社労士試験の科目免除制度とは?対象者・申請方法・メリットデメリットを解説
基本情報
2025年10月30日
社会保険労務士(以下、社労士)試験の合格を目指す人にとって「科目免除制度」は、上手く活用することで大きなアドバンテージを得られる選択肢です。
一定の条件を満たすことで受験すべき科目を減らせるため、学習負担の軽減や学習の効率化につながります。一方で、得意科目の場合は免除をすることで逆に不利に働いてしまう可能性があるなど、利用の際に注意すべき点も存在します。そのため、制度を正しく理解した上で、自分の状況に合わせて慎重に判断することが大切です。
本記事では、社労士試験の科目免除制度について、その概要から適用される要件、申請手続きの方法をわかりやすく解説します。さらに、免除制度を利用するメリットとデメリットを整理した上で、科目免除をおすすめしないケースとその理由について掘り下げていきます。
科目免除制度を正しく理解し、最適な受験戦略を立てるために、ぜひ参考にしてください。
【目次】
1. 社労士試験の「科目免除」制度とは
社労士試験の科目免除制度とは、一定の条件を満たす受験生が、試験科目の一部を免除できる制度です。
これは、長年の実務経験などにより試験科目に関する十分な知識や能力を有すると認められる人に対して、その知識や能力を試験で重複して評価しないようにするために設けられたものです。
免除制度を利用するには所定の条件を満たす必要があり、免除できる科目は該当する条件に応じて変わります。
【免除による配点(免除加算点)】
科目免除を行うと、その科目に対して「免除加算点」が配点されます。 免除加算点は、以下の計算式により算出されます。
①選択式の免除科目の配点
総得点の合格基準点 ÷ 40点(満点) × 免除となる科目の満点
②択一式の免除科目の配点
総得点の合格基準点 ÷ 70 点(満点) × 免除となる科目の満点
2. 科目免除が適用される条件
科目免除は、複数ある要件の内、いずれかを満たすことで適用することができます。主な分類として「社会保険諸法令に関する実務経験による免除」「公務員経歴による免除」「実務経験+指定講習による免除」の3種類が存在します。以下に、それぞれの要件の一例をご紹介します。
本記事で紹介する条件以外にも、各科目には個別に定められた実務経験などの免除要件があります。
詳細は社労士試験オフィシャルサイトの「試験科目の一部免除資格者一覧」をご確認ください。
2-1.社会保険関係の実務経験による免除
社会保険関係の実務経験を一定期間有した場合に、科目免除ができるようになります。
■ 日本年金機構の役員又は従業者として社会保険諸法令の実施事務に従事した期間が通算して15年以上になる場合
【免除できる科目】
・健康保険法
・労働者災害補償保険法、雇用保険法、労働保険の保険料の徴収等に関する法律(3科目から最大2科目を選択)
・厚生年金保険法
・国民年金法
■ 全国健康保険協会の役員又は従業者として社会保険諸法令の実施事務に従事した期間が通算して15年以上になる
【免除できる科目】
・労働者災害補償保険法、雇用保険法、労働保険の保険料の徴収等に関する法律(3科目から最大2科目を選択)
・厚生年金保険法
・国民年金法
2-2.公務員経験による免除
公務員として労働・社会保険法令に関する事務に従事した人も、科目免除を利用できる場合があります。
■ 国又は地方公共団体の公務員として労働諸法令に関する施行事務に従事した期間が通算して15年以上になる場合
【免除できる科目】
・労働基準法及び安全衛生法
・労働者災害補償保険法
・雇用保険法
・労働保険の保険料の徴収等に関する法律
・厚生年金保険法、国民年金法(いずれか1科目)
■ 国又は地方公共団体の公務員として社会保険諸法令に関する施行事務に従事した期間が通算して15年以上になる場合
【免除できる科目】
・労働者災害補償保険法、雇用保険法、労働保険の保険料の徴収等に関する法律(3科目から最大2科目を選択)
・健康保険法
・厚生年金保険法
・国民年金法
2-3.免除指定講習の修了による免除
一定の実務経験がある人が、全国社会保険労務士会連合会が実施する指定講習を修了することで免除ができる科目もあります。実務経験として、以下のいずれかの従事期間が通算して15年以上(又は近い将来その期間に該当するもの)である場合に対象となります。
■ 社労士事務所又は社会保険労務士法人事務所の補助者
■ 健康保険組合・厚生年金基金・労働保険事務組合等の指定団体の役員又は従業者
講習を受講する科目を選択し、通信講座と面接指導を終えた後に、修了試験で良好な成績を取った場合に、その科目について免除が受けられます。それぞれの期間は、通信講座が6ヶ月間、面接指導が3日間、修了試験は40分間です。受講は1科目につき4万5000円の費用がかかります。
免除ができる科目は、以下の通りです。
【免除できる科目】
・労働者災害補償保険法、雇用保険法、労働保険の保険料の徴収等に関する法律(3科目から最大2科目を選択)
・厚生年金保険法、国民年金法(いずれか1科目)
・労務管理その他の労働及び社会保険に関する一般常識
2-4.科目免除に関するよくある勘違い
次に、科目免除について誤解されやすい注意点をお伝えします。
【大学院進学による免除制度は存在しない】
資格試験によっては、大学院で特定の課程を修了することで一部科目が免除される制度がありますが、社労士試験にはそのような制度は設けられていません。学歴に関わらず、免除対象となる資格を取得していない限り、全科目の受験が必要です。
【科目合格の制度はない】
社労士試験には「科目ごとの合格」という概念は存在しません。 例えば、ある年の試験で「労働基準法」の科目で満点を取ったとしても、翌年にその科目が免除されることはありません。総合的な合否判定で不合格となった場合は、高得点だった科目も含めて、翌年はすべての科目を改めて受験する必要があります。
3.科目免除のメリット
科目免除を活用することで、学習の負担軽減と効率化という大きな利点を得られます。ここからは、それらのメリットの具体的な内容を解説します。
3-1.学習範囲の削減
科目免除の最大のメリットは、学習すべき範囲と時間を大幅に削減できることです。一般的に1000時間もの学習が必要とされる社労士の学習において、1科目の免除は約100時間もの学習時間を短縮する効果があると言えます。
この削減は、他の受験生に対する大きなアドバンテージとなるでしょう。特に、仕事や家庭と両立しながら合格を目指す方にとっては、精神的な負荷を和らげる大きな支えとなります。
さらに、学習範囲が絞られることで類似の知識について混同が起こりにくくなり、より体系的に整理しながら学習を進めることが可能です。
このように、科目免除は精神的にも時間的にも余裕を生み出すというメリットを得られるため、合格に近付く大きな一歩となります。
3-2.学習の効率化
学習範囲が減ることによって時間的余裕が生まれることで、残りの科目に集中することができるようになります。これにより、単に「学習量を減らす」だけでなく、「学習の質を高める」ことができます。
例えば、以下のような学習方法が考えられます。
・苦手科目の克服に時間を使い、合格基準点落ちのリスクを下げる
・得意科目をさらに伸ばし、総合点を上げる
・過去問演習や模擬試験の回数を増やし、知識の定着度と実践力を高める
削減された時間を他の学習に回すことができるため、全科目を学習する場合と比べて、合格の可能性を高めることができます。
このように、科目免除は単に「やることが減る」だけでなく、「やるべきことの質を高める」というメリットを得ることができるのです。
4.科目免除のデメリット
科目免除は多くの利点がある制度ですが、利用する際に注意すべき点もあります。ここからは、制度を利用することによって起こり得るデメリットを説明していきます。
4-1.資格取得後の知識に差が生じる
免除科目については深く学習しないため、社労士として実際に活動を始めた際に知識の不足を実感することがあります。実務経験や指定講習で得られる知識と、試験合格のために学ぶ網羅的で体系的な知識とでは、質・量ともに異なる性質を持ちます。そのため、全科目を学習した合格者と比較して、知識の幅や深さに差が生じる可能性があります。
社労士として実務に携わる際、この知識の差がハンデとなる場合があることを、あらかじめ認識しておく必要があるでしょう。
4-2.免除講習は費用と時間がかかる
免除指定講習を受講して免除制度を利用する場合、1科目あたり4万5000円の費用がかかります。また、講習修了までには6ヶ月以上の期間が必要となり、申込時期も限定されているため、長期的な計画が不可欠です。
この費用と時間を、質の高い受験対策講座や教材の購入、そして直接的な学習時間に充てた方が、結果的に合格への近道になる可能性も十分にあります。
講習受講による免除を検討する際には、単に科目数を減らせるという点だけでなく、総合的な費用対効果を慎重に考えることが重要です。
5.科目免除を「しないほうが良い」ケース
科目免除制度はたとえ要件を満たしていたとしても、すべての人に適しているわけではありません。以下のようなケースでは、科目免除を利用せず、全科目での受験も検討することをおすすめします。
5-1. 資格取得後に即戦力として働く予定がある
資格合格後にすぐに第一線で活躍したいと考えているなら、科目免除は不利に働く可能性があります。なぜなら、免除によって生じる「知識量の差」が、実務において大きなハンデになることもあるからです。
多様な相談に適切に対応できる「即戦力となる社労士」を目指すなら、最新情報に基づいたバランスの良い知識をつけることが大切です。そのためには、あえて全科目受験をすることも検討をする必要があります。
5-2. 得意科目を免除しようとしている
得意科目の場合、科目免除を受けることが総合的な合否判定において不利に働く可能性があります。科目免除で配点される「免除加算点」は、その科目の満点ではなく、あくまで合格基準に達するための点数に過ぎません。もし実際に受験すれば免除加算点よりも高い得点が期待できる科目であれば、むしろ免除を受けないほうが総合点を高められる可能性があるということです。つまり、得意科目を免除することで、かえって合格のチャンスを下げてしまうことになりかねないのです。
「免除できるか」という視点だけでなく、「その科目を受験した方が総合点で有利になるか」という視点で、免除制度の活用を検討することが重要になります。
6.科目免除の申請手続き
科目免除を適用させるためには、社労士試験の受験申込時に一緒に申請をする必要があります。具体的な手順を説明していきます。
6-1. 必要書類の準備をする
科目免除を初めて申請する際は、要件を満たしていることを証明する書類が必要です。過去に科目免除を利用している科目については、改めて書類を提出する必要はありませんが、以前に免除の決定がされた際の免除決定通知書番号が必要になります。
【実務経験証明書】
実務経験証明書は、免除の要件として必ず必要となる実務経験を証明するために必須の書類です。
証明書の様式は、社労士試験オフィシャルサイトでダウンロードをすることができます。社労士試験の受験要件としても実務経験の証明を行う場合は、1つの証明書を併用することが可能です。
実務経験証明書には、実務経験を証明する勤務先の代表者や上司による証明欄の記入と、社印及び役職印が必須となります。証明を依頼する相手には事前に事情を説明し、早めに準備をしておきましょう。
【指定講習修了証】
指定講習を受けたことで免除を申請する場合には、実務経験証明書の他に、指定講習の修了証コピーの提出が必要です。受講後はなくさないよう保管をしておきましょう。
6-2. 受験申込書に必要事項を記入して申請をする
免除の申請をする際は、社労士試験を申し込む際に、免除項目の記入をする必要があります。申込用紙、またはインターネットの申込みフォームに従い、免除について必要な項目を埋めた上で申請をします。科目免除の申請は、必ず試験の申込期間内に、受験申込みと合わせて行う必要があるため、注意しましょう。
6-3.免除申請の注意事項
科目免除をした際は、通常の受験とは異なる点がいくつかあります。主に以下のような点に注意をしましょう。
①受験時間が短くなる
科目免除を適用すると、免除された科目分だけ試験時間が短くなります。短縮される時間は、以下のように計算されます。
・選択式試験:「10分間×免除科目の問題数」
・択一式試験:「3分間×免除科目の問題数」
②受験会場が別になる
通常の受験生とは試験時間が異なるため、科目免除者は原則として一般受験者と別の会場や教室で試験を受けることになります。
③択一式試験の試験問題の持ち帰りができない
科目免除者は一般受験者よりも早く試験が終了するため、試験の公平性を保つ観点から、択一式試験の問題用紙を持ち帰ることはできません。その代わりとして、9月頃に未使用の択一式試験の試験問題が送付されます。
④科目免除の審査結果は受験票とは別に届く
科目免除の申請は試験申込みと同時に行いますが、免除の審査結果は受験票とは別に送付されます。8月上旬に審査結果が郵送されてくるので、見落とさないよう注意しましょう。
⑤免除をするかしないかは1年ごとに決定できる
1つの科目について免除資格を取得した場合、翌年以降にその科目を免除するかどうかは、毎年自由に選択できます。同じ科目については、証明書類の提出は不要です。
7.科目免除資格は事前確認も可能
科目免除制度には、事前確認制度が設けられています。自分の経歴が実際に免除要件を満たしているか不安な場合は、試験申込みの前に確認することをおすすめします。
事前確認は、以下の手順によって行うことができます。
①「実務経験証明書」に必要事項を記入する
※事前確認の際は、勤務先等の証明は必要ありません
②送付状に「免除資格照会」であることを明記する
③全国社会保険労務士会連合会試験センターに送付する
※照会結果は電話にて、通常は書類到着から1週間以内に回答されます
この制度を活用することで、正式な試験申込み前に免除資格の有無を確定させることができます。免除できる科目が明確になることで、効率的な学習計画を立てられるというメリットがあります。
8.社労士の科目免除に関するQ&A
Q1.科目免除を使えば合格率は上がりますか?
A.科目免除を利用することで学習範囲が減り、残りの科目に集中できるため、適切に活用すれば合格率向上につながる可能性はあります。しかし、単に科目が減るだけで自動的に合格率が上がるわけではなく、残りの科目でしっかりと得点をする必要があります。
Q2.免除指定講習を受けてでも科目免除をする必要はありますか?
A.科目免除をすることで、試験当日の科目数が減少するため、精神的な負担は軽くなります。一方で、講座受講には一定の費用と時間が掛かるため、費用対効果を考えて検討をする必要があります。自分の状況や目標に合わせて判断しましょう。
Q3.申請が認められないことはありますか?
A.はい、あります。実務経験の内容が免除条件を満たしていない場合や期間が足りない場合、証明書に不備がある場合などは申請が認められないことがあります。不安がある時は、事前確認制度を利用して免除が適用されるかどうかを明らかにしておきましょう。
9.社労士試験の科目免除制度・まとめ
本記事では、社労士試験の科目免除制度について詳しく解説しました。
以下に、ポイントをまとめます。
◉社労士試験の科目免除制度とは、特定の条件を満たす受験生が試験科目の一部を免除できる制度です。
◉科目免除には、主に以下の3種類があります。
・社会保険諸法令に関する実務経験による免除:日本年金機構や全国健康保険協会の役員・従業者として社会保険諸法令の実施事務に15年以上従事した場合に特定の科目が免除されることがあります。
・公務員経歴による免除:国または地方公共団体の公務員として労働諸法令または社会保険諸法令に関する施行事務に15年以上従事した場合も免除の対象となることがあります。
・実務経験+指定講習による免除:社労士事務所の補助者や健康保険組合等の指定団体の役員・従業者として15年以上の実務経験がある人が、全国社会保険労務士会連合会の指定講習を修了することでも免除を受けられます。
◉科目免除のメリットとして、学習範囲の大幅な削減(1科目あたり約100時間の短縮効果)による学習負担の軽減と効率化が挙げられます。これにより、残りの科目に集中し、学習の質を高め、合格の可能性を高めることができます。
◉科目免除のデメリットとして、免除科目に関する知識の不足が生じ、資格取得後に実務でハンデとなる可能性がある点が挙げられます。また、免除指定講習の受講には1科目あたり4万5000円の費用と6ヶ月以上の期間が必要であり、費用対効果の慎重な検討が求められます。
◉科目免除を「しないほうが良い」ケース
・資格取得後に即戦力として働く予定がある場合:知識量の差が実務でハンデとなる可能性があるため、全科目受験を検討すべきです。
・得意科目を免除する場合:免除加算点よりも実際に受験して高得点を得た方が総合点が上がる可能性があるため、不利に働くことがあります。
◉科目免除の申請は、社労士試験の受験申込時に必要書類(実務経験証明書や指定講習修了証のコピーなど)を添えて一緒に行う必要があります。
◉科目免除者には、受験時間の短縮、一般受験者と異なる会場での受験、択一式試験の問題用紙持ち帰り不可といった注意点があります。
◉自分の経歴が免除要件を満たしているか不安な場合は、試験申込み前に「事前確認制度」を利用して確認することができます。
以上です。
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