弁護士・司法書士・行政書士の違いは何?業務範囲や試験制度の違いから解説
法曹
2025年10月31日
弁護士、司法書士、行政書士はいずれも法律系の業務独占資格(有資格者以外が携わることを禁じられている業務を独占的に行うことができる資格)ですが、業務範囲や試験制度には大きな違いがあります。
資格試験の受験を検討している人は、業務範囲や試験制度の違いを理解したうえで、自分が目指すべき資格を選ぶのが良いでしょう。
実際、弁護士・司法書士・行政書士はいずれも法律に関わる専門資格として近しい関係にあることから、近年ではダブルライセンスやキャリアアップを目指して、行政書士から司法書士へ、司法書士から弁護士へとステップアップを図る人も増えています。
今回は、弁護士、司法書士、弁護士の業務範囲、それぞれの試験制度の違い、他資格へのステップアップなどを解説します。各士業の業務範囲を知りたい方、どの試験を目指すべきか迷っている方は、ぜひ参考にしてください。
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【目次】
1.行政書士・司法書士・弁護士の業務範囲
行政書士・司法書士・弁護は、対応できる業務範囲に違いがあります。ここでは、それぞれの職種ごとに業務範囲を詳しく解説します。
1-1.行政書士の業務範囲
行政書士がメインとする業務は、官公署に提出する書類、その他権利義務または事実証明に関する書類を作成することと(行政書士法1条の2)、その作成についての相談に応じることです(同法1条の3・4号)。
行政書士が業務として作成する書類には、次のようなものが挙げられます。
●事業に関する許認可申請書類
●契約書
●遺言書・遺産分割協議書
●自動車登録関係書類
●帰化申請書類 など
行政書士は、契約書や遺産分割協議書などを作成することもありますが、契約や遺産分割について紛争が生じている場合や、将来的に紛争が生じる可能性が高いときには、書類を作成できません。
行政書士が契約書や遺産分割協議書を作成できるのは、法的な争いがないときに、依頼者から聴き取った内容を書面にまとめる場合のみです。
行政書士には法律事務の代理人となる権限はありません。そのため、紛争についての法律相談を受けたり、相手と示談交渉をしたり、裁判の代理人となったりすることはできません。
行政書士の中には、交通事故や遺産相続の分野を業務にしている人もいますが、行政書士が活躍できるのは、紛争がない場面に限定されてしまいます。
※行政書士の詳細については、こちらのページをご覧ください。
1-2.司法書士の業務範囲
司法書士の主たる業務内容は、登記申請代理業務です(司法書士法3条1号)。それ以外でも、供託*手続の代理業務や筆界*特定手続きにおける書類作成、成年後見人業務などが司法書士の専門分野となっています。
供託*:法令の規定により、金銭、有価証券、その他の物件を地方法務局などにある供託所または一定の者に寄託すること
筆界*:ある土地が登記された時にその土地の範囲を区画するものとして定められた線
司法書士が取り扱う登記申請業務には、次のようなものが挙げられます。
●売買、贈与、相続などによる不動産の所有権移転登記申請
●抵当権や借地権の登記申請
●法人の設立登記
●法人の商号、役員、目的などの変更登記
さらに、研修と試験を受けて法務大臣から認定を受けた認定司法書士になると、簡裁訴訟代理関連業務ができるようになります。簡裁訴訟代理関連業務とは、事件の対象物が140万円以下のため簡易裁判所で行われる民事訴訟や調停手続、支払督促手続などの代理人業務のことです。
認定司法書士は、簡易裁判所の民事事件であれば、弁護士と同じように依頼者の代理人として訴訟活動ができます。
もっとも、認定司法書士であっても、相続や離婚など家庭裁判所の手続きにおける代理人業務はできません。簡易裁判所の事件についても、問題となる金額が増えて地方裁判所に事件が移されたときには途中で辞任しなければなりません。
債務整理案件に注力している司法書士もいますが、司法書士は、破産手続きや個人再生手続きの代理人となることはできず、裁判所に提出する書面作成ができるのみです。任意整理や過払い金の対応についても、140万円を越える案件については取り扱うことができません。
※認定司法書士については、こちらの記事で詳しく解説しています。
※司法書士の詳細については、こちらのページをご覧ください。
1-3.弁護士の業務範囲
弁護士の業務範囲は、訴訟事件や家庭裁判所の事件における代理人業務や、その前提となる法律相談、交渉、契約書の作成など法律事務全般に及びます(弁護士法3条)。
弁護士が取り扱う法律事務には基本的に制限がなく、司法書士のメイン業務である登記申請手続きや、行政書士の業務である書類作成業務にも対応できます。
かつて司法書士会の見解では、登記申請代理業務は弁護士本来の業務ではないことから、弁護士業務に付随する場合に限って行えるとされていました。
しかし、裁判例では登記申請代理業務についても、弁護士法3条1項の「その他一般の法律事務」に含まれる弁護士本来の業務と認定されています。そのため、現在の見解では、弁護士は登記申請代理業務だけを単体で受任できるとの考えが一般的です。
もっとも、一般的な弁護士には登記の専門的知識があるわけではないため、弁護士業務に付随しない登記申請業務を取り扱っている弁護士はほとんどいません。
※弁護士の仕事の詳細は、こちらの記事で詳しく解説しています。
2.行政書士試験・司法書士試験・司法試験の違い
ここでは、試験科目、受験資格、合格率・難易度の3つの点から、行政書士試験、司法書士試験、司法試験の違いを解説します。
2-1.試験科目
各試験の試験科目は、次のとおりです。
| 試験 | 科目 |
| 行政書士 試験 | 【行政書士の業務に関し必要な法令等】 (択一式、記述式) ● 憲法 ● 行政法 ● 民法 ● 商法 ● 基礎法学 |
| 【行政書士の業務に関し必要な基礎知識】 (択一式) ● 一般知識 ● 行政書士業務と密接に関連する諸法令 ● 情報通信・個人情報保護 ● 文章理解 | |
| 司法書士 試験 | 【択一式】 ● 憲法 ● 民法 ● 刑法 ● 商法 ● 民事訴訟法・民事執行法・民事保全法 ● 司法書士法 ● 供託法 ● 不動産登記法 ● 商業登記法 |
| 【記述式】 ● 不動産登記法 ● 商業登記法 | |
| 司法試験 | 【短答式】 ● 憲法 ● 民法 ● 刑法 |
| 【論文式】 ● 憲法 ● 行政法 ● 民法 ● 商法 ● 民事訴訟法 ● 刑法 ● 刑事訴訟法 ● 選択科目 |
法律科目の中で基本となる憲法、民法、商法は全ての試験に共通した試験科目となっています。どの試験を目指す場合であっても、まずは基本科目の学習からスタートすると良いでしょう。
もっとも、同じ科目であっても出題形式や問題の難易度は試験ごとに異なるため、試験科目が共通する場合でも個別の試験対策は必要です。
※それぞれの試験についての詳細は下記をご覧ください。
2-2.受験資格
行政書士試験と司法書士試験には受験資格がありません。そのため、年齢や学歴、職歴などにかかわらず、誰でも受験できます。
一方、司法試験を受験するには、法科大学院を修了(修了見込みも含む)するか、予備試験に合格する必要があります。
法科大学院を修了するには、学部の早期卒業を認める法曹コース制度を利用しても大学入学から5年かかります。また、予備試験は、合格率が毎年4%ほどの難易度の高い試験です。そのため、司法試験は、受験資格を取得すること自体が大変な試験と言えるでしょう。
※司法試験の受験資格については、こちらの記事で詳しく解説しています。
2-3.合格率・難易度
行政書士試験、司法書士試験、司法試験の直近5年間の合格率は次のとおりです。
| 年度 | 行政書士 試験 | 司法書士 試験 | 司法試験 |
| 令和6年 | 12.9% | 5.3% | 42.1% |
| 令和5年 | 14.0% | 5.2% | 45.3% |
| 令和4年 | 12.1% | 5.2% | 45.5% |
| 令和3年 | 11.2% | 5.1% | 41.5% |
| 令和2年 | 10.7% | 5.2% | 39.2% |
各試験の合格率だけを比較すると、司法試験が3つの中で最も難易度の低い試験に見えます。
しかし、先ほど説明したとおり、行政書士試験と司法書士試験には受験資格がないのに対して、司法試験は受験資格を取得すること自体が大変な試験です。
行政書士試験や司法書士試験は、勉強を始めたばかりの受験生も多く受験していますが、司法試験は、基本的な学習を終えて受験資格を取得した受験生だけが受験しています。そのため、合格率だけでは難易度を判断することはできません。
一般に、試験合格までにかかる勉強時間は、行政書士試験が600〜1,000時間ほど、司法書士試験が約3,000時間、司法試験が2000〜5,000時間ほどと言われています。合格率は高いものの、受験資格や合格までにかかる勉強時間を考慮すると、司法試験が最も難易度の高い試験であると言えるでしょう。
※司法試験の難易度や勉強時間については、こちらの記事で詳しく解説しています。
3.ステップアップを目指す人が増えている
行政書士、司法書士、弁護士は、どれも法律系の資格として近しい関係にあるため、ステップアップのためダブルライセンスや転向を目指す人が増えています。
3-1.行政書士から司法書士へ
行政書士試験と司法書士試験は、共通する試験科目が多く、出題形式も択一式+記述式で同じです。そのため、初めから行政書士試験を司法書士試験のための足がかりとして利用する受験生も少なくありません。
行政書士が取り扱う許認可申請業務と、司法書士の登記申請業務には親和性があります。許認可が下りたものについて登記申請が必要なことも多いです。行政書士と司法書士両方の資格を持っていると1人で両方の業務に対応できるため、依頼者の要望にも応えやすくなります。
行政書士試験に合格した人は、資格をより有効活用するために司法書士試験の合格を目指してみるのも良いでしょう。
※行政書士と司法書士のダブルライセンスについては、こちらの記事もご覧ください。
3-2.司法書士から弁護士へ
司法書士から弁護士へステップアップする人も増えています。
司法書士試験と司法試験は、共通する試験科目も多くありますが、司法試験は論文式の配点が高いため司法書士試験とは異なる対策が必要です。また、司法書士試験合格者であっても、司法試験を受験するには法科大学院を修了するか予備試験に合格しなくてはなりません。そのため、司法書士から弁護士へのステップアップには高いハードルがあります。
しかし、認定司法書士として簡裁訴訟代理関連業務をしていると、事件を途中で辞任したり、弁護士に紹介したりする機会も増えてきます。最後まで自分で対応するには司法試験に合格するしかありません。そこで、ハードルが高くても、業務範囲を広げるために弁護士へのステップアップを考える人が増えているのです。
弁護士業務では、司法書士としての経験や人脈も活かせます。ハードルが高くとも、ステップアップに挑戦する価値は十分にあると言えるでしょう。
※弁護士と司法書士の違いについては、こちらの記事でも詳しく解説してます。
4.弁護士・司法書士・行政書士についてよくある質問
Q1. 弁護士の具体的な平均年収はいくらですか?
A. 日弁連「近年の弁護士の実勢について」によると、弁護士の平均年収は2,143万円です。ただし、これは勤務形態や地域、経験年数によって大きく変動します。
Q2. 司法書士の具体的な平均年収はいくらですか?
A. 厚生労働省の職業情報提供サイト「job tag」によると、司法書士の平均年収は971.4万円です。ただし、これは勤務形態や地域、経験年数によって大きく変動します。
Q3.行政書士の具体的な平均年収はいくらですか?
A. 厚生労働省の職業情報提供サイト「job tag」によると、司法書士の平均年収は551.4万円です。ただし、これは勤務形態や地域、経験年数によって大きく変動します。
Q4.各資格保有者の男女比や平均年齢はどのようになっていますか?
A. 内閣府男女共同参画局の統計によると、弁護士の女性比率は約20%、司法書士は約18%、行政書士は約16%です。平均年齢はいずれの資格も40代後半から50代前半が中心ですが、若手の合格者も増えています。近年は増加傾向にあります。
Q5.AIの進化によって、将来的にこれらの法律家の仕事はなくなってしまうのでしょうか?
A. 定型的な書類作成や情報収集業務はAIに代替される可能性がありますが、複雑な事案の法的判断、依頼者とのコミュニケーション、交渉といった高度な専門性が求められる業務は、依然として人間が行う必要があります。法務省もAIの活用を研究しつつ、最終的な判断は人間が行うべきという立場です。
5.弁護士・司法書士・行政書士の違いまとめ
Q1.弁護士、司法書士、行政書士の主な違いは何ですか?
A.これら3つはすべて法律系の業務独占資格ですが、業務範囲と試験制度に大きな違いがあります。
Q2.行政書士の業務範囲は具体的に何ですか?
A2.主な業務は、官公署に提出する書類、その他権利義務または事実証明に関する書類の作成と、その作成に関する相談です。紛争が生じている場面では書類を作成できません。
Q3.司法書士の主な業務内容は何ですか?
A.登記申請代理業務が主たる業務です。その他、供託手続の代理、筆界特定手続きにおける書類作成、成年後見人業務なども専門分野です。認定司法書士は、簡易裁判所の140万円以下の民事訴訟代理が可能です。
Q4.弁護士の業務範囲はどこまで対応できますか?
A.訴訟事件や家庭裁判所の事件における代理人業務、法律相談、交渉、契約書の作成など、法律事務全般に及びます。基本的に業務範囲に制限がなく、司法書士の登記申請や行政書士の書類作成業務にも対応可能です。
Q5.各試験に共通する試験科目はありますか?
A. 憲法、民法、商法は、行政書士試験、司法書士試験、司法試験のすべてに共通する基本科目です。
Q6.各資格の受験資格に違いはありますか?
A.行政書士試験と司法書士試験は受験資格がありません。一方、司法試験を受験するには、法科大学院を修了するか、予備試験に合格する必要があります。
Q7.各試験の難易度と合格率はどのくらいですか?
A.令和6年の合格率は、行政書士試験が12.9%、司法書士試験が5.3%、司法試験が42.1%です。受験資格や勉強時間を考慮すると、司法試験が最も難易度が高いとされています。
Q8.各試験に合格するための目安の勉強時間は?
A.一般的に、行政書士試験は600〜1,000時間、司法書士試験は約3,000時間、司法試験は2,000〜5,000時間が目安とされています。
Q9.法律系の士業でダブルライセンスやステップアップは可能ですか?
A.はい、可能です。行政書士から司法書士へ、または司法書士から弁護士へのステップアップを目指す人が増えています。試験科目の共通性や業務の親和性があるため、相乗効果が期待できます。
Q10.これらの中で最も難易度の高い法律系国家資格はどれですか?
A.司法試験が最も難易度が高いです。論文式の試験があり、受験資格の取得自体が大変なためです。
近年、ダブルライセンスやステップアップを目指し、行政書士から司法書士へ、司法書士から弁護士へチャレンジする人が増えてきています。
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