のHPに各事務所の求人が掲載されている場合もあります。

選考プロセスは一般的な事務職と同様で、書類選考、面接などが実施されるケースが多いです。採用後、事務所の行政書士が行政書士会に補助者設置届を提出し、補助者証が交付されれば、行政書士補助者として業務をスタートできます。

5.行政書士補助者の年収や雇用形態、求人は?

次に、行政書士補助者の年収や待遇、求人数について見ていきましょう。

5−1.年収の目安・雇用形態

行政書士補助者は、フルタイムのアルバイトや契約社員として求人募集されているケースが多いです。週2〜3日から働ける求人は少なく、ある程度腰を据えて働くのが前提となります。
アルバイトの場合は時給1000円〜1200円程度、契約社員の場合は年収250万円〜350万円程度が目安となります。経験を積むにつれて昇給も見込めますが、大幅な収入アップは期待できません。

一方で、行政書士を含めて2〜3人の小規模事務所が大半なので、幅広い業務を経験しやすいというメリットもあります。仕事量は多くなりますが、その分実践的なスキルが身につきます。

5−2.行政書士補助者の求人は少なめ

行政書士補助者の求人数はそれほど多くなく、都心部に集中しています。特に、地方の場合は、そもそも求人自体が見つからないケースもあるようです。

求人が少ない分、事務所側も長期的に働いてくれる人材を求めています。そのため、「行政書士になるため」という目的で補助者になる場合は、面接時に「独立開業したい」という意思を正直に伝えておきましょう。
隠していると後々トラブルになる可能性がありますし、事務所によっては独立後の協業を提案してくれるケースもあります。

6.行政書士補助者にバッジは支給される?

行政書士補助者にも、専用のバッジ(徽章)が支給されます。
この補助者バッジは、行政書士バッジと同様にコスモスの花弁がモチーフとされています。ただし、中心の文字は行政書士の「行」ではなく、補助者の「補」となっているのが特徴です。

行政書士補助者バッジは、補助者証と併せて「補助者」としての身分を示すものです。
役所での手続きや依頼主との面談時など、対外的な業務を行うときに、行政書士事務所の正式なスタッフだと証明する役割を担っています。

※行政書士バッジについては、以下の記事で詳しく解説しています。
行政書士のバッジの花はコスモス?特定行政書士や補助者のバッジも解説

7.行政書士補助者は行政書士試験で有利?

行政書士補助者として働いていても、試験で大幅に有利になるわけではありません。
なぜなら、補助者として使う知識と行政書士試験に合格するための知識は必ずしも一致していないからです。
行政書士試験で必要なのは、基本的に行政手続法・民法などの「一般法」です。

一方で、補助者が実務で使うのは一般法ではなく「特別法」です。たとえば、国際業務をメインにしている事務所なら「入管法(出入国管理及び難民認定法)」、農地転用が得意な事務所なら「農地法」といったように、各事務所の専門分野に特化した法律が中心となります。

つまり、これらの法律に精通していても、試験ではあまり出題されないのです。
補助者としての経験は、あくまでも合格後の実務で活きるものです。実務経験と試験対策は切り分けて、しっかり取り組みましょう。

8.行政書士補助者について・まとめ

本記事では、行政書士補助者の仕事内容、年収、求人状況、行政書士受験への影響などについて解説しました。以下にポイントをまとめます。

・行政書士補助者は、行政書士の指揮監督のもとで、独占業務(許認可申請書の作成や官公署への提出など)をサポートする職種です。
・特別な資格は不要ですが、業務に携わるには都道府県の行政書士会への登録と「補助者証」の取得が必要です。
・一般事務スタッフとは異なり、戸籍謄本・住民票の写しなどの職務上請求といった専門業務にも関与できます。
・主な業務内容には、官公署に提出する申請書の作成補助、役所への書類提出・受取、依頼者との連絡調整などが含まれますが、自分の名前で業務を行うことはできません。
・補助者として働くことで、一般的な事務処理スキル、情報収集力、コミュニケーションスキルに加え、教科書には載っていない行政書士としての現場感覚や実務ノウハウを身につけることができます。
・多くの事務所で運転免許が必須または推奨されており、特に地方では重要視されます。
・行政書士会によっては、18歳未満、通勤に長時間かかる者、現に行政書士として登録されている者など、補助者に対する欠格事由が設けられている場合があります。
・年収の目安は、アルバイトで時給1,000円〜1,200円程度、契約社員で年収250万円〜350万円程度です。
・行政書士補助者の求人数はそれほど多くなく、都心部に集中する傾向があります。
・行政書士補助者には、コスモスがモチーフで中央に「補」の文字が入った専用の「補助者バッジ」が支給され、身分証明の役割を果たします。
・補助者としての実務経験は、合格後の業務で大いに役立ちますが、行政書士試験の合否に直接的に有利になるわけではありません。試験対策と実務経験は分けて取り組むことが重要です。

以上です。

行政書士補助者としての経験は、将来行政書士として独立開業を目指す方にとって、大きな財産となることは間違いありません。しかし、実際に行政書士試験を受験するにあたっては、別途しっかりと対策を講じる必要があります。

もしあなたが、行政書士試験の受験を検討されているのなら、難関法律系資格で圧倒的な合格実績を誇る伊藤塾にぜひお任せください。

過去10年間で4千名を超える合格者を輩出してきた 伊藤塾の「行政書士合格講座」は、法律を学ばれた方はもちろん、法律学習が初めての方や、一人で学習を続けられるか不安な方でも安心して学べるように、設計されています。確かな指導と戦略、戦略的なカリキュラム、充実したフォロー体制(質問制度、スクーリングなど)によって、受講生を合格まで力強くサポートします。

さらに、伊藤塾での学びは、単なる試験対策にとどまりません。実務家視点を取り入れた本格的な学習を通じて、合格後にも役立つ「使える」法律知識を身につけることができます。この学びは、将来行政書士として活躍するための大きな強みとなるでしょう。

なぜ伊藤塾の行政書士講座は初学者でも短期合格が可能なのか?選ばれる7つの理由と体験談から徹底分析!

ぜひ私たちと一緒に、行政書士への一歩を踏み出してみませんか?
伊藤塾は、あなたのチャレンジを全力で応援します。

伊藤塾 行政書士試験科

著者:伊藤塾 行政書士試験科

伊藤塾行政書士試験科は1995年の開塾以来、多数の法律家を輩出し、現在も業界トップの行政書士試験合格率を出し続けています。当コラムでは、学生・社会人問わず、法律を学びたいと考えるすべての人のために、行政書士試験や法曹に関する情報を詳しくわかりやすくお伝えしています。