中小企業診断士はAIに代替される?専門性の掛け算で生き残る方法

先輩実務家の声

中小企業診断士はAIに代替される?専門性の掛け算で生き残る方法

【監修:磯邊大輔 先生(中小企業診断士・MBA ・PMP・伊藤塾 中小企業診断士講座 経営情報システム担当)】

「AIに仕事を奪われるのではないか」「これから中小企業診断士を目指しても、AIに取って代わられるのではないか」。生成AIが急速に広がるなか、こうした不安を抱く人は少なくありません。とくに知識を扱う経営コンサルティングの仕事ほど、その心配は大きくなります。

本記事は、伊藤塾「明日の中小企業診断士講座第5回」での磯邊大輔先生(中小企業診断士・MBA・PMP、経営情報システムを担当)の講演から、講師自身の言葉を引用しながら、AI時代に中小企業診断士が代替されにくい理由を解説します。磯邊先生は、経営とITを掛け合わせてきた自身の歩みをもとに語ります。引用と総務省の公的データの両面から確かめていきます。

1. 中小企業診断士はAIに代替されるのか

代替されにくい職業です。AIは過去のデータから平均的な答えを出すのは得意ですが、前例のない判断や経営者との対話は、人にしか担えないからです。

生成AIの進化を前に、経営コンサルタントである中小企業診断士の仕事も消えるのではという声があります。磯邊先生の答えは明快です。AIは強力な道具ですが、使う側の判断までは肩代わりできません。だからこそ、AIを使いこなす専門家の価値はむしろ高まります。

1-1. 磯邊大輔講師とはどのような中小企業診断士か

磯邊先生は、伊藤塾の中小企業診断士講座で経営情報システムを担当する講師です。中小企業診断士に加え、MBAとPMP(プロジェクトマネジメントの国際資格)を持ち、経営とITの両面から中小企業を支援してきました。

磯邊大輔 先生

中小企業診断士、MBA、ITエンジニア。ここまで専門性を持っている人はあまりいないと思います。でも、どうしてこうなれたのかというと、私が絶えず、ずっと勉強してきたからです。そして勉強すれば誰でもなれます。特別じゃないです。
出典:伊藤塾YouTube明日の中小企業診断士講座【第5回】専門性を持つ者だけが、経営の未来を語れる-AI・DX時代に問われる、経営×情報システムという専門性の本質-

この自己紹介は、本記事のテーマそのものです。磯邊先生は、大手SIerでのシステム開発、事業会社でのIT戦略の企画立案、ITコンサルティングファームでの勤務を経て、中小企業診断士として支援業務に従事してきました。経営とITとエンジニアリングを掛け合わせた歩みが、AIを語る説得力の土台になっています。

1-2. AIに代替される仕事とされない仕事の境界はどこにあるか

仕事は大きく3つに分かれます。完全に自動化される領域、AIが補助する領域、人にしかできない領域です。中小企業診断士の仕事は、3つ目が中心です。

磯邊大輔 先生

あなたの仕事で、AIエージェントに奪われる部分はどこでしょう。大体3つに分かれます。完全に自動化される仕事、AIに補助される仕事、そして人間にしかできない仕事です。診断士は、この人間にしかできない領域が多いんです。
出典:伊藤塾YouTube明日の中小企業診断士講座【第5回】専門性を持つ者だけが、経営の未来を語れる-AI・DX時代に問われる、経営×情報システムという専門性の本質-

磯邊先生が人にしかできないと挙げるのは、経営者との信頼関係の構築やヒアリング、そしてAIが出した分析の解釈と最終判断です。これらは高い知識と長年の経験に支えられ、AIには置き換えにくい領域です。

ただし、補助される領域は年々広がっています。資料作成や議事録、補助金申請書類の下書きなどは、すでにAIが担い始めています。だからこそ、AIが出した答えを評価できる専門性が要になります。中小企業診断士の具体的な仕事内容やキャリアパスも、あわせて確認しておくと理解が深まります。

2. なぜAIが普及するほど専門性の価値が上がるのか

AIは誰でも使える時代だからこそ、その結果を正しく評価し、判断できる専門性の価値が高まるからです。市場の急拡大が、その価値をさらに押し上げます。

AIは市場としても活用としても急速に広がっています。ただし広がるほど、AIを正しく使いこなせるかどうかで差が開きます。まず、講師の実感と公的データで現在地を確認します。

2-1. AI市場と企業の活用はどこまで広がっているか

AIの市場は、世界でも国内でも急拡大しています。ただし中小企業での活用はまだ道半ばで、使いこなす人材の余地が大きく残されています。

磯邊大輔 先生

5年や6年で市場が4.5倍に広がる。おそらくAI市場以外にありません。とんでもないスピードで市場が拡大しています。
出典:伊藤塾YouTube明日の中小企業診断士講座【第5回】専門性を持つ者だけが、経営の未来を語れる-AI・DX時代に問われる、経営×情報システムという専門性の本質-

磯邊先生がこう驚く市場の伸びは、公的データにも表れています。総務省の令和7年版情報通信白書によると、世界のAI市場は2024年(令和6年)の1,840億ドルから2030年(令和12年)には8,267億ドルへ、国内のAIシステム市場も2024年の1兆3,412億円から2029年(令和11年)に4兆1,873億円へ拡大すると予測されています。
出典:総務省「令和7年版情報通信白書」市場概況

もっとも、活用は道半ばです。日本企業で生成AIの活用方針を定めているのは2024年度で49.7%、うち中小企業は約34%にとどまります。裏を返せば、AIを使いこなせる人材が活躍できる余地が、中小企業にはまだ大きく残されています。
出典:総務省「令和7年版情報通信白書」企業におけるAI利用の現状

2-2. AIの本質とは何か、なぜ「正しい範囲でしか正しくない」のか

AIの本質は、大量のデータを学習し、確率的に答えを推論する仕組みです。だから正しいデータと正しい問いの範囲でしか正しくない、と磯邊先生は説明します。

磯邊大輔 先生

AIは魔法の杖ではありません。所詮はITのツールです。機械学習と推論モデルなので、回答の質は学習データの質と量に依存する。AIは、正しいデータと正しい問いを与えられた範囲でしか正しくないんです。
出典:伊藤塾YouTube明日の中小企業診断士講座【第5回】専門性を持つ者だけが、経営の未来を語れる-AI・DX時代に問われる、経営×情報システムという専門性の本質-

学習データが偏れば答えも偏ります。的外れな前提で質問すれば、もっともらしい日本語で誤った答えが返ってきます。中身を知らないと、その誤りに気づけません。だからこそ、AIの答えが妥当かを見抜く判断力が価値になります。

藤井聡太さんはAIを使っているからと言われますが、今のプロ棋士はおそらく全員がAIを使っています。同じ道具を使っているのに、彼は断トツで強い。つまりAIの使い方を理解している。AIに使われていないんです。
出典:伊藤塾YouTube明日の中小企業診断士講座【第5回】専門性を持つ者だけが、経営の未来を語れる-AI・DX時代に問われる、経営×情報システムという専門性の本質-

同じAIを使っても、使う側の理解と判断力で結果は大きく変わります。AIに使われるのではなくAIを使って価値を生み出す側に回れるかが、これからの分かれ目になります。

3. AIに代替されない診断士に必要な「専門性の掛け算」とは何か

一つの専門性だけで戦うのではなく、経営に情報システムなど別の専門を掛け合わせるT字型の専門性です。掛け算が視野と判断の質を高めます。

磯邊先生が最も強調するのが、専門性の掛け算です。すでに誰もが、仕事のなかで何らかの専門性を持っています。その一本目の柱に別の専門を掛け合わせることで、AIに代替されにくい人材になれると語ります。

3-1. T字型人材とは何か(縦の専門性と横の広さ)

T字型人材とは、一つの分野を深く掘り下げた縦の専門性に、隣接する分野の横の広さを掛け合わせた人材です。磯邊先生は、縦だけでも横だけでも通用しにくい時代だと指摘します。

磯邊大輔 先生

単一の専門性では見えない景色があります。専門が深いほど、その領域の外側が見えにくくなるからです。縦の専門性はすでに皆さん持っている。それをさらに横に広げていきませんか。縦だけでもダメ、横だけでもダメなんです。
出典:伊藤塾YouTube明日の中小企業診断士講座【第5回】専門性を持つ者だけが、経営の未来を語れる-AI・DX時代に問われる、経営×情報システムという専門性の本質-

営業一筋の人がDX推進でつまずくことがあるように、深い専門知識も、その外側を見渡す視野がなければ活かしきれません。作れることと、何を作るべきかは別の判断だからです。磯邊先生は、横の広さを手に入れる方法は学び続けることだけだと言います。

3-2. なぜ経営と情報システムの掛け算が強いのか

経営と情報システムの掛け算が強いのは、AIやDXの本質を理解したうえで、経営への影響まで語れるからです。技術の中身がわかる人は、AIの限界やリスクも見抜けます。

磯邊大輔 先生

私はエンジニア畑の人間なので、技術の中身を知っています。だからAIの限界や本質、弱点も見える。MBAを持っているので経営に与えるインパクトも語れる。診断士としての活動もしているので、中小企業にAIがどう影響するかも語れる。この3つの専門性があるから語れることがある。これが専門性の掛け算の力です。
出典:伊藤塾YouTube明日の中小企業診断士講座【第5回】専門性を持つ者だけが、経営の未来を語れる-AI・DX時代に問われる、経営×情報システムという専門性の本質-

技術・経営・現場という3つの視点が重なることで、AIの可否を正しく判断し、経営者に伝わる言葉で助言できます。ただし、掛け算の答えは一つではありません。営業の経験に経営の視点を掛ける、製造の知見に財務を掛けるなど、人それぞれの一本目の柱に応じて組み合わせは変わります。

3-3. 専門性の掛け算が生む3つの力とは

磯邊先生は、掛け算が生む力を3つに整理します。物事を多角的に見る力、AIに代替されない判断力、異なる分野をつなぐ翻訳力です。

磯邊大輔 先生

掛け算が生み出すものには、3つの力があると思っています。多角的に物事を見る力、AIに代替されない判断力、そして異なる世界をつなぐ翻訳力です。
出典:伊藤塾YouTube明日の中小企業診断士講座【第5回】専門性を持つ者だけが、経営の未来を語れる-AI・DX時代に問われる、経営×情報システムという専門性の本質-

一つの専門に閉じていると外側が見えにくくなりますが、複数の視点を持つと、AIの分析を経営の言葉に翻訳して経営者へ届けられます。この翻訳力こそ、AIと経営者の間に立つ中小企業診断士の強みです。分析と現場をつなぐ役割は、人にしか担えません。

4. AIを「使いこなす側」になるために何を学ぶべきか

AIのリスクを理解して対策できる知識と、学びを止めない姿勢です。この2つが、AIに使われる側と使いこなす側を分けます。

専門性の掛け算は、学びによってしか手に入りません。ここでは、AIを使いこなす側に回るために身につけたい2つを整理します。

4-1. AIのリスクを理解し対策できる人材になるには

AIには、事実と異なる内容を生成するハルシネーション、機密情報の漏洩、著作権などのリスクがあります。仕組みを理解している人ほど、こうしたリスクへの対策を立てられます

磯邊大輔 先生

AIには不都合な真実もあります。ハルシネーション、なりすまし、機密データの漏洩、著作権の問題。いいことばかりではなく、リスクもあるんです。ただ、AIがどんな仕組みや技術で成り立っているかを把握している人は、リスクとその対策をしっかり立てられます。
出典:伊藤塾YouTube明日の中小企業診断士講座【第5回】専門性を持つ者だけが、経営の未来を語れる-AI・DX時代に問われる、経営×情報システムという専門性の本質-

磯邊先生は、社内のAI利用ポリシーの整備、入力データの管理、人による最終チェック、社員教育などが対策になると語ります。いずれも、AIがどんな技術で動くかを理解して初めて設計できます。守りを設計できる人材は、経営者から頼られます。

4-2. 学び続ける姿勢がなぜ専門性を掛け算に変えるのか

学び続ける姿勢が、専門性を掛け算に変えます。新しい分野を学ぶほど視点が増え、増えた視点が判断の質を高め、価値の高い仕事につながるからです。

磯邊大輔 先生

掛け算を可能にするのは、やっぱり学びしかありません。勉強すればするほど価値が高まっていくし、勉強しない人は価値を発揮しにくくなる。
出典:伊藤塾YouTube明日の中小企業診断士講座【第5回】専門性を持つ者だけが、経営の未来を語れる-AI・DX時代に問われる、経営×情報システムという専門性の本質-

学びの需要は、公的データにも表れています。日本企業の生成AIの活用方針は2024年度で49.7%と、前年度2023年度の42.7%から広がっています。AIを前提とした支援の需要が高まるなか、学び直す人材の価値は上がっています。
出典:総務省「令和7年版情報通信白書」企業におけるAI利用の現状

中小企業診断士は、経営という汎用的な視点を体系的に学べる、国内唯一の経営コンサルタントの国家資格です。すでに持つ専門性に経営の視点を掛け合わせたい人にとって、有力な選択肢になります。実際に、働きながら学び直して視野が広がったという声もあります。

AIが広がるなかでの中小企業診断士の需要と将来性については、こちらの記事で詳しく解説しています。

5. 中小企業診断士のAI代替に関するよくある質問(FAQ)

中小企業診断士はAIに代替されて仕事がなくなりますか?

なくなりにくい職業です。AIは過去のデータから平均的な答えを出すのは得意ですが、経営者との信頼構築や、分析を現場が動ける策に変える判断は人にしか担えません。AIを道具として使いこなす診断士は、むしろ活躍の場を広げられます。

AIに代替されない仕事とされる仕事の違いは何ですか?

仕事は、完全に自動化される領域(データ収集やレポート作成)、AIが補助する領域(提案書の下書き)、人にしかできない領域(信頼構築や最終判断)の3つに分かれます。中小企業診断士は3つ目が中心のため、代替されにくい職業です。

中小企業のAI活用はどのくらい進んでいますか?

総務省の令和7年版情報通信白書によると、日本企業で生成AIの活用方針を定めているのは2024年度で49.7%、うち中小企業は約34%です。活用はこれから広がる段階で、AIを使いこなせる人材が活躍できる余地は、今後も大きいと考えられます。
出典:総務省「令和7年版情報通信白書」企業におけるAI利用の現状

専門性の掛け算とは具体的に何ですか?

一つの専門性に、別の専門を掛け合わせることです。磯邊先生の場合は経営とITの掛け算です。営業に経営、製造に財務など、すでに持つ一本目の柱に応じて組み合わせは変わり、正解は一人ひとり違います。

T字型人材とは何ですか?

一つの分野を深く掘る縦の専門性に、隣接する分野の横の広さを掛け合わせた人材です。縦だけでも横だけでも通用しにくい時代に、AIに代替されにくい人材像とされています。

AIに代替されないために必要なスキルは何ですか?

AIの答えの妥当性を見抜く判断力、ハルシネーションや情報漏洩などのリスクを理解する知識、そして学び続ける姿勢です。この3つが、AIを使いこなす側に回るための土台になります。

経営情報システムはAI時代に役立つ科目ですか?

役立ちます。経営情報システムはAIやITの仕組みを学ぶ科目で、AIの限界やリスクを見抜く基礎になります。中小企業診断士は経営とITを体系的に学べる国家資格で、AI時代の掛け算に向いています。

AIが得意なのに、人が学ぶ意味はありますか?

あります。AIは平均的な答えを導くことは得意ですが、その結果を評価し、経営や現場に合わせて判断するには人の専門性が欠かせません。学ぶほど視点が増え、AIを使いこなす判断力が身につきます。

これから中小企業診断士を目指す価値はAI時代にもありますか?

あります。AIが広がるほど、AIを使いこなし、人にしかできない判断で経営を支える専門家の価値は高まります。診断士の需要と将来性は、関連記事でも詳しく解説しています。

6. 中小企業診断士はAIに代替されず専門性の掛け算で生き残れる

中小企業診断士は、AIに代替されにくい職業です。AIは答えを平均へ近づけますが、前例のない判断や経営者との対話は人にしか担えません。AIを道具として使いこなし、専門性を掛け合わせる診断士は、これからも価値を高められます。

最後に要点をまとめます。

  • AIは仕事を均質化させるが、前例のない判断と最終決定は人に残る
  • 仕事は完全自動化、AI補助、人にしかできないの3領域に分かれ、診断士は人にしかできない領域が中心
  • 生き残る鍵は専門性の掛け算で、経営に別の専門を掛けるT字型人材が強い
  • 掛け算は、多角的な視点、AIに代替されない判断力、翻訳力の3つの力を生む
  • AIのリスクを理解し、学び続ける姿勢が、使いこなす側と使われる側を分ける

※伊藤塾 明日の中小企業診断士講座【第5回】専門性を持つ者だけが、経営の未来を語れる-AI・DX時代に問われる、経営×情報システムという専門性の本質-の動画はこちらをご覧ください。

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磯邊先生は、講演の最後にこう問いかけます。

3年後、あなたはどちら側にいますか。AIに仕事を取って代わられて価値が下がる側か、それともAIを使いこなして価値を上げる側か。
出典:伊藤塾YouTube明日の中小企業診断士講座【第5回】専門性を持つ者だけが、経営の未来を語れる-AI・DX時代に問われる、経営×情報システムという専門性の本質-

この問いへの答えを分けるのが、専門性の掛け算です。これから受験を検討する人は、まず自分の一本目の専門性を書き出し、そこに経営の視点を掛け合わせられるか考えてみてください。すでに学習中の人は、経営情報システムをAIの仕組みを理解する入り口として学ぶと、掛け算の実感が深まります。

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伊藤塾 中小企業診断士試験科

著者:伊藤塾 中小企業診断士試験科

中小企業診断士資格を保有する講師・合格経験者で構成された専門チームが監修・執筆しています。1次試験7科目・2次試験4事例という複合構造を持つ本試験について、ストレート合格率約4〜8%の難関資格を突破するための学習戦略・独立開業の実態・他資格との相性まで、実務経験豊富な専門チームが正確にお届けします。