中小企業診断士の補助金申請が違法に?2026年法改正の影響と3つの対策
基本情報
2025年12月11日
2026年(令和8年)1月1日、「行政書士法の一部を改正する法律」が施行されます。
特に注目されているのが、第19条に加わった、「他人の依頼を受けいかなる名目によるかを問わず報酬を得て」という文言です。
行政書士法第19条「業務の制限」
| 現在 | 行政書士又は行政書士法人でない者は、 業として第一条の二に規定する業務を 行うことができない。 |
| 2026年1月〜 | 行政書士又は行政書士法人でない者は、 他人の依頼を受けいかなる名目によるか を問わず報酬を得て、業として第一条の 三に規定する業務を行うことができない。 |
これまで抜け道になっていた、「コンサルタント料・手数料」として補助金申請の報酬を受け取るやり方を「違法」であると明記したのが本改正の内容です。
実務上、中小企業診断士の補助金申請にも大きな影響があると言われています。
そこで本記事では、補助金業務に関わる中小企業診断士の方に向けて、2026年の法改正がどう影響するのか、適法に業務を続けるためにはどうすればよいのかを解説していきます。
改正後も安心して補助金業務をできるよう、今のうちから正しい知識を押さえておきましょう。
【目次】
1. 中小企業診断士の補助金業務が違法になった?「改正行政書士法」をやさしく解説!
2026年(令和8年)1月1日、改正行政書士法が施行される予定です。
この改正で、中小企業診断士の補助金業務に影響するのが、新たに追記された、「他人の依頼を受けいかなる名目によるかを問わず報酬を得て」という文言です。
(業務の制限)
第十九条 行政書士又は行政書士法人でない者は、「他人の依頼を受けいかなる名目によるかを問わず報酬を得て」、業として第一条の三に規定する業務(※官公署に提出する書類の作成など)を行うことができない。
1-1.「補助金の申請書類」の作成・提出も行政書士の独占業務に含まれる
今回の改正により、行政書士以外が報酬をもらって官公署に提出する書類を作成・提出することが、理由を問わず、「明文で」禁止されました。
補助金申請書の提出先は、民間企業が運営する事務局なので、厳密にいえば「官公署」ではありません。ただ、国の「履行補助者」としての地位を有するため、「官公署」に含まれるという解釈が一般的です。
そのため、中小企業診断士が関わることの多い
● 小規模事業者持続化補助金、ものづくり補助金などの申請
● 補助金申請に必要な事業計画書の作成
なども、行政書士の独占業務という扱いになります。
1-2. 改正によって、「新たに」違法となったわけではない
実はこれまでの法律でも、補助金申請書類の作成は「行政書士の独占業務」とされていました。
◉2025年(令和7年)12月までの条文(旧法)
(業務の制限)
第十九条 行政書士又は行政書士法人でない者は、業として第一条の二に規定する業務(※官公署に提出する書類の作成など)を行うことができない。
ただ、現実には、「会費・手数料・コンサルタント料」といった報酬以外の名目で対価を受け取り、無資格で補助金申請をしている業者がたくさんいました。
中小企業診断士のなかにも、表向きは「補助金の申請は報酬をもらっていない」としつつ、「コンサルタント料」などの名目で対価を受け取っていたケースがあったと言われています。
そこで、法の抜け道のようになっていた行為を、「他人の依頼を受けいかなる名目によるかを問わず報酬を得て」という文言を追加して抑制したのが今回の改正趣旨です。
今までと同じように補助金申請を扱っていると、より厳しく取り締まりを受ける恐れがあるので注意しましょう。
※行政書士法の改正点は、以下の記事でも詳しく解説しています。
1-3. 補助金業務で違法となった場合の罰則
改正行政書士法に違反した場合、「1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金」という罰則が科される可能性があります。
第二十一条の二
第十九条第一項の規定に違反したときは、その違反行為をした者は、一年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。
刑事事件として扱われれば、逮捕されたり、前科が付いたりする恐れもあります。
さらに、拘禁刑が確定すれば、登録が取り消されるため、刑の執行後3年間は中小企業診断士としての活動ができなくなります。
2. どこから違法になる?中小企業診断士の補助金業務OK・NGの具体例
補助金の申請書類の作成・提出は行政書士の独占業務だと説明しましたが、中小企業診断士が補助金業務に一切関われなくなるわけではありません。
今後、どのような形で補助金業務を扱っていくべきなのか、違法とならないケース・なるケースを確認していきましょう。
2-1. 補助金業務が違法とはならないケース
補助金業務が違法となるのは、必要な書類(申請書・事業計画書など)を、「中小企業診断士が作成・提出した場合のみ」です。
書類を作成せず、補助金を活用するためのコンサルティング業務だけを提供していれば、行政書士法違反とはなりません。
改正をきっかけに、「コンサルティングもグレーゾーンなのでは?」という意見も出ていましたが、ある企業が「補助金活用型経営コンサルティングの提供」について総務省に照会したところ、以下のような回答がされました。
一般論として、顧客が、官公署に提出する書類その他権利義務又は事実証明に関する書類を作成するために、個別に「今後の収益計画および調査結果をまとめた資料を作成・提供」することは、行政書士法第1条の2第1項に規定する「官公署に提出する書類その他権利義務又は事実証明に関する書類を作成すること」には該当しないと考えられる。
(引用:総務省|グレーゾーン解消制度の活用事例「補助金活用型経営コンサルティングの提供」)
したがって、中小企業診断士が行う補助金サポートについても、参考資料の提供に留まる限り、違法とはならないと考えられます。
ただ、上記回答には、下記のような留意点も付されています。
なお、照会書に記載の①~⑦の事業の実施が、同項に規定する官公署に提出する書類その他
権利義務又は事実証明に関する書類の作成とならないよう留意いただくとともに、顧客に対し、これらの書類を作成することができるのは、顧客又は行政書士若しくは行政書士法人に限られることを案内いただきたい。
現時点では、「どこまでなら許されるのか」を判断するのは至難の業です。
「事業計画書の添削をどこまでしてもよいのか?」
「どこまでが助言の範囲なのか?」
「他の目的で作った事業計画書を、補助金申請に利用するのはNGなのか?」
など、グレーゾーンとなる部分が多く残されています。
2-2. 補助金業務が違法となる可能性が高いケース
一方で、以下のような行為は、行政書士法違反と判断される可能性が高いです。
● 申請者本人に代わって、申請フォームの入力を代行して報酬を受け取る
●「コンサルティング料」という名目で、書類作成の報酬を受け取る
●「顧問契約の一部」と称して、補助金申請書や事業計画書などを作成する
●「添削」という名目で書類の大半を作成し、依頼者名義で申請する
これらの行為は、名目がどうであれ、実質的に「書類作成の代行」とみなされる可能性が高いです。無資格者によるサポートとみなされると、行政書士法違反はもちろん、補助金の返還が必要になったり、依頼主から損害賠償請求を受けたりする恐れもあります。
実務では経営者から「書類をすべて作ってほしい」と頼まれるケースも多くあるでしょう。そのような依頼に対しては、「違法なのでできない」と断る強い意思が必要です。
3. 補助金を扱っていた中小企業診断士は今後どうするべき?
ここまで説明したとおり、行政書士法の改正で、中小企業診断士が扱える補助金業務の範囲が変わったわけではありません。ただ、線引きがハッキリしたことで、現実的にマイナスの影響が出てくる可能性は高いです。
では、これまで補助金をメインにしていた中小企業診断士は、今後どうしていくべきなのか。考えられる対策を3つ紹介します。
● サポート体制を見直しつつ、補助金以外の業務にも力を入れる
● 行政書士事務所(法人)と連携する
● 行政書士とのダブルライセンスを取得する
それぞれ詳しくみていきます。
3-1. サポート体制を見直しつつ、補助金以外の業務にも力を入れる
1つ目の対策は、補助金業務のサポート体制を見直しつつ、他の業務にも力を入れることです。
中小企業診断士の仕事は、なにも補助金申請のサポートだけではありません。もっとも得意としている「経営コンサルティング」だけでも、できることは無限にあります。
● 資金調達(融資など)
● マーケティング支援
● 採用や人事制度の構築
● DXやシステム開発・導入の支援
● 事業承継、M&Aの仲介 など
補助金業務は適法な「助言」や「コンサルティング」の範囲に狭めつつ、こうした業務へシフトしていくのも、一つの選択肢でしょう。
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3-2. 行政書士事務所(法人)と連携する
2つ目の対策は、行政書士事務所や行政書士法人と連携することです。
この場合、中小企業診断士は「事業計画の策定支援」という経営コンサルティング業務に専念します。そして、補助金の申請書類の作成や提出といった行政書士の独占業務にあたる部分は、パートナーの行政書士に担当してもらいます。
それぞれの専門性を活かせるので、補助金の採択率アップという意味でもメリットが大きいでしょう。クライアントにとっても、より満足度の高いサービスを受けられます。
ただし、トラブルを防ぐために、お互いの報酬の配分、業務上の責任の所在などは、しっかりと決めておくことが大切です。
3-3. 行政書士のダブルライセンスを取得する
3つ目の対策は、中小企業診断士自身が行政書士の資格を取得する(ダブルライセンスを持つ)ことです。
これが最も確実かつ強力な解決策と言えるでしょう。自分一人で適法に、経営コンサルの段階から補助金申請書類の作成・提出代行まで、すべての業務を担当できるようになるからです。
行政書士試験は、中小企業診断士試験と同じくらい難しい試験なので、かなりの努力が求められます。
ただし、学習のやり方次第では、最短3ヶ月〜半年程度でも合格を目指せるため、学習期間に見合ったリターンは得やすいはずです。
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4. 中小企業診断士が行政書士の資格を取るメリットは?
4章では、中小企業診断士が行政書士の資格を取ると、具体的にどのようなメリットがあるのかを、さらに詳しく見ていきます。
中小企業診断士が行政書士の資格を取るメリット3つ
● 補助金業務のスペシャリストになれる
● 予防法務の面からもサポートできる
● 希少価値が劇的に高まる
4-1. 補助金業務のスペシャリストになれる
ここまで、補助金の申請書類の作成・提出は行政書士の独占業務だとお伝えしました。
しかし、実は行政書士「だけ」でもスムーズな補助金申請はできません。なぜなら、行政書士は書類作成のプロですが、経営の専門家ではないからです。
補助金申請での両者の役割を整理すると、以下のようになります。
中小企業診断士
→「事業計画(経営面)の専門スキルがあるが、申請書の作成・提出は行政書士法により行えない…」
行政書士
→「申請書の作成・提出はできるが、事業計画(経営面)の専門知識が不足している…」
つまり、両者は補助金申請において、対照的な立場にあるのです。
そのため、ダブルライセンスを獲得すれば、申請実務も経営コンサルティングもできる補助金のスペシャリストとして活躍できます。
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4-2. 予防法務の面からもサポートできる
行政書士の業務範囲は、補助金申請だけではありません。契約書の作成やチェック、許認可申請、会社設立など、幅広い業務を扱えます。
特に注目したいのが、「予防法務」の分野です。
中小企業で顧問弁護士がいるケースは少なく、法務部などもない会社がほとんどです。そのため、たとえば取引先との契約時に、リーガルチェックが不十分なまま契約を締結してしまい、後からトラブルに発展するケースは少なくありません。
行政書士になれば、経営コンサルティングとあわせて、法務面からも企業をサポートできます。クライアントにとっても、経営と法務の両方を相談できる相手がいることは、大きな安心材料になるはずです。
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4-3. ダブルライセンスの保有率はわずか7.4%!希少価値が劇的に高まる
中小企業診断士と行政書士のダブルライセンスを持つ人は、実はかなり少数です。
日本中小企業診断士協会連合会の調査によると、都道府県協会に所属する中小企業診断士のうち、行政書士の資格も持っている人の割合は、わずか7.4%にとどまります。
(出典:中小企業診断協会|「中小企業診断士活動状況アンケート調査」結果(令和3年5月))
「経営コンサルから補助金申請まで一貫して任せられる専門家」という存在は、非常に希少性が高いのです。
さらに、行政書士の資格があることで、新規顧客の獲得もしやすくなります。補助金申請をきっかけに出会ったクライアントから、経営コンサルティングの依頼も受けるという、理想的な仕事の流れも期待できます。
5. 中小企業診断士が行政書士を目指すなら伊藤塾がおすすめ
ここまで、中小企業診断士が行政書士の資格を取るメリットを紹介してきました。
「補助金業務のスペシャリストとして活躍したい」
「予防法務の面からもクライアントをサポートしたい」
「希少価値を高めて差別化を図りたい」
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さらに、2,800人を超える実務家が参加する同窓会組織「i.total(秋桜会)」の設立や、第一線で活躍する行政書士を招いた「明日の行政書士講座」の開催など、合格後のサポート体制も充実しています。
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6. 中小企業診断士の補助金業務に関するよくある質問(FAQ)
Q. 改正前は、補助金の申請代行をしても違法ではなかったのですか?
いいえ。これまでも補助金申請書類の作成は行政書士の独占業務とされていました。
ただ、現実には「コンサルタント料」「手数料」などの名目で対価を受け取り、書類作成を代行しているケースが多くありました。
今回の改正は、こうした行為を改めて禁止するものです。
Q. 成功報酬なら、補助金の申請代行で報酬をもらってもよいですか?
いいえ。今回の改正で追加された、「いかなる名目によるかを問わず報酬を得て」という文言は、まさにこうした抜け道を防ぐためのものです。
成功報酬、顧問料、コンサルタント料など、名目を問わず、補助金書類作成の対価として報酬を受け取ることは違法となります。
Q. 中小企業診断士は補助金業務に一切関われなくなったのですか?
A. いいえ。違法となるのは、補助金の申請書類や事業計画書などを「作成・提出」する行為です。補助金を活用するための経営コンサルティングや、参考資料の提供であれば、引き続き行うことができます。
Q. 無料で補助金申請のアドバイスをすることは問題ありませんか?
A. はい。無償であれば、行政書士法違反にはなりません。
ただし、「無料」という名目で、実質的に有償のサービスを提供している場合(例:顧問契約料に含まれているなど)は、違法と判断される可能性があります。
Q. 行政書士試験に合格するには、どれくらいの勉強が必要ですか?
A. 一般的に800~1000時間程度の勉強が必要だと言われています。
ただし、絶対評価の試験なので個人差が大きいです。学習のやり方によっては、3ヶ月~半年程度で合格する人もいます。
※行政書士試験の合格に必要な勉強時間については、こちらの記事で詳しく解説しています。
7. 中小企業診断士の補助金について・まとめ
本記事では、行政書士法の改正に伴う中小企業診断士の補助金業務に対する影響の対策について詳しく解説しました。
以下にポイントをまとめます。
- 2026年(令和8年)1月1日に「行政書士法の一部を改正する法律」が施行されます。この改正により、行政書士でない者が「他人の依頼を受けいかなる名目によるかを問わず報酬を得て」業として官公署に提出する書類(補助金申請書など)を作成・提出する業務を行うことができなくなります。
- この改正は、これまで法の抜け道となっていた「コンサルタント料・手数料」といった報酬以外の名目で対価を受け取り、補助金申請を代行する行為を明確に「違法」とするものです。
- 実務上、小規模事業者持続化補助金やものづくり補助金などの申請書類や、それに必要な事業計画書の作成も行政書士の独占業務扱いとなります。
- 改正行政書士法に違反した場合、「1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金」が科される可能性があり、拘禁刑が確定すると中小企業診断士としての活動が制限されます。
- 中小企業診断士が違法とならないケースとしては、申請書類を作成・提出せず、補助金を活用するためのコンサルティング業務のみを提供することや、参考資料の提供に留めることなどが挙げられます。
- 「コンサルティング料」や「顧問契約の一部」と称して実質的に書類作成の報酬を受け取ったり、申請フォームの入力を代行したり、添削名目で書類の大半を作成したりする行為は、違法と判断される可能性が高いです。
- 今後の対策として、補助金以外の業務(資金調達、マーケティング支援、M&A仲介など)へのシフト、行政書士事務所との連携、そして行政書士のダブルライセンスを取得することが最も確実で強力な解決策として推奨されます。
- ダブルライセンスを取得することで、経営コンサルティングと申請実務の両方を担える補助金業務のスペシャリストとして活躍できます。
- 中小企業診断士のうち行政書士資格を持つ人の割合はわずか7.4%であり、ダブルライセンスは希少価値を劇的に高め、予防法務の面からもクライアントをサポートできるようになります。
「補助金業務のスペシャリストとして活躍したい」
「予防法務の面からもクライアントをサポートしたい」
「希少価値を高めて差別化を図りたい」
こうした目標を実現する鍵が、行政書士のダブルライセンスです。
法律資格専門の受験指導校である伊藤塾は、1995年の開塾から今日まで、5,800人を超える行政書士合格者を輩出してきた確かな実績があります。伊藤塾では、単に試験に合格するだけでなく、中小企業診断士としてのコンサルティング業務にも直結する「実務家として考える力」や「実務家として活躍するための力」を養うための指導に力を入れています。
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