特定社会保険労務士とは?社労士との違いや資格取得の方法を徹底解説

社労士とは

2002年(平成14年)の社会保険労務士法改正であっせん代理業務が社労士の業務に加わり、2005年(平成17年)の改正では、これを拡大した紛争解決手続代理業務が新設されました。あわせて特別研修と試験の制度が設けられ、これを修了・合格した社労士が特定社会保険労務士(以下、特定社労士)です。

本記事では、特定社労士の役割、一般の社労士との違い、資格取得の方法について詳しく解説します。特定社労士について詳しく知りたい人、これから特定社労士の資格取得に挑戦しようと考えている人必見の内容なので、ぜひ最後までご覧ください。

1. 特定社労士とは

特定社労士とは、社労士資格を有する者がさらに高度な専門知識を身に付け、特定の業務を行うために認定された資格です。労働問題やトラブル解決における専門家として、企業と労働者の間に立ち、裁判外での円滑な解決を目指す役割を担っています。

1-1. 特定社労士の役割

特定社労士が特に注目されるのは、労働紛争の解決における代理人としての役割です。以下に、具体的な業務内容を詳しく解説します。

【労働紛争の代理業務】

労働者と企業の間で紛争が発生した場面で、依頼者の意見や要望を代弁し、相手方との交渉を進めます。また、法的知識をもとに最適な解決策を提案します。例えば、不当な解雇や未払い残業代などの問題が発生した場合、労働者または企業の代理人として、都道府県労働局のあっせん*手続きに参加することが可能です。この手続きは裁判よりも簡易で迅速、かつ低費用で解決できる手段であり、特定社労士はその紛争解決の代理人となることができます。なお、特定社労士が行うことができる紛争解決代理業務として法律に定められている内容は以下のとおりです。

  • 個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第6条第1項の紛争調整委員会における、同法第5条第1項のあっせんの手続きについての紛争当事者の代理
  • 次の6つの法律に基づく調停の手続きについての紛争当事者の代理
     ・障害者の雇用の促進等に関する法律第74条の7第1項(障害者への差別、合理的配慮の提供)
     ・労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律第30条の6第1項(パワーハラスメント)
     ・雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律第18条第1項(性別による差別、セクシュアルハラスメント)
     ・労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律第47条の8第1項(派遣労働者の待遇)
     ・育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律第52条の5第1項(育児休業、介護休業)
     ・短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律第25条第1項(パートタイム労働者、有期雇用労働者の待遇)
  • 地方自治法第180条の2の規定に基づく都道府県知事の委任を受けて都道府県労働委員会が行う、個別労働関係紛争に関するあっせんの手続きについての紛争当事者の代理
    ※東京都、兵庫県、福岡県では、労働委員会による個別労働関係紛争のあっせんを実施していません。これらの地域では、都道府県の労働相談機関などが同様の役割を担っています。
  • 個別労働関係紛争に関する民間紛争解決手続きであって、厚生労働大臣が指定する団体が行うものについての紛争当事者の代理(紛争の目的の価額が120万円を超える場合は、弁護士が同一の依頼者から受任しているものに限られます)

【トラブル発生の予防】
特定社労士は、紛争に発展しそうな事案について労働者と企業が円満に和解できるよう、助言や交渉を行います。これにより、あっせんや調停に移行する時間や費用を節約しつつ、双方の関係を保つことができます。
この業務は一般の社労士でも行うことができますが、特定社労士としての知見を活かすことで、より適切かつ効果的な対応をとれることが期待できます。

【労働環境の改善支援】

特定社労士は、企業が適正な労務管理を行えるようにサポートし、労働環境の改善を目指します。結果として、紛争の発生自体を防ぐ役割も果たします。この業務は一般の社労士でも行うことができますが、特定社労士としての知見を活かすことで、より適切かつ効果的な対応をとれることが期待できます。

参考:全国社会保険労務士会連合会 紛争解決手続代理業務
厚生労働省法令等データベース 社会保険労務士法 条文

1-2. 一般の社労士との違い

特定社労士とは、特別研修を経て紛争解決手続代理業務試験に合格し、かつその旨が全国社会保険労務士会連合会に備える社会保険労務士名簿に付記された社労士のことをいいます。労働紛争の代理業務に関しては、社労士のなかでも特定社労士しか行うことができません(弁護士を除く)。

全国社会保険労務士会連合会が実施した2024年度(令和6年度)社労士実態調査によると、社会保険労務士名簿に特定社労士としての付記をしている人は、回答者25,408人のうち33.7%でした。社労士のおよそ3人に1人が特定社労士という水準です。年代が上がるほど付記率は高く、70歳以上では41.8%に達します。
参考:全国社会保険労務士会連合会|「2024年度 社労士実態調査」調査結果(詳細版)

2. 労働紛争の具体例

特定社労士は労働紛争の解決代理業を行いますが、「労働紛争」といっても具体的にイメージできる人は多くはないでしょう。特定社労士が対応する労働紛争の具体例は以下のとおりです。

  • 解雇トラブル
    ・不当解雇や整理解雇(リストラ)が適法に行われていない場合
    ・解雇理由の正当性が争われるケース
  • 賃金に関する紛争
    ・未払い残業代や賃金カットの不当性
    ・賃金や賞与が契約通り支払われない場合
  • ハラスメント問題
    ・職場でのパワハラ、セクハラ、いじめなどによる労働環境の悪化
    ・ハラスメント被害に対する企業の対応の不備
  • 労働条件の変更
    ・就業規則や契約条件の一方的な変更によるトラブル
    ・労働時間の改定や配置転換に関する不満
  • 退職や解雇に関する合意形成
    ・退職勧奨や希望退職の条件についての交渉
    ・退職後の競業避止義務や守秘義務の範囲

3. 特定社労士資格取得のメリット

3-1. 業務範囲の拡大による顧客満足度の向上

あっせんや調停は、裁判よりも簡易・迅速・低費用で取り組むことができる紛争解決手段です。また、労働者と事業主の関係性を良好に保ちながら問題解決できる可能性がある点も重要です。

この手段を社労士としてサポートできると、顧客の満足度や信頼度が向上することにつながります。社労士としての活動を行っていく上で強みになり、メリットは大きいといえます。

3-2. 労働問題への対応力の向上

特定社労士資格取得の過程で必ず受講する特別研修では、社労士としての労務相談などの通常業務を行う上でも適切かつ迅速に対応できる能力が身につきます。

労働トラブルの未然防止策を提案することで企業のリスクマネジメントに貢献したり、問題が発生した際にも迅速に対応できるため、顧客からの信頼をさらに深められます。

3-3. 社労士としてのブランディング

特定社労士は、社労士の中でも高度な専門知識を持つ資格者として位置づけられています。名刺や事務所のホームページに特定社労士の肩書きを記載することで、顧客に専門性や希少性をアピールすることができます。

4. 特定社労士になるためには

特定社労士になるためには、特別研修を経て紛争解決手続代理業務試験に合格し、かつその旨を全国社会保険労務士会連合会に備える社会保険労務士名簿に付記する必要があります。おおまかな流れは以下のとおりです。

4-1. 社労士登録

特定社労士になるためには、まずは社労士として登録する必要があります。ここで注意したいのは、社労士試験に合格しただけでは社労士にはなれないという点です。試験合格者はあくまで「社会保険労務士となる資格」を得た状態で、登録は別の手続きになります。

登録には、労働社会保険諸法令に関する事務に従事した期間が2年以上あることが必要です。実務経験が2年に満たない場合は、全国社会保険労務士会連合会が実施する事務指定講習を修了すれば、2年以上の実務経験と同等以上の経験を有するものと認められます。

※社労士試験について詳しく知りたい方は、こちらもあわせてご覧ください。

※社労士試験の受験資格について詳しく知りたい方は、こちらもあわせてご覧ください。

※社労士試験の難易度について詳しく知りたい方は、こちらもあわせてご覧ください。

4-2. 特別研修

特定社労士になるための紛争解決手続代理業務試験を受験するためには、全63.5時間の特別研修を受講する必要があります。 特別研修は以下のような内容・日程で行われます。

中央発信講義(e-Learning形式)
個別労働関係紛争に関する法令・
実務に関する研修として、個別労
働関係法の制度と理論を理解し、
また個別労働関係紛争解決手続代
理人としての倫理を確立するため
に行われる研修。
科目は、憲法、民法などの基本法
や個別労働関係紛争解決制度など
全8科目。
30.5時間受講期間
9月上旬
〜下旬
グループ研修(集合研修)
個別労働関係紛争における書面
(申請書や答弁書)の作成に関す
る研修として、受講者が10人程度
のグループを作り、ケースに応じ
て書面の作成を行う。
18時間開催期間
10月頃
(3日間)
ゼミナール(集合研修)
ケース・スタディを中心に申請書
・答弁書の検討、争点整理、和解
交渉の技術、代理人の権限と倫理
等についてロールプレイを取り入
れながら行う。講師は弁護士。
15時間開催期間
11月頃
(3日間)

特別研修を修了するためには、研修の全日程に参加してすべてのカリキュラムを受講する必要があります。そのため、原則として遅刻・早退・欠席はできません。

受講料は85,000円(教材代込み)。
研修開催地は北海道・宮城県・東京都・愛知県・大阪府・広島県・福岡県の7都道府県です。
参考:全国社会保険労務士会連合会|第22回(令和8年度)特別研修受講案内(※非公開 会員ページにて公開)

4-3. 紛争解決手続代理業務試験(特定社労士試験)

特定社労士試験は、社労士試験同様年に1度実施されます。概要は以下のとおりです。

試験概要
試験日例年11月下旬
試験時間14:30〜16:30(120分)
試験形式記述式
試験地7都道府県
北海道・宮城県・東京都・
愛知県・大阪府・広島県・
福岡県
受験手数料15,000円
受験資格特別研修修了者
合格発表例年3月頃

参考:第21回紛争解決手続代理業務試験の実施について

5. 特定社労士試験の受験者数と合格率の推移

直近10年の特定社労士試験実績は以下のとおりです。

試験実施年受験者数合格者数合格率
令和7年度1,041人526人50.5%
令和6年度856人398人46.5%
令和5年度892人502人56.3%
令和4年度901人478人53.1%
令和3年度950人473人49.8%
令和2年度850人526人61.9%
令和元年度905人490人54.1%
平成30年度911人567人62.2%
平成29年度890人510人57.3%
平成28年度1,019人647人63.5%

直近10年の合格率は46.5%から63.5%の間で推移しており、単純平均は55.5%です。合格基準は100点満点中55点以上、かつ第2問で10点以上とされています。合格率6%台で推移する社労士試験とは、性格の異なる試験といえます。
参考:厚生労働省|紛争解決手続代理業務試験の結果について

6. 特定社会保険労務士と社労士の違いや資格取得の方法まとめ

最後に、今回の記事の要点をまとめます。

  • 特定社労士とは、労使間の紛争を裁判外で当事者の代理人として解決できる資格を持った社労士のことをいう
  • 特定社労士は社労士の中でも高度な専門知識を持つ資格者として、専門性や希少性をアピールできる資格である
  • 特定社労士になるためには、社労士試験の合格に加えて社労士登録を済ませ、そのうえで特別研修の修了と紛争解決手続代理業務試験の合格が必要
  • 紛争解決代理業務試験の合格率は直近10年でおおむね45〜65%の範囲で推移している

特定社労士資格を取得することは簡単ではなく、社労士のなかでも特定社労士として付記している社労士は、およそ3人に1人にとどまります。だからこそ、自らの市場価値をより高め、求められる社労士になれる可能性を持っています。

すでに社労士資格を持っている人は、もう一歩ステップアップして、特定社労士試験にもぜひ挑戦してみてください。

まだ社労士試験の資格を持っていない人は、まずは社労士試験の合格を目指しましょう。

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伊藤塾 社労士試験科

著者:伊藤塾 社労士試験科

社会保険労務士資格を保有する講師・合格経験者で構成された専門チームが監修・執筆しています。合格率6〜8%という難関試験について、10科目17試験の合格基準・頻出法改正・科目別ボーダーラインまで、実務に精通した専門チームが正確にお届けします。