敷金が返ってこないのは普通?年1万超のトラブル実態と法律上のルールを解説
不動産の費用・お金
「退去してしばらく経つのに、敷金が全然返ってこない…」
賃貸物件を退去した後、こんな経験をした方は多いのではないでしょうか。管理会社から届いた精算書を見て、「こんなに取られるの?」と驚きつつも、「まあ、敷金ってそういうものか」と納得してしまった方もいるかもしれません。
そんな方に向けて、この記事でお伝えしたいポイントは以下の3つです。
● 敷金は預けているお金であり、正当な理由なく差し引くことができないもの
● もし大半が差し引かれていたなら、余計な請求をされているかもしれない
● こうした敷金トラブルは毎年約1万3,000件発生している
この記事では、あなたが敷金で損をしないように、そして万が一トラブルに巻き込まれても管理会社にしっかりとした根拠を持って反論できるように、必要な法律知識をわかりやすく解説していきます。
法律の知識がない方でも理解できる内容になっていますので、ぜひ最後までお読みください。
【目次】
1. 敷金が返ってこないのは「普通」ではない
冒頭でもお伝えしましたが、敷金は「返ってこないのが普通」ではありません。敷金で損をしないために、まずは法律面のルールを整理していきましょう。
1-1. 敷金は「預けているお金」であり、返還が原則
敷金とは、賃貸借契約を結ぶ際に、賃料の未払いや退去時の原状回復費用などを担保(保証)するために、借主から貸主へあらかじめ預け入れるお金のことです。
以前は、敷金の定義や返還のルールは法律に明記されておらず、長らく慣習や過去の裁判例(判例)に委ねられてきました。しかし、2020年(令和2年)4月施行の改正民法によって、その定義や返還時期が法律上はっきりと明文化されました。
改正民法では、敷金を「いかなる名目をもってするかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる借主の貸主に対する金銭の支払を目的とする債務を担保する目的で、借主が貸主に交付する金銭」と定義しています。
簡単に言えば、敷金には「退去までに発生した未払い賃料や、借主が負担すべき修繕費などを差し引いた残額は、必ず返還しなければならない」という法的性質があることが明確にされたのです。
また、返還されるタイミングについても「賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還(明け渡し)を受けたとき」と定められました。「明け渡し」が先で「敷金の返還」が後という順序も、トラブルを防ぐための重要なルールとして確立されています。
1-2. 普通に暮らしていれば、敷金から差し引かれる金額は少ない
では、どのような費用が敷金から差し引かれるのでしょうか。主に挙げられるのが、家賃の滞納分と、退去時の原状回復費用です。
「原状回復」と聞くと、「入居時の状態」に戻さなければならないというイメージを持つかもしれませんが、そうではありません。普通に暮らしていて生じた損耗や経年変化の修繕費は、毎月の家賃に含まれているため、退去時に改めて負担する必要はないのです。
《敷金から払う必要がない費用の例》
● 日照による壁紙やフローリングの色あせ
● 家具を置いていたことによる床のへこみ
● 画鋲やピンによる小さな穴 など
つまり、普通に生活していれば、敷金から差し引かれる金額はかなり限られているといってよいでしょう。こうした基準は「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(国土交通省)」で詳しく示されています。
※以下の記事で解説していますので、あわせてご覧ください。
2. 敷金が全額返ってこないときの主な理由
1章で解説したとおり、普通に生活していれば敷金から差し引かれる金額は限られるのが原則です。ただし、以下のような理由がある場合は、敷金の一部または全額が返ってこないこともあります。
- 家賃を滞納している
- 故意・過失による損傷がある
- 契約書で特約が定められている
- 敷引きの特約がある
2-1. 家賃を滞納している
敷金から差し引かれるのは、部屋の修繕費だけではありません。本来、敷金には「借主の債務(借金)を担保する」という役割があるからです。
もし退去時に家賃の滞納がある場合、貸主はその未払い分を敷金から当然に差し引くことができます。これは「家賃」だけでなく、管理費や共益費、あるいは遅延損害金が発生している場合も同様です。
また、「最後の一ヶ月分を家賃として敷金から引いてほしい」と借主側から請求することは原則できませんが、貸主側は退去時に残っている未払い分をすべて計算し、敷金と相殺(相殺的な充当)を行います。
2-2. 故意・過失による損傷がある
わざと付けた傷や、普通とはいえない使い方による損傷がある場合、その修繕費用は敷金から差し引かれます。たとえば、以下のようなケースです。
- タバコのヤニによる壁紙の変色・臭い
- ペットがつけた柱や床の傷
- 故意もしくは過失により壊した壁や扉 など
特に喫煙やペット飼育による損傷は修繕範囲が広がりやすく、敷金を上回って追加請求される場合もあります。ただし、繰り返しになりますが、普通に生活していて本当に故意・過失といえるような損傷が生じることはそれほど多くはありません。
2-3. 契約書で特約が定められている
法律上、経年変化や通常損耗は貸主が負担すべきものですが、物件によっては特約で借主負担と定められていることがあります。
実務上多いのは、「ハウスクリーニング費用」や「エアコン清掃費用」を借主負担とする特約です。なかには借主にとって不利な内容もありますが、ガイドラインでもこうした特約を一律に禁止しているわけではありません。
契約時にこうした特約に合意していれば、その費用は敷金から差し引かれることになります。必ず契約前に特約の内容を確認しておきましょう。
2-4. 敷引きなどの商慣習がある
敷引き(しきびき)とは、退去時に敷金の一定額を無条件で差し引く商慣習のことです。主に関西や九州など西日本で多く見られます。
たとえば「敷金3ヶ月・敷引き2ヶ月」という契約なら、部屋をどれだけきれいに使っていても2ヶ月分が差し引かれ、戻ってくるのは1ヶ月分だけです。
敷引き特約については、最高裁判例(最判平成23年3月24日)により、一定の条件のもとで有効と認められています。ただし、敷引金の額が月額賃料と比較して高額すぎる場合や、契約時に賃借人が予測できないような設定になっている場合には、無効と判断される可能性があります。契約前に敷引きの有無と金額を必ず確認し、納得できない場合は署名前に交渉することが重要です。
3. 毎年、約1万3,000件の敷金トラブルが発生している
ここまで解説してきたとおり、敷金は原則として返還されるものです。決して、「敷金が返ってこないのが普通」ではありませんし、通常の生活をしていれば敷金から差し引かれる金額はかなり限られます。
しかし実際には、こうしたルールを知らない借主に対して、本来請求できない費用まで上乗せして請求するような敷金トラブルが後を絶ちません。
国民生活センターによると、「敷金が返金されない」「敷金を上回る金額を請求された」などといった原状回復に関する相談が、毎年約1万3,000件も寄せられているそうです。
《賃貸住宅の原状回復トラブルの相談件数の推移》
| 年度 | 相談件数 |
| 2022 | 12,885 |
| 2023 | 13,723 |
| 2024 | 13,277 |
| 2025 | 1,641 |
※2025年5月31日現在
出典:国民生活センター「賃貸住宅の原状回復トラブル」
国民生活センターに相談していないケースもあるはずなので、実際には上記よりはるかに多い敷金トラブルが発生していると考えてよいでしょう。
3-1. 退去時に約90万円を請求されるケースも
国民生活センターの相談事例のなかには、原状回復費用として約90万円を請求されたようなケースも紹介されていました。
《国民生活センターに寄せられた相談事例》
4年前に家賃約7万円、敷金礼金なし、築17年の賃貸アパートに入居し、先日退去した。退去後、管理会社から清算書が届き、原状回復費用として約90万円を請求され、納得できず見直しを要求したところ70万円になった。入居時、室内の壁紙やフロアマットは前の住人が汚したままで、当時の管理会社の担当者もそのことは確認していた。退去にあたり、立会いはなかった。通常の清掃を行い、普通に住んでいただけである。どうすればよいか。
引用:国民生活センター「相談事例 (2024年7月受付 20歳代 男性)」
家賃7万円程度の物件で4年間、普通に生活していたにもかかわらず約90万円の原状回復費用を請求されるというのは、通常では考えられません。少し極端な例ですが、似たようなトラブル事例がいくつも発生しているのは、毎年1万件以上の相談件数が示すとおりです。
3-2. 賃貸トラブルから身を守るには法律の知識が必要
上記のようなトラブルから身を守るには、法律の知識を身につけるしかありません。
- 入居する時に、一方的に不利な特約がついていないかを確認する
- 退去する時に、支払わなくていい費用が請求されていないかをチェックする
こうした判断ができるだけで、不当な請求から自分を守ることができます。
知識がなければ、業者に「これが普通ですよ」と言われて納得してしまいますし、理論武装なしで交渉しても、相手を動かすことはできません。
自分の権利を守れるかどうかは、結局のところ知識があるかないかで決まるのです。
4. 人生で損しないための不動産知識を学べるのが宅建士資格
こうした知識は、ネットで調べることもできますが、断片的な情報だけでは実際の契約書や請求書を前にした時に正しい判断はできません。
また、実際にはすぐに調べられるとも限りません。こうしたトラブルの多くは、そもそも何の疑いもなく契約書にサインしてしまい、後から「調べておけばよかった」と気づいて後悔するケースがほとんどです。
そこで、こうした知識を体系的に身に付ける手段としておすすめなのが、国家資格である「宅建士(宅地建物取引士)」の取得を目指して勉強することです。
4-1. 宅建士試験の勉強で身につく知識の例
宅建士ときくと、「不動産会社で働く人のための資格」というイメージがあるかもしれません。しかし、宅建士試験で学ぶ内容は、不動産に関するあらゆる場面で自分の身を守るための知識そのものです。
- 敷金はどこまで返ってくるのか(今回の記事の内容)
- 本来支払わなくていい退去費用はどれか
- 契約前の重要事項説明で何をチェックすべきか
- 仲介手数料の上限はいくらか
- 家賃の値上げを求められた時にどう対応すべきか
上記のような、不動産に関わる場面で求められる知識が、試験勉強のなかで自然と身についていきます。
※宅建士の勉強で身につく知識がどう役立つのか、以下の記事でも具体的に紹介しています。
4-2. 国家資格なので、就職・転職でも有利になる
宅建士は、不動産取引の専門家として認められた国家資格です。そのため、実生活で役立つだけでなく、就職・転職の場面でも有利に働きます。
たとえば、不動産会社には、事務所ごとに業務に従事する者5人に1人以上の割合で、成年者である「専任の宅地建物取引士」を設置する義務があります。宅建士が不足すると事務所の運営自体に支障が出るため、求人でも「宅建士資格保有者歓迎」「資格手当あり」と記載されているケースは非常に多いです。
さらに、不動産業界だけでなく、融資の担保評価を行う金融機関や、店舗開発を担う小売業、建築会社などでも評価されるため、キャリアの選択肢が大きく広がります。
※宅建士については、以下の記事で詳しく解説しています。
5. 楽しく、無理なく宅建士を目指すなら伊藤塾
ここまでお読みいただき、「宅建士に興味が出てきたけど、法律の勉強って難しそう…」と感じた方もいるかもしれません。そんな方におすすめしたいのが、法律資格の受験指導校である 伊藤塾の「宅建士合格講座」です。
5-1. 現役の宅建士による楽しい講義
伊藤塾の講義を担当するのは、現役の実務家講師です。
今回の記事で取り上げたような敷金トラブルの話とも直結する、実務のリアルなエピソードを交えた講義なので、「法律って意外とおもしろい」と感じながら学習を進められます。
覚えにくい知識にはゴロ合わせも活用するなど、楽しく続けられる工夫が随所に詰まっています。
5-2. 1コマ30分の講義でスキマ時間でも知識が身につく
「まとまった勉強時間が取れない」という方もご安心ください。
伊藤塾の講義は1コマわずか30分。通勤時間や昼休み、家事の合間などのスキマ時間を上手く使えば、忙しい社会人でも無理なく知識が身につきます。
スマホやPCから自分のタイミングで受講できるので、時間も場所も選びません。
5-3. 試験対策に必要なすべてが含まれて39,800円
オリジナルテキスト、厳選過去問集、模擬試験、学習アプリ、さらにはスクーリングやオンライン質問会といった学習サポートまで、合格に必要なものがすべて含まれて39,800円(税込)です。追加料金は一切かかりません。
6. 賃貸物件の敷金に関するよくある質問
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退去時の立ち会いは必要ですか?
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立ち会いは義務ではありませんが、基本的には参加することをお勧めします。不在中に確認が行われると、身に覚えのない傷を指摘された際に証拠がなく、反論が難しくなるからです。納得できない費用がある場合はその場ですぐにサインせず、一度持ち帰って検討する姿勢が大切です。
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敷金はどのタイミングで返ってきますか?
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一般的には、退去して部屋を明け渡してから1〜2ヶ月後に返還されます。原状回復費用の精算が完了した後、差し引いた残額が振り込まれる流れです。管理会社によっても異なるので、事前に確認しておきましょう。
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敷金が返ってこないときはどうすればいいですか?
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まずは明細を請求し、本記事で紹介したガイドラインなどを参考に、管理会社へ連絡してみましょう。根拠を示して交渉すれば、減額や返還に応じてもらえるケースもあります。
それでも解決しない場合は、消費生活センターなどに相談してみるのがおすすめです。
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敷金の返還トラブルを未然に防ぐ方法はありますか?
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入居時に部屋の状態を写真に残しておくのが有効です。傷や汚れがあれば日付入りで撮影し、貸主側にも共有しておきましょう。また、契約書の特約(ハウスクリーニング代や敷引きなど)を契約前に必ず確認しておくことも大切です。
7. 【まとめ】敷金が返ってこないトラブルを防ぐための正しい法律知識
本記事では、賃貸物件の退去時に発生しやすい敷金トラブルの実態と、自分を守るための法律上のルールについて解説しました。
以下にポイントをまとめます。
- 敷金は原則として返還されるお金です。普通に暮らしていて生じた経年変化や通常損耗の修繕費は毎月の家賃に含まれているため、退去時に敷金から負担する必要はありません。
- ただし、家賃の滞納や故意・過失による損傷、または契約時に定められた特約(ハウスクリーニング費用や敷引きなど)がある場合は、敷金から費用が差し引かれます。
- 「敷金が返ってこない」「不当に高額な退去費用を請求された」といった原状回復をめぐるトラブルは毎年1万件以上発生しています。
- 業者からの不当な請求や不利な特約から自分を守るためには、正しい法律知識を身につけることが最も有効な自衛手段となります。
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