予備試験の口述試験とは?傾向と対策を徹底解説!
予備試験
2025年10月31日
        
                            
                        「口述試験って具体的にどんな試験なの?」
「予備試験の論文に合格はしたけど、口述試験までに何をやればいいんだろう」
「話すのが苦手な人でもうまく行くような口述対策を教えてほしい。」
口述試験は予備試験独自の制度で、司法試験には存在しません。
そのため、口述試験の対策として何をやればいいのか分からない、という方も多いのではないでしょうか。
予備試験は、短答式試験、論文式試験、口述試験に分かれていて、短答式試験に合格すると論文式試験を、論文式試験に合格すると口述式試験を受ける事になります。
最終的に口述試験を突破すれば、晴れて予備試験に最終合格ということで、司法試験の受験資格を得ることができます。
後述するように、口述試験は、それだけ見ると、合格率が90%を超える試験です。
これまでの短答式試験や論文式試験に比べると、合格率はかなり高いと言えるでしょう。
しかし、面接形式で、試験官からの口頭での質問に対し、口頭で即座に答えなければならない口述式試験独自の制度は、今までの試験の勉強とはまた違った能力が要求されます。
口述試験の合格率の高さや、論文式試験を突破したんだから試験に落ちることはないという慢心、また当日極度の緊張で喋ることができず、不合格になってしまったという方もいるでしょう。
口述試験で確実に合格を手にするためには、口述試験の傾向と事前の対策は必要不可欠であるといえるのです。
本記事では、口述試験の概要や傾向、出題内容の再現例を含む事前対策について解説していきます。
これから予備試験の勉強を始める方にとっては、口述試験のイメージがわかりやすいようにまとめていますので、ぜひ参考にして見て下さい。
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【目次】
1.予備試験の口述試験とは?
予備試験の口述試験は、論文式試験に合格した人のみが受けることが出来る試験で、主査・副査と呼ばれる2人の面接官が出題してくる問題に対して、その場で口頭で答えるという、いわば口頭試問の試験になります。
口述試験の目的は、与えられた問題を瞬時に法的に分析、構成し、それを弁論(当事者が意見を述べる事、言い合う事)をもって口頭で相手に伝える能力を有しているかどうかを判定することです。
つまり、短答式試験では細かい法的な知識、論文式試験では法的知識だけでなく問題処理能力が問われ、この口述試験で弁論能力を問われる事で、実務で必要になる能力が備わっているかどうかを判定するのが、予備試験であると言えるのです。
1-1.試験日程
令和5年度より、予備試験の口述試験は1月中旬に2日間かけて行われることになりました。
法律実務基礎科目の民事、および法律実務基礎科目の刑事を、それぞれ1日づつ行います。
試験時間は1つの試験につきおおよそ15分から30分程度になります。
試験時間に幅があるのは、試験官の話すスピードや試験内容、受験生の解答速度、などによって異なるためです。
また、自分が試験を受ける順番ですが、当日に試験会場の受付で自分の試験室番号と順番が記載してある番号札を貰うことで初めて試験の順番を知ることになります。
(13室6番という場合には、13番の試験室で6番目に試験を受けるということになります。)
試験の順番が早ければ、試験会場に来てすぐに試験を受けることができますが、順番が最後の方になると、試験会場に来てから試験を受けるまでに3~4時間待たされることもあり得ますので、飲食物や参考書、座布団など時間を持て余す事がないよう事前に準備しておくようにしましょう。
以下、試験当日の流れについて確認してみます。
【当日の流れ】
①受付をし、試験室番号と順番番号が記載してある番号札を貰う
②集合室(通称:体育館)で自分の順番が来るまで待機する。
③自分の番号が呼ばれたら、待機室(通称:発射台)に移動し、自分の順番を待ちます。
④試験室で試験の実施
⑤午前組は終了室で待機し、午後組が入館したタイミングで帰宅、午後組は試験が終わり次第帰宅
集合室では、一度入館すると許可なく外出することはできません。
携帯電話やタブレット端末などの電子機器類について、電源を切った上で、用意されている封筒に入れ
てカバンの中にしまうなど、不正防止対策がかなり厳格に行われています。
終了室についても、口述試験の問題が、受験生の公平のため午前と午後で同じ問題になっていることから、午前組は午後組みに問題をリークしないよう、不正防止の観点からとられている制度だといえるでしょう。
どの試験でも緊張していたかもしれませんが、この口述試験では、待機室に移動するタイミングが一番緊張するようです。
真剣に取り組めば取り組むほど緊張してしまうのは仕方がない事ですが、できる限り当日の流れを知っておくことで、会場で慌ててしまう事がないようにしましょう。
1-2.試験科目
予備試験の口述試験の試験科目は、民事訴訟実務・刑事訴訟実務・法曹倫理となります。
いずれも論文式試験でも問われた範囲となりますが、民法や刑法などの、法律基本科目の知識が問われることもあるため、その点は注意すべきでしょう。
試験の内容について、口述試験は法務省から問題が公表されないため、実際に行われた試験内容は、受験生が再現した再現答案を確認することになるでしょう。
また、論文式試験と同様に六法を参照することができますが、基本的な事項に関しては六法を参照しないで回答するほうが、基礎的な知識がしっかりインプット出来ていることをアピールできますし、その後の会話の流れもスムーズです。
1-3.合格率
予備試験は文系最難関の国家試験であり、合格率もかなり低くなっています。
各試験の合格率は、短答式試験および論文式試験でそれぞれ20%程度、最終合格率は4%程度となっている試験ですが、口述試験の合格率はどれくらいなのでしょうか。
以下、予備試験が始まった平成23年から令和4年までの合格率について、表にまとめました。
| 採点対象者 | 合格者数 | 口述合格率 | 最終合格率 | |
| 平成23年 | 122人 | 116人 | 95.10% | 1.80% | 
| 平成24年 | 233人 | 219人 | 94.00% | 3.00% | 
| 平成25年 | 379人 | 351人 | 92.60% | 3.80% | 
| 平成26年 | 391人 | 356人 | 91.00% | 3.40% | 
| 平成27年 | 427人 | 394人 | 92.30% | 3.80% | 
| 平成28年 | 429人 | 405人 | 94.40% | 3.90% | 
| 平成29年 | 469人 | 444人 | 94.70% | 4.10% | 
| 平成30年 | 456人 | 433人 | 95.00% | 3.90% | 
| 令和元年 | 494人 | 476人 | 96.40% | 4.00% | 
| 令和2年 | 462人 | 442人 | 95.70% | 4.20% | 
| 令和3年 | 476人 | 467人 | 98.10% | 4.00% | 
| 令和4年 | 481人 | 472人 | 98.10% | 3.60% | 
| 平均 | 402人 | 381人 | 94.8% | 3.60% | 
この表を見れば分かる通り、口述試験の合格率は平均94.8%となっており、合格率が低い年でも91.1%と、毎年9割以上が合格する試験であることが分かります。
この事から、事前準備を怠らず、試験当日の流れを頭に入れておくなど、なるべく緊張しないような準備と工夫をしておけば、そこまで神経質になる必要はない試験であるといえるでしょう。
2.こんな問題が出る~口述試験の再現例~
では、実際の口述試験では、どのような問題が出るのでしょうか。
受験生の再現を確認してみましょう。
以下、伊藤塾でまとめた令和4年度(2022年11月実施)の口述試験再現回答です。
ぜひ参考にしてみてください。
2-1.民事系
| 質 問 (主査・副査の動向)  | 回 答 | 内心の動き | 
| (向かって左に主査、右に副査) | (一礼して番号を告げ、指示に従っ て着席する。) | 始まってしまった。 | 
| (以下、すべて主査の発言) それでは、試験を始めます。 今から、私が問題の事案を読み上 げますので、お手元のパネルを見 ながらよく聴いてください。(主査、パネルを読み上げる。)  | はい。 | 物権的請求権の問題か。 「質権」という不穏な言葉はいっ たん無視しよう。  | 
| 問題の事案は、ご理解いただけた ところかと思います。 さて、早速ですが、Aの希望を叶えるための請求として、どのよう な訴訟物を設定すべきですか?  | 所有権に基づく返還請求権としての動産引渡請求権です。 | |
| そうですね。 それでは、請求原因として主張すべき事実は何ですか?  | ①令和4年6月1日、Aは、本件指輪を所有していた。 ②同日、Xは、Aから、本件指輪を代金200万円で買った。 ③同年7月1日、Xは、Aに対し、本件指輪の代金200万円を支払った。 ④Yは、本件指輪を占有している。  | 権利自白、権利自白。 | 
| なるほど。(主査、一瞬だけ副査と目を合わせる。) 一応確認ですが、あなたは、権利自白の成立時点を令和4年6月1 日と整理するわけですね?  | はい。 | 何かまずいこと言ったか? | 
| (主査と副査、一瞬だけ目を合わせて軽くうなずき、副査が手元の紙に何かを書き込む。) では、それに対して、Yは、どのような抗弁を提出すると考えられますか?  | 質け……占有権原の抗弁です。 | 質権、質権、質け……抗弁の名前 だから占有権原か。 | 
| 今、何か言いかけたよね。 その占有権原は、何に基づくのかな?  | 質権です。 | 質権です。 頼むから、要件事実だけは訊いてくれるなよ。  | 
| そう。質権ね。これがどうして占有権原の抗弁として提出できるのか、質権の効力を踏まえて説明できますか? | はい。 質権は、質物を占有することにより質権設定者に心理的圧迫を加えて弁済を促すものです。これを確か……留置的効力というんでしたかね。ともあれ、この効力から質権は占有を本質的要素とする担保方法ということになります。… …ここまでよろしいですか?  | |
| (副査、猛烈にうなずきながら何かを書き込む。) いいですよ。続けてください。  | なので、質権が設定されていれば、 質権者は、質物を……その……占有し続けることで動産引渡請求を拒むことができるので、占有権原 の抗弁となります。 | 
| 質 問 (主査・副査の動向)  | 回 答 | 内心の動き | 
| うん。つまり? | つまり…? | つまり? | 
| つまり、占有し続けることができるということは? | ……占有を継続できます。 | |
| いえ、多分、理解されているであろうことはわかるのですが、もう 少し別の言い方はできますか? | 所有権に基づく請求権の効力を覆滅させることができます…? | |
| もっと別の言葉で表すと…! | 別の言葉……占有を保持すること ができます? | もう許して。 | 
| そうですね。 (副査、何かを書き込む。) では、次の質問です。Yは、その抗弁を提出するために、どのような事実を主張するべきでしょうか?  | ええと…。 ①令和4年4月1日、Yは、Aに 対し、同年7月10日を返還時期と 定めて150万円を貸し付けた。 ②①に際して、Yは、Aから、当該貸金債権を被保ぜ……被担保債権として本件指輪に質権の設定を受けた。 ③同日、Yは、Aから、質権の設定に基づき本件指輪の引渡しを受けた。  | 解放された……ぐえっ!一難去ってまた一難とはこのことか。 とりあえず、約定担保であること と牽連性を理解している風味を出せばいいか。  | 
| うん。そうだね。 ちなみに、本件指輪の引渡しの事実は、どうして必要なの?  | 動産物権変動の対抗要件だからです。 | どうして必要なのでしょうね? | 
| (主査、がくりと崩れるような動作をする。副査、特に反応なし。) えっ?あの、本件でXとYは対抗 関係にありますか?  | あ、いえ、ありません。 その……法文を参照してもよろし いでしょうか?  | 法文をめくって紙の感触で心を落ち着けよう。 | 
| どうぞ。 | (法文をめくる。) ああ、質権は占有を本質的要素としますし、引渡しが成立要件だか ら主張が必要だと考えます。  | |
| はい。問題ありません。 では、次に、パネルに事実を付け 加えます。 あなたが弁護士として、Xの訴訟 代理人に選任されたとします。あなたが訴訟の準備のため、Aに事情を聴きに行くと、Aは、Yからお金を借りて本件指輪に質権を 設定したとして、Yの言い分を認めました。ところが、Aは、A名義の銀行の口座から150万円を下ろ して、その現金をYに手渡して、 Yから借りたお金を全額返済した とも話してくれました。その際に、Aは、Yから返してもらったという借用証書も見せてくれました。 付け加えた事実は理解できましたか?  | はい。 | 補助参加か? | 
| 質 問 (主査・副査の動向)  | 回 答 | 内心の動き | 
| それでは、あなたは、Aの話を聞いて、先ほどの抗弁に対する再反論として、Aの弁済を主張しようとしています。 その際に、Aの弁済を立証するための証拠としては、どのようなものが考えられますか? ただし、Aが、あなたやXに、どのような形であれ協力してくれるものとして考えてください。  | まず、Aの陳述書を作成して提出することが考えられます。 | |
| (主査、わずかに眉を動かす。) | が、今回は、Aが出廷してくれそうなので、人証を請求します。 | 本人にご出廷願うのが先か。 | 
| (主査、うなずく。) | それから、Aが協力的で物を貸してくれそうですから、まず、AがYから返してもらったという借用証書を提出します。 さらに、ええと、Aは、銀行からお金を下ろしてYに手渡して弁済したんでしたっけ?  | |
| はい。そうです。 | でしたら、Aがお金を下ろしたという日付に、AがYに弁済したという金額と同額の払戻しがあった旨が記載された預金通帳を借りまして、AがYに交付したという金額と同額の現金が、弁済の直前に銀行から払い戻されているという間接事実を立証して、AがYに弁済したという事実を立証します。 | |
| はい。いいと思います。 ところで、Aが持っている借用証書は、どうして弁済の事実の立証に使えるのでしょうか。  | それは……借用証書は、民法上の 規定によると……。 法文を閲覧してもよろしいでしょうか?  | 債権証書だっけ? | 
| どうぞ。 | (法文をめくりながら。) ええと……こっちか?いや、こっちか?  | 受取証書?債権証書?ど忘れしてしまったが、どちらにしようか。 | 
| 大丈夫ですか? | あ、はい。 借用証書は、債権証書なので、弁済しなければ、その返還を求められないものだからです。  | とりあえず、債権証書ということで答えてしまおう。 | 
| うん。つまり、弁済がされていなければ、債権者が借用証書という重要な書類を渡さないという経験則が働くからですよね。 | あ、そうです。 | 一言で済まされた。 | 
| 質 問 (主査・副査の動向)  | 回 答 | 内心の動き | 
| さて、今度は、またパネルにない事実を付け加えますね。 先程と同じく、あなたがXの訴訟代理人に選任されていたところ、 Zという人が、Xと同じようにAから本件指輪を買ったので、Yに 対して本件指輪の引渡しを請求する訴えを提起してほしいと依頼してきました。 あなたは、Zの依頼を受任することはできますか?  | できないと考えます。 | 唐突に法曹倫理が始まった。 | 
| その理由は説明できますか? | はい。 | |
| うん。ところで、本当に一切受任できないということでよろしいですか? | ええと……法文を閲読してもよろ しいでしょうか。 | |
| どうぞ。 | (法文をめくる。) ええと、本件は、弁護士職務基本 規程28条3号に当たる…。 ちょっと待ってください。先程の 解答を訂正いたします。 まだ利益相反が顕在化していないように思えますので、32条の方に当たり、 説明をすれば、受任しても差し支えないと考えます。  | あれ?利益相反が顕在化していないのか? | 
| ん?それでいいの? | 少し考えてもよろしいですか? | この反応からすると、利益相反が顕在化しているのだろうか? | 
| ええ、どうぞ。 | ええと、いえ、再度の訂正となり 恐縮ですが、やはり、28条3号に当たると考えます。 Zが権利主張参加するような場面ですので、利益相反が顕在化していると考えます…。  | |
| うん、それから? | なので、同条柱書により、原則と してZの依頼を受任できません。ただし、例外的にXとZが同意したならば、受任することができると考えます。 | |
| (主査、やや釈然としない表情を みせながら)つまり、当事者の同意があれば、受任しても問題がないということですか? | はい。 | ここまできたら、ごり押しで乗り切ってしまおう。 | 
| わかりました。私からは以上です。 副査からは、何かありますか?  (副査、首を横に振る。) それでは、これで試験を終わります。お疲れ様でした。  | ありがとうございました。 (一礼して退出する。)  | 
民事系の出題はほとんどの場合、そのほとんどは要件事実を問われます。
また、民法の基礎的な知識や、民事執行・保全、法曹倫理の分野からも出題されるため、満遍なく勉強をして置く必要があります。
問題自体はそこまで複雑な事を聞かれているわけではありません。
しかし、実際に試験会場の異様な緊張感の中で問題を見ると、普通に考えればわかることすらわからなってしまうのです。
ただし、分からなくてもある程度は試験官が誘導して答えを導いてくれます。
絶対に一回で答えを導く必要はないと考えれば、少しは心に余裕がでるのではないでしょうか。
2-2.刑事系
| 質 問 (主査・副査の動向)  | 回 答 | 内心の動き | 
| (向かって左に主査、右に副査) | (一礼して番号を告げ、指示に従って着席する。) | |
| (以下、すべて主査の発言) それでは、試験を始めます。 今から、私が問題の事案を読み上 げますので、お手元のパネルを見ながらよく聴いてください。 (主査、パネル及び事案を読み上げる。)  | はい。 | |
| さて、事案はご理解いただけましたかな? 早速ですが、この事例では、Aにいかなる犯罪が成立すると考えますか?教えてください。  | 有印私文書偽造罪が成立すると考えます。 | 主査、ノリが軽いな。 | 
| うん。では、この事案で、仮に印鑑を押していなかったら、罪名はどうなるかな? | 有印私文書偽造罪です。 | 変な質問だな? | 
| そうだね。 | はい……「有名私文書」なんて聞 いたことがないので。 | |
| うん。念のために、条文上の文言も確認しておこうか。 有印と無印の振り分けは、有印私文書偽造罪の構成要件を定める条文では、何て書いてある?  | 他人の……印章?印鑑?まあ、印章ですね。 ええ、他人の印章又は 署名と書いてあったと思います。  | やぶ蛇だったか? | 
| うん。一応、法文も開いて確認しておくね。他人の印章若しくは署名と書いてあるね。 | 若しくは……はい。 | |
| ま、論理的には同じだから問題ないんだけれどさ。文言はなるべく正確に覚えておいてね。 さて、その上で、次の質問にいきますね。 まず、「偽造」の意義を説明でき ますか?  | はい。 「偽造」とは、文書の名義人と文書の作成者との人格の同一性を偽る行為をいいます。  | これは、さすがに大丈夫だろう。 | 
| では、名義人と作成者の定義を教えてくれる? | え?定義あるんですか? | ど忘れした。 | 
| (副査、眉をひそめる。主査、吹き出しながら) あるよ。  | ううむ、申し訳ございません、失念いたしまして…。 | そりゃ定義あるでしょうね。 | 
| ちょっと考えてみようか。 さっき言ってもらった「偽造」の意義から考えられないかな?  | やってみます。 ええと、名義人とは、当該文書の文面から、そこに表示された意思・ 観念を……表示したと読み取れる者をいうと考えます。  | わからないなりに、食らい付いていこう。 | 
| では、作成者は? | ああ、作成者とは……当該文書を 現に存在するものとして創出した者をいうと考えます。 | 
| 質 問 (主査・副査の動向)  | 回 答 | 内心の動き | 
| なるほどね。今言ってもらった定義は、実は物理的創出説という少数だけれど有力な見解に近い定義だね。 では、今から、通説における名義人と作成者の意義を述べるね。名義人とは、当該文書から看取さ れる意思の主体をいいます。作成者とは、当該文書に意思・観念を表示した者をいいます。 ここから先は、この定義を前提に答えてくださいね。  | 承知いたしました。 | とりあえず、次には進ませてくれそうだ。 | 
| まず、パネルの事案で、名義人は 誰ですか? | Xです。 | |
| では、作成者は? | Aです。 | |
| はい、大丈夫です。 それでは、パネルから少し事案を変えますよ。仮に、XがAの債務を保証することを了承し、Aに対して署名・押印について承諾を与えていたとしたら、Aに有印私文書偽造罪は成立しますか?  | 成立しません。 | |
| 理由を説明できますか? | はい。 この場合には、XがAに署名・押印の権限を与え、自分の手足として保証承諾書を作成させていることになるので、実質的な作成者は Xであり、名義人Xとの間に人格の同一性についてそごが生じていないからです。  | 口述模試の参考問答に書いてあった話なような。記憶がおぼろげなところだ。 | 
| (主査及び副査、うなずく。) それでは、いったんパネルを裏返 してください。私が次の事案を読 み上げますので、もう一度お手元 のパネルを見ながらよく聴いておいてください。 (主査、パネル及び事案を読み上げる。)  | はい。 | |
| それでは、この事案において、Aにいかなる犯罪が成立するでしょうか? | 有印私文書偽造罪が成立すると考えます。 | |
| うん。では、その理由を説明してください。 | この事案において、まず、作成者はAです。次に、名義人は、Aが作成した履歴書を読むと、Aの容姿でありながらYと名乗る謎の人物……つまり、架空の人格です。 それゆえ、名義人と作成者との間で人格の同一性にそごが生じていることになり、そのような謎の人物が作成した文書として、文書の社会的信用が損なわれるので、実質的にも形式的にもAの行為が「偽造」に当たるからです。  | これまた典型事例ながら簡潔な説明の難しいところを。 | 
| 質 問 (主査・副査の動向)  | 回 答 | 内心の動き | 
| うん。そうだね。 そうしたら、ここで意地悪な質問をするね。いいかな?  | はい。どうぞ。 | いいえ。やめてください。 | 
| 仮に、この事案で、Aが氏名欄に 正しく自分の氏名を記載していた としますね。しかし、経歴の欄に実際はAが大卒なのに、高卒であると記載していたとします。 この場合に、Aに有印私文書偽造罪は成立しますか?  | ええと、一応確認ですが、生年月日等は正しく記載されているという理解でよろしいですか? | 結構微妙なところを突いてくる質問だな。 | 
| ええ、それで構いませんよ。 そうだね、学歴や職歴だけは虚偽が記載されていて、他のところは 全部正確に真実を書いていたということにしましょう。 それで、求人の条件が高卒限定ということにします。 さて、どうでしょう。  | 高卒限定ですか? | |
| そうそう。例えば、公務員なんかだと、経歴で募集の条件を絞っていることがあるのですが、そういう条件のうち、高卒限定とする場合です。 | ううむ、難しいですね。 いや、つまり、どこまでを人格の表示とみるかという問題だとは思うのですが…。  | |
| (主査及び副査、うなずく。) | どうしましょう。 | どうしましょう。 | 
| いやあ、本当にどうしようね。(主査、上機嫌な笑みを浮かべる。) | ひとまず、結論を述べます。 有印私文書偽造罪は成立しないと考えます。  | いったん結論だけ述べて様子を見ることにしよう。 | 
| お、それはどうして? | この場合ですと、少なくとも、その人が誰かという……人定事項というのですか?そういった事項に虚偽がないので、名義人が作成者と同一の人格であるAと確定されるからです。 | |
| でも、Aは、経歴に虚偽を書いているんだよね。そうすると、大卒のAではなく高卒のAが名義人ということにならないかな? | 確かに、そのように考える余地もあります。しかし、その人の経歴というのは、文書の作成者が誰かということを名義人からたどることができれば、その人に問いただせば足りることです。 また、刑法は、文書に虚偽の内容を記載する行為、つまり無形偽造の処罰範囲を基本的に公文書に限定しています。 私文書としては、せいぜい公務所に提出する医師作成の文書に虚偽の内容を記載する行為が処罰されるのみです。そうであるとすれば、今回のAの行為までを有形偽造で捕そくしてしまうと、処罰範囲が不当に広がることになりかねないので、有印私文書偽造罪を成立させるべきではありません。  | そこがさっきまで迷っていたところだったのですよ。 | 
| 質 問 (主査・副査の動向)  | 回 答 | 内心の動き | 
| なるほど。これ、実は判例もないところだから、これという正解があるわけではないんだけれど、難しいところだよね。 | 難しかったです。 | 完全に試しの質問だったのか。 | 
| 一応だけれど、例えば、資格とか肩書きについて虚偽を記載した場合はどうかな? | その場合は、有印私文書偽造罪が成立すると考えます。 | |
| うん。それでは、今度は、氏名欄にAの通称名を記載していて、顔写真や他の記入欄には正しい記載がされていた場合はどうかな? | その場合は、有印私文書偽造罪が成立すると考えます。 | |
| 理由を説明してくれる? | 就職に使う履歴書は、文書の性質として、その氏名欄に戸籍名なり住民票の氏名なりを記載することが社会的に期待されているといえるので、たとえ通称名であっても名義人と作成者との間で人格の同一性にそごが生じることになるからです。 | |
| うん。そうだよね。ここでいう文書の性質というのは、雇用契約なんかの基礎になるからという意味だよね。 | はい。 | ん?単なる確か? | 
| ちなみに、この辺りについては判例があるんだけれど、事例を説明できますか? | ああ、実は曖昧でして…。 | |
| 判例百選にも載っていることだから、司法試験までに復習しておいてね。 | かしこまりました。 | 「司法試験までに」?一応、及第点なのか? | 
| では、再びパネルを裏返してオモテ面を見てください。さて、Aの行為が露見して必要な捜査が遂げられ、Aは、有名私文書偽造の公訴事実で起訴されたとします。 | はい。 | 刑事訴訟法に入った。 | 
| 質 問 (主査・副査の動向)  | 回 答 | 内心の動き | 
| Aは、公訴事実について、「保証承諾書に署名・押印したのが私であることは間違いありません。しかし、私は、Xから、X名義の保証承諾書の作成について承諾を得ていました。」と述べて否認しています。ここまではよろしいでしょうか? | ||
| 捜査の過程で、Aの自白調書が作成されていたとします。 第1回公判期日において、検察官がこの自白調書を証拠調べ請求したところ、弁護人はこれに同意しました。さて、裁判所は、これを取り調べるためにどのような手続をしますか?  | 証拠の関連性を審査した上で、証拠採用決定をします。 | これは再現集でもあったな。 | 
| うん。まあ、さすがに自白調書に関連性が認められないということはないだろうね。 ちなみに、その証拠調べはどのような方法によりますか?  | 朗読の方法によります。 | |
| うん。要旨の告知ということもあるけれど、普通は朗読の方法によっていますね。 さて、次の質問です。 捜査の過程で、Xは、参考人聴取を受け、「私は、Aに対して、私の名義での保証承諾書の作成について承諾したことはありません。」 と供述したので、その旨の供述が録取された検察官面前調書、つまりPSが作成されたとしま す。ここまではいいかな?  | はい。 | 任意性の立証か? | 
| この場合において、検察官がXのPSを証拠調べ請求したところ、 Aの弁護人は同意しました。 | え?同意したんですか? | はい? | 
| そう。どういうわけか同意してしまったんですよ。 この場合に、裁判所は、このPSを証拠採用できますか?  | いや、まあ、できはしますが…。 | ええ…。 | 
| うん。できはしますが、さて、裁判所は、訴訟指揮として気を付けるべき点はあるでしょうか? | あります。 | |
| では、どういう点に気を付けますか? | 同意は、本来、被告人の権限であって、弁護人は、それを代理行使しているに過ぎませんので…。 弁護人に対して、その同意が被告人の真意に沿っているか否かを求釈明します。 | 
| 質 問 (主査・副査の動向)  | 回 答 | 内心の動き | 
| そうですね。まあ、公判期日には 被告人が出廷していますから、本人に質問してしまう方が早くて正確ですけれどね。 | あ、なるほど。 | |
| では、続いて、本件の保証承諾書における署名を筆跡鑑定したところ、これがAの筆跡であることに間違いがない旨の筆跡鑑定書が作成されていたとします。 検察官がこの筆跡鑑定書を証拠調べ請求したところ、Aの弁護人はまたしても同意しました。この場合について、裁判所は、XのPSの場合と同様の点に気を付けなければならないでしょうか?  | いいえ。 | |
| では、筆跡鑑定書とPSとで何か違いはありますか? | 伝聞証拠を不同意とすることの意 義として、反対尋問による事実認定のコントロールがあります。 今回の場合ですと、XのPSを不同意とすることにより、Xを証人として反対尋問を行い、事実認定をコントロールすることに意味があります。 しかし、筆跡鑑定書の場合は、その記載内容が客観的な専門性に裏打ちされているのが通常であって、鑑定人を証人として効果的な反対尋問により弾劾することが困難です。それに、鑑定書の性質を持つ書面は、伝聞例外の要件が緩やかに定められているので、不同意とする効果はあまり期待できません。  | 伝聞例外の要件の話かな? | 
| うん。まあ、それも正しいんだけ れどね。そもそも、今回、Aは、 保証承諾書を作成したこと自体は 認めているんですね。だから、争点との関係で、筆跡鑑定書が証拠 として取り調べられても…? | あ、Aの主張どおりです。 | なるほど。これは法律実務基礎科目らしい質問だ。 | 
| そういうことですね。 さて、事案を変えます、Aの弁護人は、ちゃんとXのPSを不同意にしてくれました。 検察官としては、どうしますか?  | Xの証人尋問を請求します。 | 「ちゃんと」…。 | 
| では、仮に、Aにとても怖い暴力団員の彼氏がいたとします。 | はい。 | 
| 質 問 (主査・副査の動向)  | 回 答 | 内心の動き | 
| そのため、Xは、Aを有罪にするような証言をすれば、Aの恋人に顔を覚えられて報復されるのでは ないかと怖がって、出廷を拒絶しています。 あなたが検察官だとしたら、Xに出廷してもらうために、どうしますか?  | 説得します。 | |
| (副査、うなずく。) どうやって説得しますか?  | 仮に、Aの恋人がXに危害を加えるようなことがあれば、処罰することもできますし…。 | |
| (主査、若干不満げな顔) | あと、裁判所に頼んで、Aの恋人がXの顔を覚えることができないように遮へいの措置を採ってもらいます。 | そもそも、危害を予防する準備があることを伝えるべきか。 | 
| (主査、笑顔に戻る。) そうですね。ちなみに、どことどこを遮へいしますか?  | 傍聴席とXとを遮へいします。 | |
| (主査及び副査、うなずく。) それでは、また少し事案を変えます。 Xは、Aの上司としての情から、 自分が証言したばかりにAが処罰されてしまうのは嫌だと思うようになりました。 この場合に、Xが証言を拒絶することは許されますか?  | AとXは、単なる上司と部下で親族関係はないんですよね。 許されないと考えます。 | |
| 理由はわかりますか?まあ、さっきぼそっと言ってくれたけれど。 | Xは、Aと配偶者のような親族関係もなく、特に何らかの守秘義務を負っている事項とも考えにくいからです。 | |
| それでは、さらに、証人尋問の当日になっても、Xは、どうしても 証言したくないとして、出廷してくれません。 この場合に、検察官はどうすべきですか?  | 説得します。 | |
| それでも、Xの決意が固くて出廷してくれない場合は、どういう手段がありますか? | ええと、これは、検察官の権限で可能なことかどうか…。 | |
| ああ、最終的に判断するのは検察官じゃないだろうけれど。 | そしたら、勾引状の発付です。 | |
| そのとおりですね。まあ、実務では滅多にないことだけれど。 | でしょうね…。 | でしょうね。 | 
| 私からは以上ですが、副査からは 何かありますか? | ありがとうございました。 (一礼して退出する。)  | |
| (副査、首を横に振る。) 以上で試験を終わります。 お疲れ様でした。気を付けて帰ってくださいね。  | 
こちらも民事系と同じくかなり基本的な問題が問われているのがわかります。
担当する試験官によっては圧迫気味の試験になる可能性もありますが、基本的には試験官の誘導にのって答えを導くことができれば、試験を潜り抜けることが出来るでしょう。
また、刑事では、前半で刑法の基礎的な知識、後半で刑事手続きに関する知識を問われることが多いです。
いずれも、あまりにも複雑な事は問われませんので、応用的な話だけではなく、基本的な事をしっかり試験管に伝える事を意識するようにしましょう。
3.口述試験のポイント
◉試験官の問いに答えること
◉試験官の誘導に乗ること
口述試験では特別な知識は特に必要ではなく、試験上も特に要求されていません。
そのため対策としては当たり前の事を当たり前にこなすことが重要です。
試験官の問いに答える、と聞くとそんなの合えたりまえじゃないかと考える方もいるかもしれませんが、なかなか簡単なことではありません。
特に、知識があればあるほど話が回りくどくなってしまいがちで、最終的に何が言いたいのかよくわからない人もいます。
相手の問いに正確に答えられないという事は、法律家としては致命的です。
ただひたすら法律知識を披露するだけでは、問題を解決することができないばかりか、依頼者の信頼を得る事もできないでしょう。
そのため、特に口述試験では、試験官の問いに答えるという事を徹底するようにしましょう。
また、仮に試験官の問いにすぐには答えられなかったとしても、試験官も緊張は理解しているため、正解に導こうと受験生を誘導する質問をしてきてくれます。
その誘導にはうまく乗るようにし、試験官との会話の中で正解にたどりつけるようにしましょう。
ただし、同じ試験官でも、優しく誘導してくれる人もいますが、かなり圧迫気味に質問してくる試験官もいます。
緊張とあいまって回答が出なくなってしまうこともあるかもしれませんが、黙ってしまうのは厳禁なので、出来る限り会話を続け、場合によっては六法を参照しながら試験官の誘導を導き出せるようにすると良いでしょう。
4.論文式試験終了後から口述試験までにやるべきこと
4-1.過去問をこなすこと
事前対策について、まず論文式試験終了後(9月)は、過去問をやってみるところから始めましょう。
口述試験では、過去に出題された範囲の問題から再度出題されることが多いため、過去問で傾向を探っておくことは非常に重要な事だと言えます。
4-2.口述模試を受ける
論文式試験合格発表後(12月)には、各予備校が開催する口述試験の模試を受けるようにしましょう。
模試で本番の試験の雰囲気を味わうことで、試験当日に無用な緊張をしてしまうことを避ける事ができます。
もちろん、口述試験の傾向や、口述試験特有の作法を学ぶ事もできるでしょう。
予備試験の合格者のほとんどは予備校の模試を受けて合格しているため、よほど理由がない限り、口述試験の模試は受けるようにしましょう。
4-3.今までやってきた教材を一気に復習する
ここで新たな教材に手を出すのは避けるべきで、今までやってきた教材を再度復習することを主な対策とするようにしましょう。
特に、民事系であれば要件事実を、刑事系であれば刑法、刑事訴訟法の基礎的な知識を最優先で復習するようにしましょう。
議論のある複雑な論点ではなく、基礎的な論点を中心として復習することを心がけます。
もちろん試験ではツッコんだところまで聞かれる可能性はありますが、あくまで基礎的な知識をベースとして回答するよう心がけ、試験官の誘導にのるようにすれば問題ありません。
細かい知識まで復習できるのであればそれに越したことはありませんが、細かい知識ばかり復習して、基礎的な部分の復習が疎かにならないようにしましょう。
5.まとめ
◉口述対策のメインは口述模試
◉民事系であれば要件事実を、刑事系であれば刑法、刑事訴訟法の基礎的な知識
当記事では予備試験の口述式試験の概要やその対策について解説してきました。
口述試験の合格率は非常に高く、人によっては「自分は論文の成績もよかったし、絶対に落ちることはない」と油断してしまうかもしれません。
しかし、いくら知識がある人でも、実際に面接形式で回答するとなると、論文で使う知識とはまた違う頭の使い方が必要になります。
当日の緊張感も含めて考えると、模試などで事前に本番の雰囲気を体感しておくことは、非常に重要な対策となります。
伊藤塾の口述模試では、研修所での最新情報および多数の予備試験口述試験受験者の口述再現を収集・分析し、そこから作り上げた最新の内容を反映した 問題を使用します。そして、口述模試受験直後には、主査より考査内容・本番でのアドバイスをお伝えします。
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2024年 予備試験合格者 449人中 405名(90.2%)※2
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※1(講座内訳:入門講座698名、講座・答練337名、模試401名)
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