国家総合職教養区分は独学できる?その難易度と2023年試験対策
公務員の基本情報
2023年02月02日

国家総合職の教養区分はいわゆる「官僚」を採用するための試験。毎年10月に行われるため、秋試験とよばれています。最大の特徴は、法律・経済などの専門科目が出題科目とされていないこと。そのため、独学で目指したい、とお考えの方も多いかもしれませんね?
実際、教養区分は独学で合格できます。
ただし、誰でも独学で結果が出せる、というわけではありません。
・教養区分ってどんな試験?
・難易度は?
・対策は?独学でできる?
そんな疑問を解消しながら、「独学で合格」できる人の条件を確認していきましょう。

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【目次】
1.国家総合職教養区分とは
1-1.国家総合職になるまでの流れ
はじめに、国家総合職になるまでの流れを確認しておきましょう。
総合職に限らず、一般職なども含む国家公務員試験の特徴は「合格」=「採用」ではない、ということ。採用にいたる流れは2ステップです。
ステップ① 試験に合格する
ステップ② 志望する省庁から内々定をもらう
まずは、①「国家公務員総合職試験」に合格する必要があります。合格すれば『採用候補者名簿』に名前が載り、②志望する省庁への「官庁訪問」を行うことができます。そして内々定を獲得できれば、翌年4月から晴れて総合職職員です。
大学生が受験する国家総合職試験(大卒程度)には、2種類あります。
実施時期から「秋試験」「春試験」とよばれ、受験可能年齢および試験内容が異なります。
教養区分は、秋試験を指します。
1-2.教養区分のスケジュール
国家総合職教養区分の試験は、毎年10月に行われています。
2022年度実施日程は次のとおりです。
2022年実施 国家総合職秋試験(教養区分)日程
●受付期間 | 2022年7月29日(金) ~8月22日(月) |
●第1次試験日 | 10月2日(日) |
●第1次試験合格発表 | 10月19日(水) |
●第2次試験日 | 11月26日(土)及び 11月27日(日) |
●最終合格発表 | 12月14日(水) |
2.2023年教養区分 試験制度変更
現在、国家公務員総合職試験は、制度変更の過渡期にあります。教養区分においては、2022年~2023年にかけて、次のような変更があります。
2-1.【変更点①】受験可能年齢の引き下げ
変更点の1つ目は、受験可能年齢の引き下げです。
2022年試験まで、教養区分の受験可能年齢は「20歳」以上でした(受験する年の4月時点の年齢)。これが、2023年試験よりこれが「19歳」に引き下げられます。大学現役入学の方であれば、大学2年次から教養区分を受験できることになります。
その結果、国家総合職試験は、2年次と3年次の教養区分、そして4年次の春試験と合計3回に受験チャンスが拡大。年々、早期化・多様化している民間就活のスケジュールを見ながら国家総合職試験にチャレンジできます。
また、コロナ禍も収束しつつあり、留学に行く皆さんも増えてきています。大学2年次の試験に合格してしまえば、受験を気にすることなく、大学3年次は留学に行くことができます。
2-2.【変更点②】試験地の追加
国家総合職教養区分の試験は、2021年まで東京・大阪のみで行われていました。ちょっと不公平で不便ですよね?受験生の便宜を図るため、2022年に2つ、2023年に5つ、試験地が追加され、合計9都市での実施となります。
国家総合職教養区分 第1次試験地
~2021年 | 2022年 | 2023年~ |
東京都 大阪市 | 東京都 大阪市 札幌市 福岡市 | 東京都 大阪市 札幌市 福岡市 仙台市 名古屋市 広島市 高松市 那覇市 |
北海道から九州・沖縄まで、近隣エリア内で受験可能に。これまで「わざわざ東京や大阪まで行って受験するのはちょっと・・・」と教養区分を敬遠していた地域の皆さんも受験しやすくなります。移動や宿泊のコストも下がりますね。
2-3.【変更点③】合格有効期間の延長
前述のとおり、国家総合職として採用されるためには、試験に合格して『採用候補者名簿』に掲載された上で、官庁訪問を行わなければなりません。
この名簿に掲載されている期間のことを、「合格有効期間」といいます。
現在の合格有効期間は3年間。これが2023年試験から、教養区分では6年6カ月間に、春試験では5年間に延長されます。
その結果、「大学院に進学してから」、「海外留学してから」、「民間企業で働いてから」など、いったん〇〇してから国家総合職の官庁訪問にチャレンジする、といったことが今までよりもしやすくなります。
以上のような制度変更の目的は、「より多くの学生に国家公務員総合職試験を受験してほしい」、これに尽きます。春試験では、試験時期の前倒しや試験区分の見直しも予定されています。
3.教養区分の試験内容・難易度
3-1.教養区分の試験科目・形式・出題数
教養区分試験には、第1次試験と第2次試験があります。1次に合格すれば次へ進むことができ、2次合格=最終合格です。試験内容をみてみましょう。
教養区分の第1次試験
試験種目は、基礎能力試験と総合論文試験の2つです。
●基礎能力試験
●配点比率 | Ⅰ部 3/28 Ⅱ部 2/28 |
●形式 | 多肢選択式 |
●解答題数 | Ⅰ部 24題出題 Ⅱ部 30題出題 全問必須解答 |
●解答時間 | Ⅰ部 2時間 Ⅱ部 1時間30分 |
●内容 〇数字は出題数 | Ⅰ部 知能分野 文章理解⑧ 判断・数的推理(資料解釈を含む)⑯ Ⅱ部 知識分野 自然⑩、人文⑩、社会⑩※時事を含む |
●総合論文試験
●配点比率 | 8/28 |
●解答題数 | 2題 |
●解答時間 | 4時間 |
●内容 | 幅広い教養や専門的知識を土台とした総合的な判断力、思考力についての筆記試験 Ⅰ:政策の企画立案の基礎となる教養・哲学的な考え方に関するもの1題 Ⅱ:具体的な政策課題に関するもの1題 |
第1次試験では、基礎能力と総合論文の2種目が実施されますが、その合否は、基礎能力試験の得点だけで決まります。どんなに総合論文が良く書けていても、基礎能力試験で合格的をクリアできなければ採点されません。
教養区分の2次試験
試験種目は、企画提案試験、政策課題討議試験、および人物試験です。
●企画提案試験
●配点比率 | 5/28 |
●形式 | Ⅰ部 プレゼンシート作成 Ⅱ部 プレゼン・質疑応答 |
●解答題数 | Ⅰ部 1題 |
●解答時間 | Ⅰ部 1時間30分 Ⅱ部 おおむね1時間 |
●内容 | 企画力、建設的な思考力及び説明力などについての試験 Ⅰ部 課題と資料を与え、解決策を提案させる Ⅱ部 シートの内容について 試験官に説明、その後質疑応答を受ける |
●政策課題討議試験
●配点比率 | 4/28 |
●形式 | 課題に対するグループ討議 |
●解答題数 | – |
●解答時間 | おおむね1時間30分 |
●内容 | プレゼンテーション能力やコミュニケーション力などについての試験 |
●人物試験
●配点比率 | 6/28 |
●形式 | 個別面接 |
●解答題数 | – |
●解答時間 | – |
●内容 | 人柄、対人的能力などについての個別面接 |
第2次試験の合否、すなわち最終合格は、全ての試験種目の成績を総合して決まります。このほか、TOEIC・TOEFL・英検など、英語のスコアに応じて15点または25点が加算される制度があります。
試験の詳細は最新の『受験案内』でも確認しておきましょう。
▼人事院『国家公務員試験採用情報NAVI』
試験情報 国家総合職教養区分
3-2.過去3年間の試験結果
過去3年間の教養区分試験結果は次のとおりです。
国家総合職教養区分 過去3年間の試験結果
実施状況 | 2022年 | 2021年 | 2020年 |
申込者数 | 2,952 | 3,084 | 3,172 |
1次受験者数 | 1,884 | 1,973 | 未公表 |
1次合格者数 | 416 | 329 | 300 |
最終合格者数 | 255 | 214 | 163 |
合格率(※) | 8.6% | 6.9% | 5.1% |
採用数 | – | 105 | 98 |
2012年に新設された教養区分試験。その申込者数は、近年の「国家総合職離れ」の状況を考えると、堅調といえます。制度導入以来、教養区分の倍率は20倍前後、合格率は5~6%ほどの難関試験です。
もっとも、ここ2年間は、申込者数がほぼ横ばいにもかかわらず、合格者数を大きく増やしているため、倍率は低下。平均20倍ほどだった倍率が、2022年は11倍と低く抑えられました。
人事院の「教養区分重視」の方針は鮮明。今後、教養区分の合格者数が減るというのは考えづらいです。とはいえ、優秀な人材確保、という試験目的からすると、教養区分がこのまま「易しい試験」になる、ということはなさそうです。
受験可能年齢の引き下げにともなう受験者増も見込まれ、あなたが受験する年には大きく状況が変化している可能性も。先輩の体験談を鵜呑みにするのはリスクが高いといえるでしょう。
4.教養区分対策のポイント
4-1.配点比率から優先順位を決める
ここまで、教養区分には5つの試験種目があることを確認しました。基礎能力、総合論文、企画提案、政策課題討議、面接の5種目ですね。
各種目の重要度は「配点比率」という形で決められています。配点が高いほど、その種目を失敗した場合のダメージが大きくなる、ということ。各種目の配点比率は次のとおりです。
国家総合職教養区分 配点比率
試験種目 | 配点比率 |
基礎能力試験Ⅰ部 | 3/28 |
基礎能力試験Ⅱ部 | 2/28 |
総合論文試験 | 8/28 |
企画提案試験 | 5/28 |
政策課題討議試験 | 4/28 |
人物試験 | 6/28 |
これを見ると、配点比率が最も高い=失敗できない のは、総合論文試験です。
ちなみに、国家総合職試験では、試験区分によって問題・出題数が異なります。区分ごとのバラつきをなくすため、合格者の得点は、「素点」を換算した「標準点」で算出されます。例えば、基礎能力試験は40題出題・40点満点。1問正解すれば素点1点です。総合論文試験は2題出題。1題につき素点1~10点がつき、合計20点満点となります。
問題は、基礎能力と総合論文では「素点1」の換算結果が全く異なるということ。基礎能力試験における1点差は、標準点に換算しても約2~4点差。ところが、総合論文試験では素点1点の違いが、標準点では約17点もの差になるのです。
総合論文試験では、1点でも高い点数を取りにいく必要があります。目指すべきラインは、できれば16点(8点×2題)。ダメでも15点はとれるような対策をしておきましょう。
採点方法の詳細は人事院が公表している『合格者の決定方法』で確認できます。
▼人事院『国家公務員試験採用情報NAVI』
合格者の決定方法
4-2.経験に応じた「妥当な」戦略を立てる
総合論文試験とともに力を入れるべきなのが、基礎能力試験です。
前述のとおり、第1次試験の合否は基礎能力試験の成績のみで決まります。確実に1次合格ラインを突破する準備が必要です。
さらにいえば、基礎能力試験の成績は最終合格の判定まで用いられます。1次をギリギリ突破という成績では、2次試験では一切失敗が許されない、ということになります。余裕をもって最終合格を目指すなら、基礎能力試験では、配点比率が高いⅠ部は7割、Ⅱ部は6割のラインを目指したいところです。
基礎能力試験Ⅰ部
試験種目 | 出題数 |
判断・数的推理 | 16問 |
文章理解 | 8問 |
基礎能力試験のⅠ部は、判断・数的推理16問と文章理解8問、合計24問が出題されます。判断・数的推理は、16問中8問とれればOK。得意・不得意がかなり分かれる科目なので、「このパターンの問題は絶対とる」というものを決めておくことがポイント。捨てる問題を瞬時に判断することが大切です。
逆に文章理解は、8問中できれば8問、全問正解を目指したいところです。合格者はほとんど文章理解で落としません。過半数は英文問題なので、英文読解のトレーニングも必要です。
基礎能力試験Ⅱ部
試験種目 | 出題数 | 主な出題分野 |
自然科学 | 10問 | 数学、物理、化学、生物、地学 |
人文科学 | 10問 | 世界史、日本史、思想、文学・芸術、地理 |
社会科学 | 10問 | 政治、行政、法律、経済、社会、国際関係、時事 |
基礎能力試験Ⅱ部で目指すべきラインは6割。30点中17点あたりです。
Ⅱ部は大学入試までの学習経験がモノを言う分野。やみくもに学習をしても膨大な時間がかかるだけです。自然・人文・社会の各科目で10問ずつ出題されるわけですが、どのように17点をとるかは、これまでの経験や得意・不得意をふまえて、妥当な戦略を立てる必要があります。
大学入試で理系科目をみっちり勉強した方は、自然科学でコンスタントに得点できるでしょう。そうでない方は、自然科学は最低限の得点で守り、人文・社会科学で高得点を狙う、というのが現実的です。
5.教養区分「独学で合格」できる人
これまで見てきたように、教養区分合格のポイントは総合論文と基礎能力です。
教養区分に「独学で合格」できるのは、これらの対策を自力でできる人、ということになります。
5-1.総合論文対策を自力でできる人
総合論文対策としてやるべきことは、次の3つです。
①重要テーマを網羅的に学習する
②論述の前提となる専門知識を蓄積する
③他の受験生と「議論」や「答案検討」を行う
①重要テーマとは、出題可能性のある行政課題のこと。試験では解決策の提示を求められるため、一般論を理解しているだけでは足りません。最新の動向をふまえ自分はどう考えるのか、を論述する準備が必要です。学習の素材は、過去問と白書をはじめとする行政文書。論述の参考にすべき文書はどれかを見極める力も不可欠です。
②専門知識とは、主に総合論文Ⅰの論述に必要なもの。『受験案内』では、総合論文試験は「幅広い教養や専門的知識を土台とした~筆記試験」とされています。専門的な知見を前提としない論述は評価されません。具体的には、行政学・政治学・財政学・国際関係などの理解が必要です。
③他の受験生と議論やゼミができる環境があることも重要です。同じ試験を目指す第三者に批評してもらうことで、自身の見解をブラッシュアップできます。他の人の意見を聞くことで新たな発見もあるでしょう。議論やプレゼンをすることは、第2次試験(企画提案・政策課題討議・面接)の実践的なトレーニングにもなります。
教養区分に独学で合格するためには、これらの対策を自力でできる能力・ノウハウ・環境が求められます。
5-2.大学入試でアドバンテージがある人
前述のとおり、大学入試で理系科目もみっちり勉強した方は、教養区分の基礎能力試験でアドバンテージがあります。自然科学でも一定の得点がとれるため、人文科学や社会科学の学習が多少ゆるくなっても、合格ラインを突破できるのです。
大学入試でためた貯金が使える、というイメージでしょうか。
また、東大をはじめとする難関大学に合格した皆さんは、「試験勉強のコツ」をつかんでいる方も多いでしょう。学習の内容やペースを誰かに示されなくても、自分で課題を設定し、淡々と学習できるという方は、教養区分の独学にも有利です。
6.まとめ
いかがでしたか?
冒頭でもお伝えしたとおり、教養区分は独学で合格を目指せます。
ただし、ちょっとハードルは高め・・・ですね?
「文系最難関」とよくいわれるのは司法試験です。
けれども、司法試験・国家総合職試験いずれも指導している私たち「伊藤塾」からすると、対策の難しさ、情報の少なさ、という点では国家総合職教養区分のほうが難しい試験であるようにも思われます。
大学時代、試験勉強ばかりしているわけにはいきません。せっかくの4年間、今しかできない様々な経験を積まないともったいない!そして、勉強づけの大学生活は、国家総合職を目指す際、面接などでも評価されません。
どのような方法で目指すのが自分に合っているのか、じっくり考えてみませんか?
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