国家総合職の試験科目とは?出題傾向と対策を解説【教養区分編】
公務員の基本情報
2023年04月17日


官僚を採用する国家総合職試験には、いくつかの試験区分があります。中でも近年人気なのが秋に実施される「教養区分」です。
人気の理由、大きくは次の2つでしょう。
①民間就活のヤマ場と時期がずれており併願しやすいこと
②専門試験が課されず暗記学習の負担が軽いこと
今回は、②と関連して、国家総合職教養区分の試験形式・試験科目そして対策のポイントをご紹介していきます。

\申込後すぐにダウンロード/
【目次】
1.国家総合職の試験制度
国家総合職を目指す際の注意点は「試験合格=採用」ではないということです。まずは国家総合職がどのように採用されるのか、その仕組みを確認しておきましょう。
1-1.国家総合職になるまでの流れ
国家公務員総合職になるまでの流れは次の2ステップです。
ステップ① 試験に合格する
ステップ② 志望する省庁から内々定をもらう
まずは、①「国家公務員総合職試験」に合格しなければなりません。合格者は『採用候補者名簿』に名前が載り、②志望する省庁への「官庁訪問」を行うことができます。そして内々定を得て採用、ということになります。
1-2.教養区分の試験日程
大学生の皆さんが受験する国家総合職試験(大卒程度)には、実施時期・内容の異なる2種類の試験があり、それぞれ「秋試験」「春試験」とよばれています。教養区分は秋試験を指します。2023年秋に行われる試験の日程は次のとおりです。
第1次試験
試験日 10月1日(日)
発表日 10月18日(水)
第2次試験
試験日 11月25日(土)・26日(日)
発表日 12月13日(水)
教養区分では第1次試験と第2次試験が行われます。第2次試験は、1次合格者を対象に2日間にわたって実施されます。1日目が企画提案試験、2日目が政策課題討議試験および人物試験です。2次合格=最終合格となります。
1-3.教養区分の試験概要
教養区分で課される試験種目は①~⑤の5つです。
第1次試験
①基礎能力試験 ・Ⅰ部「知能分野」(24題)、Ⅱ部「知識分野」(30題)の2部構成 ・Ⅰ部は2時間、Ⅱ部は1時間30分の多肢選択式試験 ・Ⅰ部、Ⅱ部ともに全問必須解答 ②総合論文試験 ・Ⅰ部「政策の企画立案の基礎となる教養・哲学的な考え方に関する」問題 ・Ⅱ部「具体的な政策課題に関する」問題 |
第1次試験では、①基礎能力と②総合論文の2種目が実施されますが、その合否は、基礎能力試験の得点だけで決まります。1次を突破できなければ、どんなに総合論文がよく書けていても合格できません。基礎能力対策はおろそかにできません。
第2次試験
③企画提案試験 ・事前に資料が公表される(例年、第1次試験発表日に公表) ・シートをもとにプレゼンテーションと質疑応答。所要時間は約1時間 ④政策課題討議試験 ・課題に対する自身の立場を発表してグループ討議 ・例年グループは6人一組 ・試験時間はおおむね1時間30分 ⑤人物試験 ・個別面接 ・面接カードに沿って質疑応答 |
第2次試験は試験形式が特殊なため、不安を感じる方も少なくありません。とはいえ、出題内容は①②ともに政策課題に関するものです。1次の総合論文対策と内容が重複するため、新たに学習すべきことはほとんどありません。
第2次試験の合否、すなわち最終合格は、1次・2次すべての試験種目の成績を総合して決まります。このほか、TOEIC・TOEFL・英検など、英語のスコアに応じて15点または25点が加算される制度があります。
※試験に関する最新情報は人事院『国家公務員試験採用情報NAVI』をご覧ください。
2.国家総合職教養区分の合格レベル
次に、国家総合職教養区分試験の難易度を確認しておきましょう。
2-1.過去3年間の試験結果
過去3年間の教養区分試験結果は次のとおりです。
実施状況 | 2022年 | 2021年 | 2020年 |
申込者数 | 2,952 | 3,084 | 3,172 |
1次受験者数 | 1,884 | 1,973 | 未公表 |
1次合格者数 | 416 | 329 | 300 |
最終合格者数 | 255 | 214 | 163 |
合格率(※) | 8.6% | 6.9% | 5.1% |
採用数 | – | 105 | 98 |
2012年の制度導入以来、教養区分の倍率は20倍前後、合格率は5~6%ほど。はっきり言って難関試験です。もっとも、ここ2年間は、申込者数がほぼ横ばいにもかかわらず、合格者数を大きく増やしているため、倍率は低下傾向にあります。
とはいえ、「優秀な人材を確保したい」というのが採用側の本音。合格者のレベルが下がることは望んでいません。教養区分がこのまま「易しい試験」になるということは考えづらいでしょう。
2-2.合格に必要な得点ライン
では、どの程度の点数をとれば教養区分に合格できるのでしょうか?目指すべき得点ラインをみていきます。まずは、試験種目ごとの平均点を一覧で確認しておきましょう。
国家総合職教養区分 平均点一覧
(2022年度 素点)
試験種目 | 満点 | 基準点 | 平均点 |
基礎能力試験Ⅰ部 | 24 | 8 | 10.889 |
基礎能力試験Ⅱ部 | 30 | 9 | 13.918 |
総合論文試験 | 20 | 各問4 | 12.113 |
企画提案試験 | 12 | 4 | 5.951 |
それぞれの試験種目には「基準点」、いわゆる足切りが設定されています。基準点を下回ると不合格決定。基準点をクリアすることが最低ラインの目標です。
基礎能力および企画提案では、基準点の設定が低いため、それほど基準点を意識する必要はないでしょう。目指すべき得点ラインは、基礎能力試験ではⅠ部7割、Ⅱ部6割、企画提案試験では12点満点の7~8点以上が目安です。
一方、総合論文試験では、少しミスをするだけですぐに基準点である4点未満の点数がついてします。まずは基準点をクリアすること、これを常に意識して対策する必要があります。仮に基準点を上回っても、6点以下の点数では合格は厳しいでしょう。できれば各問8点で16点、悪くても15点は目指したいところです。
なお、一覧表に掲載していない、政策課題討議試験と人物試験は最高A~Eの5段階で評価されます。E評価をとってしまうと、その時点で不合格決定です。これら2つの試験では、「E評価を避ける」準備をしておくことがポイントです。
3.試験対策の優先順位は?
ここまで、教養区分には5つの試験種目があることを確認しました。基礎能力、総合論文、企画提案、政策課題討議、面接の5種目ですね。どの対策に力を入れるべきなのか、優先順位を見ていきます。
3-1.配点比率で決まるのが基本
国家総合職試験では、試験種目ごとの配点比率が公表されています。配点が高いほど、その種目を失敗した場合のダメージが大きくなるということ。配点比率が高い科目ほど重要、と考えるのが基本です。
国家総合職教養区分 配点比率
試験種目 | 配点比率 |
基礎能力試験Ⅰ部 | 3/28 |
基礎能力試験Ⅱ部 | 2/28 |
総合論文試験 | 8/28 |
企画提案試験 | 5/28 |
政策課題討議試験 | 4/28 |
人物試験 | 6/28 |
国家公務員試験の採点方法は少し複雑です。先に一覧で示した満点・基準点・平均点は「素点」です。この素点を、配点比率に応じた計算式にあてはめて「標準点」に換算します。換算後の点数が受験者の得点となります。
配点比率に応じて計算されるということは、「素点1点の価値」が試験種目によって異なるということ。例えば、基礎能力試験における1点差は換算すると2~4点の差です。企画提案試験も換算後の差はそれほど大きくありません。
ところが、配点比率が最も高い総合論文試験では、素点1点の違いが、標準点では約17点もの差になるのです。総合論文は、1点でも高い点数をとることにこだわって周到に準備すべき、最重要科目です。
3-2.結論的には「1次対策」がほぼ全て
総合論文試験の次に重要なのは、基礎能力試験の対策です。前述のとおり、第1次試験の合否は基礎能力試験の成績のみで決まります。何回受験しても確実に合格ラインを超える、そんな準備が必要です。
一方、企画提案試験および政策課題討議は、内容面というよりは形式面での対策が中心です。その形式面も総合論文対策のやり方次第でほぼ全てカバーできます。
例えば伊藤塾ではゼミで総合論文対策を行います。その中で、政策立案のための基本的な考え方を身に付け、資料の読み込み方・使い方、答案の書き方、議論の仕方をみっちりトレーニングしているので、2次試験に向けては、模擬で本番のシミュレーションをするだけです。
まとめると、国家総合職教養区分対策は、結局のところ第1次試験の対策、ということになります。基礎能力試験、総合論文試験それぞれについて、学習すべき科目と対策のポイントを確認しておきましょう。
4.学習すべき試験科目
4-1.基礎能力試験に向けて
基礎能力試験で目指すべき得点ラインは、配点比率の高いⅠ部で7割、Ⅱ部で6割です。基礎能力でそれだけ点数がとれていれば、他の試験種目で多少失敗してもカバーできるでしょう。
●基礎能力試験Ⅰ部:知能分野
試験種目 | 出題数 |
判断・数的推理 | 16問 |
文章理解 | 8問 |
基礎能力試験のⅠ部は知能分野からの出題で、論理的思考力や情報処理力が試されます。出題数は「判断・数的推理(資料解釈を含む)」が16問、「文章理解」が8問の合計24問です。
教養区分の数的・判断推理は、国家総合職試験の中でも特に難易度が高いのが特徴。16問中8問とれればOKです。
得意・不得意がかなり分かれる科目なので、「このパターンの問題は絶対とる」というものを決めておくことがポイント。捨てる問題を瞬時に判断する力も重要です。しっかり対策しておけば、総合省志望者に人気の併願先である、外資系コンサルの就活にも活かせるでしょう。
一方、文章理解は、8問中8問、全問正解を目指したいところです。合格者はほとんど文章理解で落としません。過半数は英文問題なので、英文読解のトレーニングも必要です。
●基礎能力試験Ⅱ部:知識分野
出題科目 | 出題数 | 主な出題分野 |
自然科学 | 10問 | 数学、物理、化学、生物、地学 |
人文科学 | 10問 | 世界史、日本史、思想、文学・芸術、地理 |
社会科学 | 10問 | 政治、行政、法律、経済、社会、国際関係 |
基礎能力試験のⅡ部は知識分野です。自然・人文・社会(時事を含む)の各科目で10問ずつ、合計30問出題されます。基礎能力試験Ⅱ部で目指すべきラインは6割。30点中17点あたりです。
出題される3科目のうち、自然科学と人文科学は大学入試までの学習経験がモノを言う分野です。範囲が膨大な上、各分野、出題されても1~2問。網羅的に学習するのは、あまりにもコスパが悪すぎます。逆に社会科学は、政治・行政・法律・経済など大学入学後に学ぶ分野が中心です。きちんと対策すれば差をつけられる科目といえるでしょう。
どのように17点をとるかは、これまでの経験や得意・不得意をふまえて、妥当な戦略を立てる必要があります。大学入試で理系科目をみっちり勉強した方は、自然科学でコンスタントに得点できるでしょう。そうでない方は、自然科学は最低限の得点で守り、人文・社会科学で高得点を狙う、というのが現実的です。
4-2.総合論文試験に向けて
繰り返しになりますが、総合論文試験は教養区分に合格するための最重要種目です。Ⅰ部とⅡ部、合計2問出題され、それぞれ傾向が異なります。どのような試験内容か確認していきましょう。
『受験案内』には総合論文試験の内容について次のように記載されています。
総合論文試験 幅広い教養や専門的知識を土台とした総合的な判断力、思考力についての筆記試験 Ⅰ:政策の企画立案の基礎となる教養・哲学的な考え方に関するもの Ⅱ:具体的な政策課題に関するもの |
Ⅰ部で出題されるのは、主に「思考のプロセス」をチェックする問題です。一定の専門的知識をベースに、自分の考えを論理的・説得的にまとめることが求められます。ここでいう専門的知識とは、行政学や政治学など、いわゆる「行政系科目」の知識です。
もちろん人名や著書名といった細かな知識の暗記は不要ですが、理論面を中心に基本部分を理解しておく必要があります。これらの科目の知識が全くない状態では、問題文を分析して出題意図を見抜き、書くべき論点を抽出することは困難でしょう。
Ⅱ部で問われるのは具体的政策論です。的確な現状分析・課題設定と、妥当な解決策の提示が求められます。時事的な重要トピックの理解と、政策立案の基本的なスキルが必要です。
対策としては、新聞などで時事トピックをおさえつつ関連する行政文書を読み込んで自分の意見を整理しておく、というのが基本です。また、政策立案はファクトに基づいたものでなければなりません。財政学や社会政策、国際関係などの学習を通じて、論述のベースとなる「事実」をインプットしておく必要があるでしょう。
総合論文対策として行うべき準備をまとめると次の3つです。
① 論述の前提となる知識をインプット
② 政策立案の基本的な考え方を修得
③ アウトプットの練習
例えば、伊藤塾では次のようなカリキュラムで実力をつけていきます。
①教養区分合格に必要な知識を厳選して講義でインプット
②『国家総合職ゼミ』で政策立案の基本的な考え方を押さえる
③演習で「問題分析→答案構成→答案作成」というアウトプットの練習を積む
ゼミではさらに、出題予想分析に基づくテーマ選定を行った上で、論述素材となりうる行政文書を紹介します。それを読み込み、答案のフレームを組み立て、自身の見解を「答案に書く」形式で整理しておけば、総合論文試験としては万全です。
5.まとめ
いかがでしたか?
国家総合職教養区分の試験について、「地頭勝負」「運の要素が強い」試験だから、対策しようがないと考えていませんでしたか?また、先輩に「特に準備しなくても大丈夫だよ」と言われている方もおられるかもしれません。
本当にそうでしょうか?
もちろん答えはNOです。
教養区分は論理的思考力、事務処理能力を重視する傾向が強いため、「地頭勝負」という印象があるかもしれませんが、合格するためのノウハウは存在します。
先輩がいくら「準備はしなくてもよい」と言ったとしても、それはその先輩の場合はそうだった、というだけのこと。先輩とあなたとでは、準備すべき内容が異なります。
正しい方法で必要な準備をした人が合格する。
そんなあたりまえのことが、教養区分試験にもあてはまります。
過度に恐れることなく、また油断しすぎることもなく。あなたも確実に教養区分合格を狙いませんか?伊藤塾はあなたのチャレンジを応援しています。
