弁護士の独立開業の実態とは?年収や成功のために必要な準備について解説

法曹

2025年10月31日

司法試験に合格した後は、将来的には自分の法律事務所、つまり弁護士としての独立開業を視野に入れている方もいらっしゃるでしょう。

実際に、弁護士のうち独立開業している人の割合はどのくらいなのでしょうか。

また、独立開業にはどのような準備が必要なのでしょうか。

安定した経営や収入を得るためには、しっかりとした準備が欠かせません。

今回は、弁護士としての独立開業を目指している方に向けて、弁護士が独立開業するメリット・デメリット、独立開業した場合の年収などの実態、独立開業に必要な準備などについて解説します。

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1.弁護士が独立開業するメリット・デメリット

弁護士としての働き方を大きく分けると、勤務弁護士と独立開業する弁護士に分けられます。

勤務弁護士から事務所の共同経営者になる弁護士もいますし、どの働き方が正解ということはありません。重要なのは、さまざまな働き方を知ったうえで自分に合った働き方を見つけることです。

弁護士が独立開業するメリット・デメリットをまとめると、次のようになります。

メリットデメリット
●自由に独立して仕事ができる
●収入アップが期待できる
●収入が不安定になる
●案件処理の相談相手がいなくなる


それぞれの内容を詳しく見ていきましょう。

1-1.メリット

弁護士が独立開業する最大のメリットは、自由に独立して仕事ができることです。司法試験の受験を目指す方の中には、「個人で独立して仕事ができる資格」という点に魅力を感じている方もいらっしゃるでしょう。

独立開業すると、営業時間や取り扱う事件を自分の意思で決められるので、自分のライフスタイルや考え方に基づいた働き方ができます。

さらに、全て自分の収入となるため、取り扱う事件の数や種類によっては、勤務弁護士時代と比べて大幅な収入アップも期待できるでしょう。

ただし、独立開業して自由に仕事をするには安定した収入の確保が必要です。独立開業したからと言って、すぐに自由な働き方ができるわけではなく、最初は経営者としてクライアント(顧客)の信頼を獲得するために、「休みなくどんな事件にも対応する」という姿勢も重要となるでしょう。

1-2.デメリット

勤務弁護士から独立開業するデメリットは、収入が不安定になることです。勤務弁護士であれば仕事量にかかわらず安定した給与を得ることができますが、独立開業したあとは、仕事の依頼がなければ収入もなくなってしまいます。

安定した仕事の依頼と収入をいかに確保できるかが、独立開業する弁護士にとって最も大きな課題となります。

また、独立直後は、身近に案件処理の相談相手がいなくなるのもデメリットです。勤務弁護士であれば、所長や同僚の弁護士に相談しながら案件処理を進められますが、独立してからは自分の判断で仕事を進めなければなりません。

独立開業する際には、所属していた事務所とも良い関係を続けて、同期や友人など周りの弁護士にも相談できる環境を整えておくと安心です。

2.弁護士の独立開業の実態

ここでは、弁護士会が公表しているデータをもとに、次の3つのテーマで弁護士の独立開業の実態を解説します。

 ◉ 独立開業している弁護士の割合
   ◉ 独立開業のタイミング
 ◉ 独立開業した場合の平均年収

弁護士としての独立開業を検討している人にとっては、どのテーマも気になるところでしょう。

2-1.独立開業している弁護士の割合

日弁連が弁護士についての統計をまとめた弁護士白書によると、2024年3月31日現在で1人事務所の数は11,436件でした。すべての弁護士事務所を合計した数は18,470件なので、1人事務所の割合は、約62%となっています。

複数の弁護士で共同して独立開業しているケースや、複数の弁護士が所属する事務所経営者も入れると、法律事務所を経営する立場にある弁護士の割合は、さらに大きくなるでしょう。

実際、キャリアを通じて勤務弁護士を続ける弁護士の割合はかなり低く、多くの弁護士は、どこかのタイミングで独立開業するか、事務所の共同経営者となっています。

参照:弁護士白書 2024年版|日本弁護士連合会

2-2.独立開業のタイミング

下記グラフは、弁護士白書2023年版の中で掲載されている弁護士の弁護士実勢調査について/弁護士の就業形態(司法修習期別)」です。

このグラフを見ると、司法修習を終えて5年目までの71期〜75期で、経営者弁護士の割合は14.1%ですが、10年目までの66期〜70期になると経営者弁護士の割合は44.4%に増加しています。

その後、弁護士経験が長くなるほど経営者弁護士は増えていき、弁護士経験が25年〜30年の46期〜50期では、96.3%が経営者弁護士となっていることがわかります。


弁護士として独立開業するには、実務経験と顧客の確保が重要となります。

最初の数年は、新しく経験する案件への対応に精一杯となり、仮に独立できたとしても営業活動もままならないという人も多いでしょう。5年目にもなると、仕事にも慣れて、仕事を通じた人脈も広がってくるため、独立を意識する人も増えてくるようです。

独立開業のタイミングについて、何年目が最適であるという正解はありません。弁護士となるまでのキャリアや、弁護士となってから積み重ねた経験は人によってさまざまです。人によっては、勤務弁護士を経ずに独立開業する、いわゆる「ソクドク」でも上手くいく人もいます。

独立開業するのなら、周りからの意見に惑わされず自分にとってベストと考えるタイミングで独立するのが良い結果につながる可能性が高いでしょう。

2-3.独立開業した場合の平均年収

弁護士白書2023年版の「経験年収・司法修習別の収入・所得の経年変化」によると、前章で述べた「96.3%が経営者弁護士となっている46期〜50期」の2022年度の収入の平均値は3,220万円、中央値は2,680万円となっています。

46期〜50期の調査対象者全員が経営者ではないため、独立開業した場合のみの年収ではありませんが、経営者弁護士の収入の目安としては概ね妥当な数値だと言ってよいでしょう。

もちろん、経営が上手くいかずに200〜300万円程度の年収にとどまる場合もありますし、逆に一人でも1億円を超える年収に到達している弁護士もいらっしゃいます。

いずれにしても、2022年度のサラリーマン平均給与が458万円であることを考えると、かなりの高収入であることは間違いありません。

※弁護士の年収について、詳しくはこちらの記事で詳しく解説しています。

3.弁護士が独立開業するために必要な準備

弁護士が独立開業を成功させるには、何よりも準備が重要です。独立開業に必要な準備としては、次の3つが挙げられます。

 ◉ 日弁連の支援制度を利用する
 ◉ 独立計画の作成・資金の準備
 ◉ 見込み顧客の確保

それぞれの内容について詳しく解説します。

3-1.日弁連の支援制度を利用する

日弁連には、独立開業する弁護士に向けた次の4つの支援制度があります。

● 独立開業支援メーリングリスト(弁護士登録後満5年未満の弁護士対象)
● 若手会員(弁護士登録後1年未満の弁護士)・修習生向け支援メーリングリスト
● 弁護士偏在解消のための経済的支援の概要と紹介
● 独立開業支援チューター制度

2つのメーリングリストでは、独立開業についての相談や案件処理などの相談ができます。身近な相談相手がいないときには、メーリングリストが心強い味方となるでしょう。

弁護士偏在解消対策地区での開業を検討している方は、弁護士から直接的な経済的支援を受けられます。350万円を上限として無利息での貸し付けを受けられるので、開業資金や運転資金に不安のある方でも、独立開業を進めることができます。

日弁連による支援は、経済的負担なく受けられるものなので、自分にとって有益と感じるものがあれば積極的に利用すると良いでしょう。

参照:日弁連の独立開業支援について|日本弁護士連合会

3-2.独立計画の作成・資金の準備

独立開業を成功させるには、十分に計画を練って、それに応じた資金を準備することが重要です。

独立開業の計画では、次の事項について検討する必要があるでしょう。

 ● 事務所の名称
 ● 事務所の場所
 ● 事務所の大きさ
 ● 事務員の有無
 ● 必要な事務機器・什器・備品
 ● 顧客・案件の獲得手段
 ● 月々の収支の見込み

独立計画を作成したら、それに応じた資金を準備しなくてはなりません。資金の準備についても、自己資金でスタートするのか融資を受けるかなどさまざまな選択肢があります。

3-3.見込み顧客の確保

独立開業の準備において最も重要なのが見込み顧客の確保と集客方法の検討です。独立したときに見込み顧客はいるのか、どのような事件を取り扱うのか、集客方法はどのようにするのかをしっかりと検討するようにしましょう。

独立開業しても、仕事を得られなければすぐに運転資金は底をついてしまいます。独立開業を目指すなら、勤務弁護士のときから見込み顧客の開拓には力を入れることが大切です。

弁護士会によっては、国選事件や役所相談、法テラス相談などが豊富に与えられるところもあります。ソクドクや見込み顧客の確保が不十分なままで独立開業するのなら、弁護士会からの仕事をいかに確保できるかが重要となるでしょう。

4.弁護士が独立開業するためにかかる費用

弁護士が独立開業するためにかかる費用には、次のものが挙げられます。

 ● 事務所の初期費用(敷金・礼金)
 ● 内装費用
 ● 事務機器、什器、備品の費用
 ● 人件費
 ● 当面の運転資金

これらを合計すると、開業までにかかる費用が200万円から300万円ほどで、当面の運転資金を併せて考慮すると最低でも300万円から500万円は準備しておくべきでしょう。

5.独立開業を成功させるためのポイント

弁護士が独立開業を成功させるポイントを3つ挙げると、次のようになります。

 ◉ 十分な見込み顧客を確保したうえで独立する
 ◉ 営業活動に力を入れる
 ◉ リスクマネジメントを徹底する

それぞれのポイントについて詳しく見ていきましょう。

5-1.十分な見込み顧客を確保したうえで独立する

見込み顧客の確保は、独立開業を成功させるうえで何よりも重要です。

勤務弁護士でも、個人事件の受任が許可されているのなら、独立開業前でも事務所の顧客ではなく自分の顧客を確保できるでしょう。

勤務弁護士として事務所事件を担当していても、見込み顧客の確保につながるケースは少ないです。自分が担当する事件の顧客は独立しても自分に付いてきてくれると考えて独立に失敗したケースもありますので、十分に注意してください。

勤務弁護士時代に見込み顧客を開拓する手段としては、弁護士会経由の仕事や異業種交流会が挙げられます。

弁護士会経由の国選事件や役所相談に誠実に対応していれば、顧客から信頼されて、知人を紹介されたり、繰り返し依頼されたりすることもあります。弁護士会経由の仕事で出会った顧客は、事務所を独立したとしても見込み顧客となるでしょう。

異業種交流会では、さまざまな立場や業種の人と出会うことができます。経営者との交流を深めていれば、独立したタイミングで顧問契約をしてくれたり、顧客を紹介してくれたりと応援してくれることもあります。

5-2.営業活動に力を入れる

独立開業した後も、営業活動は重要です。弁護士が営業活動をする主な手段としては、次の3つが挙げられます。

 ● ホームページ
 ● 異業種交流会
 ● 弁護士会経由

現在では、ほとんどの法律事務所がホームページを作成しており、ホームページを開設しているだけで依頼を確保するのは難しい状況となっています。しかし、法律事務所の少ない地域では、ホームページ経由での依頼も期待できますし、それ以外の地域でもホームページは名刺としての役割を果たします。名刺にアドレスを記載しておけば、「安心できる」という印象を与えることができるでしょう。

先ほどの項目でも触れましたが、異業種交流会や弁護士会経由の仕事も重要な営業活動です。人との出会いは積み重ねが重要となるため、すぐには仕事につながらなくても継続することで、大きな仕事へとつながります。

5-3.リスクマネジメントを徹底する

十分な集客ができても、事件処理が追いつかない、体調を崩すなどといった事態になれば意味がありません。集客や事件処理、体調面などの不安を感じるときに備えて、相談できる仲間を作っておくことは重要です。

事務所運営を継続するには、集客と事件処理のサイクルをまわし続けなければなりません。集客が足りないのであれば営業に力を入れる、事件処理が追いつかないのであれば職員を増やすなど、状況に合わせた適切な対応ができれば、事務所は成長し続けるでしょう。

6.弁護士の独立開業についてFAQ

Q1.弁護士が共同経営で独立する場合、作成する「共同経営契約書」で特に重要な項目は何ですか?

A. 特に重要なのは「利益・費用の分配方法」「脱退・解散時の財産処理」「新規パートナーの加入条件」の3点です。金銭に関するルールと、将来の関係性変化に備えたルールを明確に定めておくことで、後のトラブルを未然に防ぐことができます。

Q2.法律事務所を「弁護士法人化」するメリットと、節税効果が出始めるとされる年収の目安は?

A.メリットは、社会保険への加入による福利厚生の充実、支店の設置が容易になること、そして所得に応じた節税効果です。一般的に、弁護士個人の所得が1,500万円を超えてくると、法人成りによる節税メリットが大きくなると言われています。

Q3.独立当初、収益を安定させるため「国選弁護」や「法テラス」の事件を積極的に受けるメリットは?

A.メリットは、国から確実に報酬が支払われるため、開業初期の不安定な収入を下支えできる点です。また、多様な事件処理の経験を積むことができ、実務能力の向上にも繋がります。特に地域社会での信頼構築の第一歩となり、将来的な私選事件の依頼に繋がる可能性もあります。

7.弁護士の独立開業に関するまとめ

Q1.現在、独立開業している弁護士の割合はどのくらいですか?

A.2024年3月31日現在、1人事務所の割合は約62%です。

Q2.弁護士の独立開業に最適なタイミングはありますか?

A.何年目が最適という正解はありませんが、実務経験と顧客の確保が重要とされており、経験年数が長くなるほど経営者弁護士の割合が増加します。

Q3.独立開業した弁護士の平均年収はどのくらいですか?

A.経験25〜30年の経営者弁護士の2022年度の平均収入は3,220万円、中央値は2,680万円です。経営状況によって年収の幅は大きいです。

Q4.弁護士が独立開業を成功させるための準備には何が必要ですか?

A.日弁連の支援制度の利用、独立計画の作成・資金準備、そして見込み顧客の確保が特に重要です。

Q5.弁護士が独立開業するのに必要な費用はどのくらいですか?

A.最低でも300万円から500万円を準備しておくべきだとされています。これには事務所の初期費用、内装、事務機器、人件費、運転資金が含まれます。

Q6.独立開業後の顧客開拓や集客方法には何がありますか?

A.ホームページ、異業種交流会、弁護士会経由の仕事(国選事件、役所相談など)が主な集客手段です。

Q7.弁護士として独立開業する将来性はありますか?

A. 適切な準備と営業活動を継続すれば、十分な顧客と収入は確保できるとされており、将来有望な国家資格と言えるでしょう。

※弁護士の将来性については、こちらの記事で詳しく解説していますので、併せてお読みください。

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著者:伊藤塾 司法試験科

伊藤塾司法試験科は1995年の開塾以来、多数の法律家を輩出し、現在も業界トップの司法試験合格率を出し続けています。当コラムでは、学生・社会人問わず、法律を学びたいと考えるすべての人のために、司法試験や法曹に関する情報を詳しくわかりやすくお伝えしています。