裁判所事務官とは?仕事内容・なり方・試験内容を解説

公務員の基本情報

2023年06月18日

更新日:2025年5月20日

裁判所事務官とは、裁判所ではたらく公務員の一種です。裁判を円滑に進めるための事務に携わります。公務員の中でも専門性のある職種に就きたい、「法律を使う」仕事に就きたいと考える皆さんには、検察事務官と並んで人気の公務員です。

裁判官が主役のTVドラマなどをきっかけに、裁判所での仕事に興味を持ったという方もおられるかもしれませんね?でも実際のところ、事務官になったら何をするのか、どうすればなれるのか、ご存じの方は少ないかもしれません。

今回は、裁判所事務官の仕事内容やキャリアパス、採用試験の試験科目や内容、難易度について解説します。

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1.裁判所で働く公務員とは?

「裁判を受けられること」は憲法で保障された私たちの権利です。その裁判が行われるのが、ご存じ裁判所。そして裁判所ではたらく公務員が裁判所職員の皆さんです。まずは、裁判所がどのような組織なのか、簡単に確認しておきましょう。

1-1.裁判所の組織

裁判所の種類

裁判所には5つの種類があります。最高裁判所、高等裁判所、地方裁判所、家庭裁判所、簡易裁判所の5種類です。

最上級はもちろん最高裁判所で1庁しか存在しません。次のランクは高等裁判所で全国に8庁あります。各高等裁判所はエリアごとに地方裁判所を管轄しています。家庭裁判所・簡易裁判所は、特定の事件を扱う裁判所です。

ちなみに、裁判所事務官を採用する試験は、高等裁判所が置かれている8つのエリア単位で行われます。具体的には、札幌・仙台・東京・名古屋・大阪・広島・高松・福岡が高等裁判所の所在地です。例えば、「京都地裁で働きたい」と思ったら、「大阪高裁管轄区域」で出願することになります。

裁判所内部の組織

各裁判所は「裁判部」と「司法行政部」の2つの部門に分かれています。私たちがイメージする裁判に関する業務を行うのは裁判部です。司法行政部には事務局が設置され、総務・人事・会計など裁判所を機能させるのに必要な業務を行います。

1-2.裁判所職員の種類

法曹資格が必要な裁判官を除くと、裁判所ではたらく公務員には大きく3つの職種があります。①裁判所事務官、②裁判所書記官、③家庭裁判所調査官の3種類で、その主な役割は次のとおりです。

①裁判所事務官

事務官は、裁判部・司法行政部(事務局)にそれぞれ配置され、様々な事務に携わります。裁判所事務官は採用段階で「一般職」と「総合職」に分かれており、それぞれ異なる試験に合格する必要があります。

②裁判所書記官

書記官は、裁判に立ち合い調書を作成するなど、固有の権限を持つ法律の専門家です。採用後いきなり書記官になれるわけではありません。事務官として一定期間勤務した後、研修所入所試験に合格して1年~2年間の研修を修了すると書記官に任官されます。

③家庭裁判所調査官

家裁調査官は、家族関係に関する家事事件や少年事件について、裁判官が判断を下すために必要な調査を行います。独自の試験を受けて「家庭裁判所調査官補」として採用された後、研修を経て調査官となります。

ここからは、最も志願者の多い「裁判所事務官・一般職」について、仕事内容や待遇、試験制度とその対策を詳しく解説していきます。

2.裁判所事務官の仕事・キャリアパス

2-1.裁判所事務官って何する仕事?

裁判所事務官は、裁判部・司法行政部の各部門で事務的な業務を行います。イメージしやすいように、裁判部の事務官が行う仕事の一例をご紹介しましょう。

○裁判関係者に手続を説明するなどの法廷事務
○必要書類を発送する郵便事務
○窓口・電話対応

裁判は、書面でやり取りを行うのが基本。事務官の皆さんは、膨大な量の書類を日々処理します。また、当事者や証人は法廷に足を運び、リアルで参加するのが原則です。来庁する関係者への案内業務も欠かせません。

もちろん、裁判所もデジタル化を進めていこうとしています。民事事件においては、ウェブ会議を利用した手続が一部導入されました。また、裁判書類をオンライン提出できるようにするための準備も進んでいます。裁判所事務官の仕事も、今後変化していくことでしょう。

2-2.総合職と一般職の違い

前述のとおり、裁判所事務官は採用段階で「一般職」と「総合職」に分かれています。それぞれ専用の採用試験を受験して合格しなければなりません。

総合職は裁判所の幹部候補として採用されます。裁判所は、法的紛争を解決するという「司法サービス」を提供するところ。どうすれば、より良いサービスを提供できるか、組織全体を見て政策を立案・実現するのが総合職の役割です。

したがって、総合職の皆さんは、裁判業務も一定程度は経験するものの、主に司法行政部門でキャリアを積んでいくことになります。次にご紹介する「裁判所書記官」として長く活躍したい、という方が目指すべきは一般職です。

2-3.裁判所書記官への道

映画やドラマでよくある法廷のシーンをイメージしてみてください。一番高い席に座っている黒服の人たちは裁判官です。その一段下に、同じように黒い服を着た人が座っています。彼らが「裁判所書記官」です。

裁判所書記官は、裁判手続のプロフェッショナル。固有の権限を有する法律の専門家として次のような役割を担います。

○裁判への立ち合い・調書の作成
○裁判の進行管理(コート・マネジメント)

裁判所書記官は裁判に立ち合って調書を作成します。書記官なしで法廷を開くことはできません。また法令・判例の調査、検察官・弁護士・訴訟当事者との調整や打ち合わせ等を行い、円滑に裁判が進むようマネジメントするのも裁判所書記官の役割です。

裁判所事務官の仕事は、いわば書記官を補助するもの。やがては多くの事務官が、より専門性の高い役割を求めて裁判所書記官を目指します。

裁判所書記官になるためには、一定期間、事務官として経験を積んだ後、研修所の入所試験を受験します。合格すれば、法学部出身なら1年間、他の学部出身なら2年間の研修(裁判所書記官養成課程)を経て、書記官になれるという仕組みです。

3.裁判所事務官になるには

3-1.採用までの流れ

裁判所事務官になるための条件は次の2つです。

条件① 試験に合格すること
条件② 採用の内々定をもらうこと

まずは、①裁判所職員採用試験に合格しなければなりません。合格すると『採用候補者名簿』に高得点順に名前が掲載されます。名簿は8つある高等裁判所の管轄区域ごとに作成され、②それぞれ実際に採用する候補者に内々定の連絡がくる、という流れです。

それぞれの高等裁判所が管轄するエリアは次のとおりです。

高等裁判所の管轄区域(勤務地)

管轄高裁勤務地
札幌高裁北海道
仙台高裁宮城県、福島県、山形県、
岩手県、秋田県、青森県
東京高裁東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、
茨城県、栃木県、群馬県、
静岡県、山梨県、長野県、新潟県
名古屋高裁愛知県、三重県、岐阜県、
福井県、石川県、富山県
大阪高裁大阪府、京都府、兵庫県、
奈良県、滋賀県、和歌山県
広島高裁広島県、山口県、岡山県、
鳥取県、島根県
高松高裁香川県、徳島県、高知県、愛媛県
福岡高裁福岡県、佐賀県、長崎県、大分県、
熊本県、鹿児島県、宮崎県、沖縄県

2024年試験の場合、採用予定数375名に対して1,979名が合格しています。採用は成績順に決まるのが原則。確実に採用されるためには、採用予定数の枠内に入る高順位で合格することが大切です。

3-2.一般職採用試験の概要

2025年裁判所事務官一般職試験(大卒程度)の試験日程や試験科目・内容は次のとおりです。

裁判所事務官・一般職の試験日程

第1次試験

 試験日 5月10日(土)
 発表日 5月29日(木)

第2次試験

 試験日 6月9日(月)~7月7日(月)の指定日
 発表日 7月30日(水)

2次合格=最終合格です。採用予定枠内の高順位で合格していれば、最終合格発表の直後に内々定の連絡がくる、というのが通例です。

内定辞退などで欠員が出ると、年が明けた1~2月頃に声がかかることもあります。また、希望勤務地とは異なる高裁管轄エリアでの採用を打診というレアケースも。もっとも、この時期には別の進路が決まっているでしょうから、悩ましい選択になります。

裁判所事務官・一般職の試験科目・内容

第1次試験

①基礎能力試験
 ・「知能分野」(24題)、「知識分野」(6題) 必須解答
 ・多肢選択式で解答時間は2時間20分

②専門試験
 ・必須解答の試験科目は憲法(10題)と民法(10題)
 ・選択解答の試験科目は刑法、行政法または経済理論(10題)
 ・多肢選択式で解答時間は1時間30分

第2次試験

③論文試験
 ・表現力や課題に対する理解力を試す小論文(1題)
 ・記述式で解答時間は1時間

④人物試験
 ・試験官3名との個別面接
 ・面接カードに沿って質疑応答

基礎能力試験については、他の国家公務員試験(大卒程度・一般職など)と同様、2024年試験から出題数が削減されています。求められる準備は国家公務員一般職と同レベルです。

専門科目試験については3科目だけ学習すればOK。必須科目の憲法および民法と、選択科目の刑法、行政法、経済理論のいずれか1科目です。就職後の業務に直結する内容でもあります。ボリューム的にもモチベーション的にも対策はしやすいといえるでしょう。

③論文試験(小論文)は、2次試験の試験種目ではありますが、試験自体は1次試験日に行われます。2次試験日として指定されている期間に実施されるのは⑤人物試験のみ。指定された日時に個別面接を受けることになります。

なお、2025年の試験より専門試験の内容が変更されます。専門記述試験が廃止されるほか、科目ごとの出題数変更、選択科目の科目追加などが行われます。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。

4.試験の難易度と合格・内定のポイント

4-1.2024年試験結果

2024年に行われた裁判所事務官一般職試験(大卒程度)の申込者は10,945名、合格者は1,979名、合格率は18.1%でした。

前年2023年と比較すると、申込者数・合格者数ともに減少しています。ただし、2022年以前は合格率が10%前後で推移していたことからすれば、合格率は高い水準をキープしているといえます。

管轄高裁別の結果は次のとおりです。

2024年裁判所事務官一般職試験の結果

管轄高裁申込者数合格者数合格率採用予定数
札幌43011927.7%15
仙台62814923.7%25
東京4,10091722.4%140
名古屋1,07517816.6%25
大阪1,8631558.3%65
広島77415319.8%30
高松5648014.2%15
福岡1,51122815.1%60
合計10,9451,97918.1%375
※合格率=合格者数÷申込者数

検察事務官の志望者が受験する国家公務員一般職試験(大卒程度)の同年合格率は29.3%。採用人数や試験科目数などが異なるため、単純比較はできませんが、裁判所事務官一般職は難関試験のひとつと言えるでしょう。

4-2.人物試験が圧倒的に高配点

裁判所事務官一般職試験では、試験種目ごとの配点比率が公表されています。配点が高いほど、失敗できない重要な試験種目ということになります。

裁判所事務官一般職(大卒程度) 配点比率

試験種目配点比率
 基礎能力試験5/20
 専門試験5/20
 論文試験2/20
 人物試験8/20

これを見ると、人物試験(個別面接)の配点が8/20、全体の4割と圧倒的に高いのがわかります。裁判所事務官試験に合格するためには、人物試験の準備を万全にしておくことが不可欠です。

とはいえ、面接試験には失敗のリスクがつきものです。多少ミスがあってもカバーできるように、筆記試験で高得点をとっておくことも重要でしょう。

5.まとめ

いかがでしたか?

裁判所事務官は、「適正・迅速な裁判」の実現を支える、縁の下の力持ちといった存在。裏方ともいえますが、専門的な知識が求められる、やりがいのある仕事です。努力次第で、より専門性の高い裁判所書記官へとキャリアアップできるのも魅力ですね。

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伊藤塾 公務員試験科

著者:伊藤塾 公務員試験科

伊藤塾公務員試験科は一人ひとりの学習経験や環境に応じた個別指導で毎年多くの行政官を輩出しています。このコラムでは将来の進路に「公務員」を考えている皆さんへ、仕事の魅力や試験制度、学習法など公務員を目指すための情報を詳しくお伝えしています。