労働基準監督官の難易度はなぜ高い?合格のポイント・仕事内容などを解説

公務員の基本情報

2025年01月22日

労働基準監督官は、公務員試験の中でも難しい試験だと言われています。

・他の試験と比べて倍率が高め
・労働法や労働事情の対策が必要
・人物試験(面接)が厳しい


こういった理由から、「労働基準基準監督官=難しい」というイメージを持っている人も多いでしょう。しかし、正しい対策をすれば十分に合格できる試験です。仕事内容について理解を深めて、正しいノウハウで人物試験の対策をすれば、必ず内定を勝ち取れるはずです。

本記事では、次の点を取り上げました。

◉この記事を読んでわかること
・労働基準監督官試験の流れ
・難易度が高いと言われる理由
・合格するためのポイント
・オススメの併願先 など


労働基準監督官試験に興味がある方は、ぜひご一読ください。

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1.労働基準監督官とは?

労働基準監督官は、厚生労働省に所属する国家公務員の専門職です。

労働基準法令に基づいて、あらゆる事業場に立ち入り、調査や監督指導、捜査などを行っています。他の公務員との大きな違いは「司法警察権」を持っていることです。

※司法警察権とは?
刑事訴訟法に基づいて取り調べや捜索・差押え、逮捕などの強制捜査を行う権限のこと。
麻薬取締捜査官や海上保安官など、限られた公務員にだけ認められている。


デスクワークがメインの公務員とは一線を画しており、どちらかといえば警察や検察事務官に近い仕事ともいえるでしょう。働く人を守るために、労働基準監督法令のプロフェッショナルとして日々活躍しているのです。

1-1.労働基準監督官の仕事

労働基準監督官の仕事は、大きく4つに分けられます。

・監督指導業務
・司法警察業務
・安全衛生業務
・労災補償業務


「監督指導業務」は、事業場に立ち入って労働条件などの調査や指導を行う仕事です。労働基準関係法令の遵守を徹底させ、違反が認められれば是正勧告や行政処分を行うこともあります。

一方、「司法警察業務」では、監督指導に従わなかったり、重大・悪質な法令違反があったりする事業所について、司法警察職員として捜査を行います。監督指導と比べると、犯罪捜査としての側面が強くなり、検察庁へ送検する場合もあります。

「安全衛生業務」は、労働災害防止に向けた取り組みが中心です。機械設備の検査を行ったり、労働災害の原因を調査したりして、働く人の安全を守る仕事です。

「労災補償業務」では、労働者の業務上の負傷や疾病について、事実関係を調査して保険給付を行います。

1-2.労働基準監督官試験の流れ

労働基準監督官になるためには、「労働基準監督官採用試験」に合格して、各労働局の採用面接を突破することが必要です。

試験は、筆記試験と人物試験、そして採用面接の3段階で行われます。

「筆記試験」では、基礎能力試験と専門試験が実施されます。

基礎能力試験で出題されるのは「数的処理」や「文章理解」など、他の公務員試験とも共通する内容です。

一方、専門試験の内容は、労働基準監督官A(法文系)とB(理工系)で変わってきます。

文系学部出身者の場合、基本的には「労働基準監督官A」を目指すことになるでしょう。

試験試験種目配点
比率
内容
労働基準監督官A
(法文系)
労働基準監督官B
(理工系)
第1次
試験
基礎能力
試験
2/730題
■知能分野 24題

(文章理解⑩、判断推理⑦、数的推理④、資料解釈③)
■知識分野 6題

(自然・人文・社会に関する時事、情報⑥)
専門試験
(多肢
選択式)
3/748題(うち40題を選択して解答)
■必須12題

(労働法⑦、労働事情⑤)
■選択36題(28題を選択)
(憲法、行政法、民法、刑法⑯)
(経済学、労働経済・社会保障、社会学⑳)
46題(うち40題を選択して解答)
■必須8題

(労働事情⑧)
■選択38題(32題を選択)
(工学に関する基礎㊳)
専門試験
(記述式)
2/72題出題、2題解答
■労働法①
■労働事情①
4~6題出題、2題解答
■必須 工業事情1題
■選択 工学に関する専門基礎
第2次
試験
人物試験人柄、対人的能力などについての個別面接
身体検査主として胸部疾患(胸部エックス線撮影を含む。)、血圧、尿、その他一般内科系検査

なお、専門試験(記述式)は第1次試験として実施されますが、第1次試験の合否には影響しません。基礎能力試験・専門試験(多肢選択式)で合格した人のみを対象に評定されて、最終合格者決定の際に用いられます。

2.労働基準監督官試験の難易度が高いと言われる理由

労働基準監督官試験は、他の公務員試験と比べて難しいと言われています。

その理由として、大きく4つの要因が考えられます。

・試験の倍率が高い
・労働法・労働事情の記述対策が必要
・人物試験(面接)が厳しい
・「最終合格=採用」ではない


ただし、実際には決して難易度が高いわけではなく、正しい対策をすれば十分に合格することができます。それぞれの理由を詳しく見ていきましょう。

2-1.国家専門職の中では倍率が高めだから

労働基準監督官試験は、比較的倍率の高い試験です。

直近3年間の倍率は「平均3.7倍」となっており、国家専門職試験の中では高めの倍率です。

併願先として比較されることの多い国税専門官は「平均2.7倍」、財務専門官は「平均2.5倍」でいずれも労働基準監督官を下回っています。

 2024年度2023年度2022年度
労働基準監督官A3.5倍3.8倍3.8倍
国税専門官2.5倍3.0倍2.7倍
財務専門官2.4倍2.8倍2.2倍

ただし、公務員試験全体で考えるとそれ程高くはありません。

例えば「裁判所事務官試験」では、3倍〜5倍の倍率になるのが通常ですし、地方上級試験も倍率が4倍を超える自治体は多いです。

また、倍率が高いからといって、必ずしも財務専門官・国税専門官より難しいとも限りません。筆記試験の問題や科目数、人物試験の仕組みが異なるので、比べようがないからです。

「国家専門職の中では、労働基準監督官に興味がある」という人は臆する必要はありません。しっかりと準備して臨めば、十分に合格できる試験です。

2-2.労働法・労働事情の対策が必要だから

労働基準監督官試験に合格するには、労働法・労働事情の対策が欠かせません。 

これら2科目の配点が大きく、特に記述式の得点は全体の30%近くを占めているからです。

一方で、労働法・労働事情の対策が必要な公務員試験は多くありません。

例えば、地方上級では労働法・労働事情が出題されることもありますが、配点は低く、十分な対策をしている受験生は少ないです。また、記述式の対策は全く行っていないケースが通常でしょう。地方上級試験に向けた対策だけでは、十分とは言えません。

ただし、労働法・労働事情の対策自体は、さほど難易度の高いものではありません。合格ラインもそれほど高くないため、年明けから専門科目の対策を始めても十分に間に合うでしょう。

「労働基準監督官として働く準備をしている」という気持ちで臨めば、受験対策を過度に恐れる必要はありません。

2-3.人物試験(面接)が厳しいから

労働基準監督官試験では、面接で不合格となる人がかなりの割合を占めています。

2次試験では合否のみが判定されるため、筆記試験でいくら高得点を取っても、面接で評価されなければ不合格となってしまいます。

【労働基準監督官A(法文系)の1次試験・2次試験の倍率】
 2024年度2023年度2022年度
申込者数2,4612,4322,254
受験者数1,1861,1461,216
合格者数1,0099681,077
1次試験の倍率1.17倍1.18倍1.12倍
受験者数792776892
最終合格者数336298319
2次試験の倍率2.35倍2.6倍2.79倍

最終合格点や平均点からも、多くの受験生が人物試験で不合格となっていることが分かります。実際にデータで確認してみましょう。

2024年の労働基準監督官試験Aでは、最終合格点が「353点」でした。つまり、筆記試験の合計点が353点以上であれば、最終合格することができます(ただし、専門試験(記述式)の基準点を満たす必要があります)。

一方で、筆記試験で「353点」というのは決して高い得点ではありません。例えば、2024年度試験では、基礎能力・専門(多肢選択式)が平均点以下でも、2次専門試験(記述式)で基準点を取るだけで353点(最終合格点)に達します。

(専門(記述式)で基準点(60/200点)を取った場合の標準点は83点)

【2024年 労働基準監督官Aの最終合格ボーダー】

 基礎能力試験の点数








  15141312111098
 標準点1281181089887776757
18210
17200
16190
15180
14170
13160
12150
11140
(2024年度試験 基礎能力試験平均:16.412/30点、専門試験(多肢選択式)平均:18.406/40点、2次専門試験(記述式)基準点:60点・平均点:96.031点)

・青=「専門(記述式)」が基準点以上なら最終合格できるライン
・黄=「専門(記述式)」の結果によって最終合格点に達するライン
・赤=「専門(記述式)」に関わらず不合格
※労働基準監督官試験の得点は、受験生の平均点、配点比率、標準偏差など、様々な要素が加味された「標準点」によって決定されます。「筆記試験の点数=得点」ではありません。

そうすると、不合格者の大半が「得点不足」ではなく、第2次試験(人物試験)の「合否判定」で不合格になっていると考えられます。労働基準監督官を目指すなら、十分な人物試験対策が欠かせません。

ただし、過剰に心配する必要もありません。労働基準監督官試験では、面接の評定項目が決められており、効果的な対策が確立されているからです。

後述するコンピテンシー(行動特性)評価を念頭に自己分析を深めれば、人物試験も十分に突破できます。

2-4.「最終合格=採用」ではないから

難易度が高い理由として、もう一つ見逃せないのが「最終合格=採用」ではない点です。

最終合格は、あくまでも採用候補者名簿に名前が記載された状態に過ぎません。実際に労働基準監督官として採用されるには、労働局の面接で内定を獲得する必要があります。つまり「せっかく最終合格したのに採用されなかった」というケースも十分に想定されるのです。

実際、人事院のデータによれば、2022年度の労働基準監督官採用試験でも28名が採用漏れとなっています。

※463名(名簿記載者)−195名(採用者)−240名(辞退・無応答者)=28名(名簿残存数)

 名簿
記載者数
採用者数辞退・
無応答者数
(※参考)
名簿残存数
2022年度
労働基準監督官
463名195名240名28名
出典:公務員白書(令和5年度 年次報告書)|人事院

辞退・無応答者数「240名」の中には、「内定を得られなかったので諦めて辞退した・連絡しなかった」という人も含まれています。

さらに、採用された人の中にも「希望する県では採用されなかった」「思ってもいなかった地域で採用された」という人が少なくありません。最終合格したからといって、必ず希望する都道府県の労働局で働けるわけではないのです。

希望する労働局から内定を獲るには、人物試験対策を早めにスタートして、志望動機や熱意、自分の強みをわかりやすく伝える練習をしておくことが必要です。

3.労働基準監督官試験に合格するポイント

それでは、労働基準監督官試験に合格するには、どのようなポイントを意識して対策すればいいのでしょうか?合格に欠かせない3つのポイントを説明します。

・法律科目を中心に幅広く勉強すること
・仕事内容をしっかりと理解すること
・人物試験対策を早めにスタートすること


それぞれ見ていきましょう。

3-1.法律科目を中心に幅広く勉強する

労働基準監督官試験では、労働法を中心とした法律科目の出題が多くなっています。

これは、労働基準監督官の仕事が、労働関連法規の運用だけでなく、事業者に対する指導・監督、司法警察としての捜査など多岐にわたるためです。

試験対策としてはもちろん、採用後の実務においても、労働法、憲法、民法、行政法、刑法などの幅広い法律知識が求められます。法律的な考え方を身につけて、これらの法律科目を重点的に攻略することが合格への近道となるでしょう。

3-2.仕事内容をしっかりと研究して理解を深める

仕事内容について理解を深めておくことも大切なポイントです。

労働基準監督官の面接では、必ずといっていいほど、労働基準監督官の仕事内容に関連した質問がされるからです。

「労働基準監督官の仕事をわかりやすく説明してください」
「あなたが労働基準監督官として取り組みたい仕事を教えてください」 など


テンプレート的な文章を覚えるだけでは、面接官の心に響く解答はできません。

表面的な内容だけを覚えるのではなく、自分の言葉でわかりやすく説明できるレベルまで落とし込むことが必要です。

HPやパンフレットを読み込むだけでなく、働いている人の生の声にも触れてみましょう。

・業務説明会に参加して、積極的に質問してみる
・大学のOB・OG訪問などをしてみる
・受験指導校や予備校で合格した先輩を探してみる など


仕事内容の理解が深まるほど、面接での受け答えにも説得力が出てきます。

3-3.人物試験対策を早めにスタートする

人物試験対策は、できる限り早めにスタートしましょう。

前述のとおり、労働基準監督官試験では人物試験対策に力を入れる必要があるからです。また、労働基準監督官に関わらず、最近の公務員試験では人物試験の比重が大きくなっています。地方上級、国家一般職と併願する意味でも、面接対策は力を入れて行いましょう。

1次試験が終わってからでは遅いので、筆記試験の勉強と並行して進めることが得策です。

なお、公務員試験の人物試験は、「コンピテンシー(行動特性)評価」によって評価されます。基本的な評定項目としては、以下を念頭に置くと良いでしょう。

・積極性(意欲、行動力)
・社会性(他者理解、関係構築力)
・信頼感(責任感、達成力)
・経験学習能力(課題の認識、経験の適用)
・自己統制(情緒安定性、統制力)
・コミュニケーション力(表現力、説得力)


実際の面接では、自己PRや志望動機、学生時代に頑張ったこと、集団での役割、ストレス耐性などが時間をかけて質問されます。面接官は、様々な角度からの質問を受験生に投げかけることで、上記のような項目を評価しようとしているのです。

したがって、「評定項目」を事前に把握し、高評価を得られる「エピソード」を準備しておくことが効果的です。

・今までの人生を振り返ってみる
・学生時代に取り組んだことを、全て書き出してみる
・家族や友人に自分のこと(長所・短所・性格など)を聞いてみる など


筆記試験対策と並行して自己分析を行い、自分だけの「エピソード」を準備しておきましょう。

4.労働基準監督官は国家一般職との併願がオススメ

労働基準監督官試験の受験を考えている人は、国家一般職との併願がおすすめです。

「基礎能力試験」が共通しており、「専門試験」も多くの科目が重なっているからです。

改めて勉強する量が少ないので、効率的に対策を進められるでしょう。さらに、採用される省庁によっては、労働基準監督官と同じようなやりがいを持った仕事を選べる可能性もあります。

一例として、「労働局」や「地方検察庁」が挙げられます。

4-1.労働局

労働局に採用されると、労働基準監督官と同様に「労働行政」に携わることができます。

採用後は、「事務官(共通)」と「事務官(基準)」の2種類のキャリアパスが用意されており、入省時に選択する仕組みです。

「事務官(共通)」を選ぶと、ハローワークや労働局で働くことになります。雇用対策や働き方改革など、労働基準監督官とは違ったアプローチで、労働行政に携わることになるのです。

一方「事務官(基準)」を選択すると、労働局や労働基準監督署に配属されて、労災補償や労働保険の適用・徴収業務のスペシャリストとして活躍することになります。

労働基準監督官ともかなり親和性の高い仕事だといえるでしょう。

4-2.地方検察庁

地方検察庁に採用されると、検察事務官として刑事事件の捜査に携わります。

「労働行政」ではありませんが、犯罪の「捜査」という意味では、労働基準監督官に近いやりがいを持った仕事だといえるでしょう。

公安職の給与が適用されるため、他の国家一般職と比べて給与が高いのも大きな魅力です。過去には木村拓哉さん主演の人気ドラマ「HERO」でも取り上げられており、国家一般職の中でもトップクラスの人気を誇っています。

労働基準監督官を目指す人にとっても、魅力的な併願先となるでしょう。

※国家一般職は、次の記事で詳しく解説しています。

5.まとめ

最後に、今回の記事のポイントをまとめます。

◉ 労働基準監督官は、厚生労働省に所属する専門職
◉ 司法警察権を持つ点が、他の公務員との大きな違い
◉ 労働基準監督官の主な仕事

・監督指導業務(事業所への立入調査や指導・監督など)
・司法警察業務(重大な法令違反に対する捜査など)
・安全衛生業務(設備の検査や、労働災害の原因調査など)
・労災補償業務(業務上の負傷や疾病への保険給付)


◉ 労働基準監督官試験の難易度が高い理由

・倍率が高い(平均3.7倍)
・労働法・労働事情などの対策が必要
・人物試験(面接)が厳しい
・最終合格=採用ではない


◉ 合格するためのポイント

・法律科目を中心に幅広く勉強する
・仕事内容を深く理解し、面接に備える
・人物試験対策を早めに始める


◉ 国家一般職のオススメ併願先

・「労働行政」に関わりたいなら「労働局」
・「捜査」に興味があるなら「地方検察庁」


以上です。

労働基準監督官は、公務員試験の中でも難しい試験の1つです。

チャレンジするのは簡単ではありませんが、その先にある「働く人を守る」というやりがいは、きっと多くの人の心を惹きつけるものがあるはずです。

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伊藤塾 公務員試験科

著者:伊藤塾 公務員試験科

伊藤塾公務員試験科は一人ひとりの学習経験や環境に応じた個別指導で毎年多くの行政官を輩出しています。このコラムでは将来の進路に「公務員」を考えている皆さんへ、仕事の魅力や試験制度、学習法など公務員を目指すための情報を詳しくお伝えしています。