国家総合職法律区分の「専門記述」とは?記述対策のポイントを解説

勉強法

2023年06月18日

国家総合職法律区分の2次試験では、法律の論文を書くいわゆる「専門記述」試験が課されます。

他の公務員試験では実施しない、もしくは実施されたとしても簡単な対策しかしない場合が多いですが、国家総合職試験ではかなりの配点がふられており、対策は必須になってきます。

今回は、最新内定者や合格者の体験談をまじえながら、専門記述試験について、対策のポイントを解説します。

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1.国家総合職法律区分の専門記述とは

1-1.専門記述ってどんな試験?

国家総合職・法律区分試験には、1次試験と2次試験があります。2次試験に合格=最終合格となり、官庁訪問をすることができます。

2023年度の試験科目は、以下のとおりです。

専門記述試験はこの中の2次試験になります。

この試験では、3科目を選択して4時間で3通の論文答案を仕上げます。出題される科目は、憲法、行政法、民法、国際法、公共政策です。公共政策は2題の中から1題しか選択できず、必ず何らかの法律科目を選ぶ必要があります。

配点比率からもわかる通り、この専門記述試験が最終合格の点数にもっとも影響が大きく、ここで高得点とることが上位合格に繋がります。

*2024年度以降の試験では専門記述について、試験準備の負担感が軽減させるため、3題から2題になることが人事院から発表されています。

1-2.専門記述対策のポイント

出題される5科目から3科目を選んで解答するわけですが、1次試験の必須科目でもある、憲法・民法・行政法を選択するのがオーソドックス。1次試験の対策をする中で、2次試験の対策を同時に行うと、効率が良いです。

 具体的には、1次試験対策として学ぶ知識の中には、2次試験で問われる知識が一定数存在します。その知識については、択一試験で解けるのみならず、論述もできるように、併せて対策する必要があります。

「見たら正解がわかる」というのが択一試験で求められる知識レベル。一方、記述式試験では、白紙の答案に、何も見ず自力で文章をアウトプットしていく必要があります。1次試験対策として網羅的な学習を進めつつ、2次試験の頻出範囲については「書ける」形で知識を整理しておくことが重要です。

▼択一対策も含めた総合的な法律区分対策についてはこちら

2.専門記述の科目別対策

2-1.憲法

「憲法」は、法学部の方であれば一度は学習したことがある科目ではないでしょうか。

憲法では、主に人権分野または統治分野から出題されます。人権分野では、表現の自由や職業選択の自由など、行政と干渉することが多い分野が問われる傾向にあります。統治分野では、国会・内閣・司法の基本的な権能に加え、政策への憲法的な問題点などについても問われます。そして、特に最近は統治分野の出題が多くなっています。

問題形式は特殊で、政策案や立案についての具体的な事案を絡めながら憲法的な視点を問われる問題が多く、判例などから憲法的に考える深い思考が必要になってきます。

直近の出題分野「憲法」

年度出題分野
2022年国会議員、政党
2021年違憲審査制度、内閣との関係
2020年(実施なし)
2019年公の支配、租税法律主義、地方自治
2018年入れ墨の禁止、酒類販売の自由
2017年企業の説明責任の促進案
(政治献金、男女格差)
※2020年は新型コロナ対応により、変則的な試験が行われました。第2次試験は政策論文試験と人物試験のみ行われ、専門記述試験は実施されていません。

2-2.行政法

「行政法」は私たち自身が身近に触れる機会はあまりない科目ですが、公務員試験においては頻出です。国家総合職試験で出題される問題は難易度も高く、しっかり学習する必要があります。

行政法では、「処分性」や「原告適格」など、行政事件訴訟法のメジャーな範囲からの出題が多いですが、行政手続法や行政代執行法といった、行政官として知っておくべき法律からも小問として出題されます。押さえるべき論点は多くないですが、定義や基礎的な条文解釈がそのまま問われることもあります。

最近の出題は、1つの事例について複数の小問が出題される形式です。行政法で問われる各法律について、暗記ではない知識の使い方を身につける必要があります。

直近の出題分野「行政法」

年度出題分野
2022年処分性、損失補償
2021年職権取り消しと撤回、訴訟選択、
仮の救済、義務履行確保
2020年(実施なし)
2019年要綱、行政手続法、法律上の利益
2018年処分性、公定力
2017年措置法、処分性、
罰金と過料、行政代執行

2-3.民法

「民法」は、行政書士や宅建といった資格試験でも問われることが多い科目。法学部でなくとも、学習したことがあるという方も多いかもしれませんね?もっとも、国家総合職試験に向けて準備するとなると、範囲がかなり広く苦戦する科目です。

民法では、「代理」や「不法行為」など、メジャーな論点が数多く存在する分野から出題される傾向にあります。専門記述ではそれほど細かな知識は問われませんが、なんせ範囲が膨大。押さえるべきポイントの絞り込みが不可欠なので、独学のハードルは高めかもしれません。

最近の出題傾向は、大問2問に対しそれぞれ小問が複数出題されています。テーマごとの重要条文や論点や押さえられているか、学習のメリハリが大切です。

直近の出題分野「民法」

年度出題分野
2022年成年後見制度、抵当権
2021年委任、監督義務、不法行為
2020年(実施なし)
2019年表見代理、不法行為
2018年物上代位、交換、契約の解除
2017年即時取得、不法行為

2-4.国際法

「国際法」は公務員試験では珍しい科目で、大学で専門的に勉強したことがある方でない限り、なかなか得点源にはしづらい科目です。

主には管轄権を中心とした出題が多いですが、それだけではなく時事的な要素の入った条約や事案を検討材料として、基礎的な用語の説明や解釈を求められます。

最近の出題傾向は、事例を1問出題し、それに関する複数の小問が出題されています。基礎的な用語説明のように見えて、国際法の理解が伴っていないと事案から出題意図が読み取れず、短期間で対策するにはハードルの高い試験になっています。

直近の出題分野「国際法」

年度出題分野
2022年国連海洋法条約、国家の要件
2021年無害通航権、裁判管轄権
2020年(実施なし)
2019年ICJの管轄権、核テロリズム防止条約
2018年集団安全保障、安保理決議、
国際法上の義務
2017年便宜置籍船、臨検、国家管轄権

2-5.公共政策

「公共政策」は2問出題される中の1問を選択することができます。択一では出題されない分野なので、高得点を狙うには、専門知識のインプットから始めなければなりません。ある程度時間をかけてしっかり事前準備を行う必要があります。

主に出題されるテーマは、教育や防災、社会保障、環境問題など、多くの人々に影響を与えるような問題。他の科目と比べても多岐にわたり、予測が難しい内容になっています。

最近の問題形式は、実際の政策や法律案の議論に対して複数の小問について答えるものになっています。添付資料の内容をふまえて解答する必要があり、一見すること答えやすいように見えますが、専門用語の理解が不十分だと点数が伸び悩むので注意が必要です。

直近の出題分野「公共政策」

年度出題分野
2022年A:待機児童問題
B:所得格差と貧困
2021年A:水循環
B:災害者支援
2020年(実施なし)
2019年A:防災対策
B:高等教育の無償化

3.内定者が行った専門記述対策

3-1.内定者が選択した科目

過去複数の内定者に聞く限り、ほとんどの方は「憲法」「民法」「行政法」の準備をして試験に臨んでいます。

その理由として、次のようなものを挙げています。

択一対策として知識を入れているため記述に必要な前提知識を身につけられていた
答案の型がある程度決まっているため、苦手分野でも一定レベルの答案が書ける
③対策期間が1ヶ月程度しかないため、短期間で仕上げられる科目にしたかった

もちろん中には「国際法」や「公共政策」で臨んだ方もいらっしゃいましたが、大学で専門的に学んでおり準備が必要なかったという条件や、実際にいけると思って解いたが法律科目に比べると点数が伸び悩んでギリギリの合格となってしまった、という話も伺いました。

専門記述は法律区分の中で最も配点が高いため、ここでの点数が合格順位に大きく影響します。特に「憲法」「民法」「行政法」はちゃんと準備さえすれば高得点がとりやすい科目なので、内定者の体験談を見ていただき準備の仕方を間違わないようにしましょう!

3-2.伊藤塾出身内定者の体験談

以下では伊藤塾出身の内定者の声をご紹介いたします。

伊藤塾では1次試験準備の段階から記述を意識した講義プログラムになっているため、ゼミと絡めて事前の準備がかなりできるようになっております。

2022年内定者Aさん

まずは佐藤講師の法律区分ゼミを受講し、論文の基本的な型を掴みました。論文対策では、細かい単発の知識を身につけることが主眼になりがちな択一対策と異なり、構造的な理解を深めることができるので、論文の勉強は択一対策にも役立ちます。一次試験直前の4月は択一対策に精一杯になりがちなので、1月〜3月頃に民法・行政法については数回ずつ論文を解くことができていると良いと思います。

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2022年内定者Bさん

専門2次完成講座で扱った過去問の復習とテキストの復習にほとんどの時間をとっていました。専門1次完成講座の中で記述試験のために必要な知識もほとんど伝えてくださるので、一部の論点(特に憲法)のインプットを除いて新たなことは学習する必要はなかったと思います。後は、とにかく記述試験に慣れることです。択一試験と比べて時間が圧倒的に厳しいので、時間を測って過去問を3科目一気に解いてみることも効果的だったと思います。

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2021年内定者Cさん

専門記述の勉強は、民法・行政法に関しては、1次試験対策のときから講義内で、民法であれば、しっかり要件・効果を暗記していくこと、行政法であれば、訴訟要件や用語の定義を暗記していくことを意識するように言われていたため、1次試験対策のうちから2次の記述対策を意識してやっていました。

必要な知識は1次試験対策の講義で教わったことで十分だったので、主に論文の形にする訓練を行っていました。1次試験合格後は、記述用の講義を聴いて、それぞれの科目の書き方や押さえるべきポイントを教わり、何度も演習を行いました。

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4.まとめ

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

択一と異なり、記述対策はハードルが高く感じる方も多いかもしれません。しかし、択一対策の学習をする中で書くべきことを押さえておき、基礎・基本を押さえて本番に臨むことができれば十分合格できる試験です。

また、内定者の対策をみてみると、やはり択一で学習した科目を中心に専門記述も準備される方が多く、先を見据えて択一対策の段階から準備しておけば決して慌てるような試験ではありません。

この記事が、公務員をすでに目指している方、迷っている方のお役に立てれば幸いです。伊藤塾はあなたのチャレンジを応援しています。

伊藤塾 公務員試験科

著者:伊藤塾 公務員試験科

伊藤塾公務員試験科は一人ひとりの学習経験や環境に応じた個別指導で毎年多くの行政官を輩出しています。このコラムでは将来の進路に「公務員」を考えている皆さんへ、仕事の魅力や試験制度、学習法など公務員を目指すための情報を詳しくお伝えしています。