なぜ退職代行モームリ社長は逮捕された?違法行為と弁護士・社労士の役割を徹底解説

評判・実態

2026年(令和8年)2月、退職代行サービス「モームリ」を運営する株式会社アルバトロスの社長らが、弁護士法違反(非弁提携)の疑いで逮捕され、その後起訴されました。

これまで「グレーゾーン」という言葉で曖昧にされてきた退職代行ビジネスの運営実態に対し、刑事罰の対象となる「違法行為」の疑いがあるとして、明確にメスを入れた形となります。この衝撃的なニュースは、安易に非専門の代行業者を利用することのリスクを浮き彫りにしました。

「退職を認めてもらえない」「会社から損害賠償をちらつかされる」「有給休暇を消化させてもらえない」……。こうしたトラブルを確実に防ぎ、未払い賃金などの権利もしっかり確保して次の職場へ向かうには、一体誰を頼るのが正しい選択なのでしょうか。

本記事では、今回の逮捕事件の背景を整理したうえで、弁護士や社会保険労務士といった「法律のプロ」と代行業者の決定的な違い、そして今、健全な職場環境を支える専門家として期待が高まっている社労士の役割について詳しく解説します。

【目次】

1. 退職代行サービス「モームリ」とは

退職代行サービス「モームリ」とは、退職の意思を本人に代わって会社に伝えるサービスです。2022年3月に始まり、運営会社の公表では、2025年1月末までに26,952名が利用しています。

利用者は若い世代に偏っています。2024年7月末までの15,934名を分析したデータでは、20代だけで全体の6割以上を占めていました。 最年少は15歳、最高齢は71歳です。
出典:株式会社アルバトロス「退職代行モームリに103回利用された企業を含む業種と利用回数データを公開」、「退職代行モームリ累計利用者15,934名分のデータ・利用された企業情報を公開

退職代行業界では最大手の1つとして知られており、弁護士監修のもと、法律に沿った適切な業務を行っていると宣伝されていました。

2. 何が「違法」と判断されたのか

2026年2月3日、警視庁は株式会社アルバトロス(横浜市)の当時の代表取締役だった谷本慎二氏と、同社従業員である妻を弁護士法違反(非弁提携)の疑いで逮捕しました。同社は退職代行サービス「モームリ」の運営会社です。捜査は前年から進んでおり、2025年10月には同社に家宅捜索が入っていました。 2人はその後起訴され、公判では起訴内容を認めています。逮捕からの経緯は3章にまとめました。

2-1. 不適切な「紹介料」の受領

逮捕時の報道によると、谷本氏は2023年3月頃から、退職代行を希望する利用者に特定の弁護士を紹介し、その見返りとして弁護士側から1件あたり約1万6500円の紹介料を受け取っていた疑いが持たれていました。その後の裁判で認定されたのは、85人分の紹介に対する約110万円の支払いです。 逮捕時に報じられた金額と、判決が認定した金額の範囲は異なります。(参照:朝日新聞

法律上、弁護士ではない者が報酬を得る目的で弁護士に事件をあっせん(周旋)し、その対価を受け取ることは厳格に禁じられています

(非弁護士との提携の禁止)
第二十七条 弁護士は、第七十二条乃至第七十四条の規定に違反する者から事件の周旋を受け、又はこれらの者に自己の名義を利用させてはならない。

※第七十二条:(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
※第七十三条:(譲り受けた権利の実行を業とすることの禁止)
※第七十四条:(非弁護士の虚偽標示等の禁止)

(出典:e-Gov 法令検索

谷本氏は、これらの紹介料を別の名目で処理することで、弁護士法による規制を回避しようとしていた疑いが持たれています。この点は判決でも、虚偽の名目による支払いがあったと認定されています。

2-2.「グレーゾーン」を盾にした運営の限界

「モームリ」はこれまで、労働組合と提携することで「団体交渉権」(※)を背景に交渉を行うという、業界で「グレーゾーン」とされてきた手法を強調し、メディアへの露出も積極的に行ってきました。
(※団体交渉権:労働者が労働組合を通じて、賃金や退職などの労働条件について、会社と対等な立場で話し合うために憲法で保障された権利)

 しかし、今回の立件は、ビジネスモデルの裏側で行われていた「弁護士との不適切な癒着(キックバック構造)」という、より悪質なコンプライアンス違反にメスが入ったことを意味しています。

3. モームリ事件のその後

谷本氏と妻は2026年2月24日に弁護士法違反の罪で起訴され、公判で起訴内容を認めました。6月5日には検察側が谷本氏に懲役2年を求刑しています。同じ日、紹介を受けていた弁護士側には有罪判決が言い渡されました。一方で退職代行サービス「モームリ」自体は、経営体制を変えたうえで4月23日に営業を再開しています。

【逮捕からの経緯】

日付出来事
2026年2月3日警視庁が谷本氏と妻を弁護士法違反
(非弁提携)の疑いで逮捕
2026年2月24日東京地方検察庁が2人を弁護士法違反
の罪で起訴
2026年3月31日運営会社が代表者の変更をホーム
ページで公表
2026年4月1日代表取締役が浜田優花氏に交代
2026年4月23日退職代行サービスの営業再開を発表
2026年5月26日東京地方裁判所での初公判で、
2人が起訴内容を認める
2026年6月5日検察側が谷本氏に懲役2年、
妻に懲役1年6カ月を求刑
2026年6月5日紹介を受けていた弁護士側に
有罪判決

3-1. 紹介を受けた弁護士側にも有罪判決

この事件で見落とされやすいのが、紹介を受けた側の弁護士も罪に問われている点です。

2026年6月5日、東京地方裁判所は弁護士法人の代表弁護士に懲役1年6カ月、執行猶予3年の判決を言い渡しました。法人には罰金150万円が科されています。判決は、2023年から2025年にかけての85人分について、虚偽の名目による支払いがあったと認定しました。

非弁提携は、あっせんした側と、あっせんを受けた弁護士側の双方が罰せられる仕組みです。 有罪が確定すれば、弁護士は資格そのものを失います。なぜ双方が罰せられるのかは、4章で解説します。

3-2. サービスは営業を再開している

運営会社は2026年4月1日付で代表取締役を交代し、4月23日に退職代行サービスの営業再開を発表しました。同社は、起訴されたのは紹介料の受領についてであり、サービス自体への司法判断が示されたわけではないとしています。

つまり「モームリ」は、現在も利用できる状態にあります。ただし利用者が確かめるべき点は、事件の前後で何ひとつ変わっていません。誰が対応するのか、そしてどこまで対応してもらえるのか。この2点です。 何をどう確かめればよいかは、5章で解説します。

4. なぜ「退職の代行」が罪になるのか?

「お金を払って、自分の代わりに退職を伝えてもらう」。一見すると、退職に悩む人を救う便利なサービスに思えます。しかし、そこには日本の司法制度が定める「厳格な独占業務のルール」が存在しています。

今回の逮捕劇の背景にあるのが、弁護士法第72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)の規定です。

(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
第七十二条 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

(出典:e-Gov 法令検索

4-1. 法律事務は「国家資格者」だけに許された独占業務

日本には、高度な専門知識と倫理観が求められる業務について、特定の国家資格を持つ者だけにその遂行を認める「業務独占」という制度があります。

「他人の法的なトラブル(退職、給料の未払い、損害賠償など)に介入して、報酬を得る」ことは、弁護士法により弁護士だけに許された権利です。

専門教育を受け、厳しい試験を突破し、さらに職務上の重い責任を負う「有資格者」が介入することで、初めて国民の権利と法的な安全性が守られます。

実態の不透明な「無資格の業者」が法的な交渉を行うことは、司法制度の根幹を揺るがすだけでなく、利用者が不当な不利益を被るリスクをはらんでいるため、法律で厳しく禁止されています。

4-2.「使者」と「代理人」の決定的な違い

これまで多くの退職代行業者は、「私たちは本人の意思をそのまま伝えるだけの使者(伝言役)なので、違法ではありません」と主張してきました。

しかし法律上、この「使者」と「代理人」の間には、以下の表の通り大きな違いがあります。


【退職代行業者の役割と法律上のルール】

役割具体的なやり取りの例法律上のルール
使者
(単なる
伝言)
本人が決めた「〇月〇日で
辞めます」というメッセー
ジを届けるだけ。
【適法】
特別な資格がなくても
認められる範囲。
代理人
(実質的
な交渉)
「有給を使わせろ」
「損害賠償は払わない」
など、条件の調整や法的な
反論を行う。
【違法(非弁行為)】
原則として弁護士免許
を持つ人だけに許され
ている業務。

報道によれば、今回の「モームリ」のケースでは、同社が単なる伝言役としての役割を越え、会社側とのやり取りの中で独自の判断に基づき、実質的な「交渉」や「法的な主張」を行っていた疑いが持たれています。

〇 適法とされる「使者」の範囲
 ●「本人が『〇月〇日に辞めます』と言っています」と、決まったメッセージを届けるだけ。
 ● 相手(会社)から何か反論されても、自分の判断で言い返したり、条件を調整したりはしない。

✕ 違法(非弁行為)となる可能性が高いケース
 ● 会社から「今辞められると損害が出る」と言われ、「法律的には賠償の必要はありません」と法的な反論をする。
 ●「有給休暇を全部使ってから辞めたい」と、会社と日程の調整や交渉を行う。
 ●「未払いの残業代を計算して請求してほしい」と、金銭的なやり取りを代行する。

4-3. 業者と弁護士の双方が罰せられる理由

非弁行為を禁じる第72条は、無資格の業者に向けた規定です。これに対して、2章で引用した第27条は、弁護士に向けた規定です。この2つは、同じ構造を表と裏から禁じています。

業者が弁護士に事件をあっせんして報酬を得れば、第72条が禁じる周旋にあたります。そのあっせんを弁護士が受ければ、第27条に違反します。法定刑はどちらも同じで、2年以下の懲役または300万円以下の罰金です。渡した側が軽く、受け取った側が重いという関係ではありません。

弁護士の場合、刑罰だけでは終わりません。弁護士法第7条は、禁錮以上の刑に処せられた者は弁護士となる資格を持たないと定めています。有罪判決が確定すれば、その弁護士は職そのものを失います。3章で触れた判決は、まさにこの局面にあたります。

無資格の業者だけを取り締まっても、受け皿になる有資格者がいれば同じ構造は残ります。双方を罰する規定になっているのは、その構造ごと断つためです。

ここから、利用者にとって実際的な結論が1つ導けます。1章で触れたとおり、モームリは弁護士の監修を受けていると宣伝していました。しかしその体制のもとで、監修する側の弁護士が罪に問われています。「弁護士監修」という表示は、そのサービスが適法であることの保証にはなりません。 確かめるべきは監修の有無ではなく、実際に誰が、どこまでの範囲を担当するのかです。

5. 「モームリ」などの退職代行サービスはすべて違法?裁判例からみる判断ポイント

とはいえ、退職代行サービスのすべてが違法というわけではありません。
弁護士法第72条では、「その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない」とされています。

では、退職代行としてどのようなサービスを提供すれば非弁行為となりうるのか、違法性判断のポイントとなるのが、「その他一般の法律事件」の解釈です。

5-1. 退職代行の違法性が争われた裁判例

地裁レベルですが、実際に退職代行の違法性が争われた裁判例があります。
(東京地判令和2年2月3日判決)

この事件は、原告が被告(退職代行業者)に依頼して退職の意思を通知したところ、会社から
「あなたとの契約は、雇用契約ではなく業務委託契約である。したがって、民法627条(解約の自由)などのルールは適用されない」
と返答されたため、代行業務を中止して退職にいたらなかったというものです。

原告は、結局弁護士に依頼することになったため、代行業者に対して
「退職代行サービスは弁護士法第72条に違反しているため、契約は無効だ!」
として、サービス料金の返還請求訴訟を提起しました。

そして裁判で、「原告の利用した退職代行サービスが弁護士法第72条に違反しているのか」が争われることになったのです。

東京地方裁判所は、「その他一般の法律事件」の解釈を以下のように判示しました。

「その他一般の法律事件」に当たるといえるためには、法的紛議が顕在化している必要まではないが、紛議が生じる抽象的なおそれや可能性があるというだけでは足りず、当該事案において、法的紛議が生じることがほぼ不可避であるといえるような事実関係が存在することが必要であると解するのが相当である。(東京地判令和2年2月3日判決)

簡単にいえば、退職の意思を通知するだけなら問題ありませんが、通知する時点でトラブルになるのが明らかだったり(顕在化)、そのトラブルに口を出してしまったりすれば、非弁行為となりうるということです。

ちなみにこの事件では、原告(依頼主)と勤務会社の間に、「業務委託契約なのか、それとも雇用契約なのか」という紛争が生じた時点で、代行業者が業務を中止したため、非弁行為とはみなされませんでした。

5-2. 退職代行業者が合法となるケース・違法となるケース

上記の裁判例からも分かるとおり、民間業者が行っても「合法」とされるのは、あくまで「使者」に徹している場合です。

具体的には、
・依頼者の「辞めます」という意思を会社へ伝える
・会社からの返答を本人にそのまま伝える
・私物の返却や離職票の送付を会社に依頼する旨を伝える
といった行為です。

このようなメッセンジャー的行為をしている限りであれば、「法律事務」には該当しないため、無資格でも行えます。ただし、上記裁判例のように会社側が何らかの主張を持ち出した場合、それ以上の対応はできません。

あくまで一例ですが、東京弁護士会のホームページには、以下のような事例が非弁行為にあたるとして紹介されています。

【事例1】
本人の要望は、会社を辞めること、及びこれまで支払われていない残業代の請求でした。業者は、本人に代わって会社に対して伝えたところ、会社側は「もう辞めるのだから、残業代なんか支払わない」と主張しました。業者は残業代について「それは法律に違反する」「私が計算したところ●円になる」などと説明し、会社との話し合いの結果、残業代が支払われることになりました。

〔解説〕
 弁護士等でない者が、法律的な問題について、本人を代理して相手方と話をすることは非弁行為です。
 残業代は、労働基準法に基づき認められた労働者の権利です。そして、残業代の有無、具体的な金額の算定は、法律的な問題です。
 本事例では、業者は、本人に代わって、法律的な問題について話し合い(交渉)を行った結果、残業代が支払われることになっています。このような業者の行為は、非弁行為です。
(引用:東京弁護士会「退職代行サービスと弁護士法違反」)

5-3. 依頼する前に確認したいこと

東京弁護士会は2025年10月、退職代行サービスについて注意喚起を出しています。2章で触れた家宅捜索と同じ月に出されたものです。

弁護士でない者が次の行為をすれば、弁護士法違反となる可能性があるという内容です。

・残業代や慰謝料などの法律的な問題について、本人に代わって会社と話し合うこと ・報酬を得て、法律的な問題の処理を他の者にあっせんすること

2つ目が、その後の事件で実際に問われた点です。この注意喚起は特定の業者に向けたものではなく、退職代行というサービスの構造そのものに向けられていました。

同会はその後、業者からの連絡を「非弁行為ではないか」として拒否する会社が出てきていることにも触れています。ここには、利用者にとって見過ごせない実害があります。料金を払って依頼したのに、会社が取り合わず、退職の話が進まないという事態が起こりうるからです。

依頼を検討するときは、次の2点を先に確認してください。

・対応するのは誰か。弁護士なのか、労働組合なのか、資格を持たない民間業者なのか ・どこまで対応してもらえるか。意思を伝えるだけなのか、条件の交渉まで含むのか

有給休暇の消化や未払い残業代の請求まで求めるのであれば、それは法律的な問題です。東京弁護士会も、退職そのものだけでなく、退職にともなって生じる法律的な問題にも目を向けるよう呼びかけています。交渉が必要になりそうであれば、はじめから弁護士に依頼するほうが確実です。

6. 法律のプロ(弁護士・社労士)と退職代行サービスの違い

ここまで、退職代行サービスの違法性について見てきました。ただ、一般の方がどういったケースが非弁行為にあたるのかを見抜くのは至難の業です。
そこで重要になるのが、弁護士や社会保険労務士(社労士)といった法律の専門家です。

この章では、これらの国家資格者と民間業者で何が違うのかを見ていきます。

6-1. 退職代行サービスと弁護士の違い

弁護士の最大の強みは、依頼者の「代理人」として会社と交渉し、必要に応じて労働審判や訴訟まで一貫対応できる唯一の資格であることです。

「退職を認めない」「未払い残業代を支払わない」「有給休暇を使わせない」と会社側が強硬な姿勢を取った場合でも、法的根拠をもとに交渉し、会社が応じなければ法的手続きへ進むことで、問題解決に向けて大きな力を発揮します。

そのため、解雇トラブルや未払い賃金請求、パワハラ・労災など紛争がこじれる可能性が高いケースでは、弁護士への依頼が最適といえます。

一方で、弁護士に依頼する場合は費用が高くなる傾向があり、解決までに一定の時間がかかることがある点には注意が必要です。

6-2. 退職代行業者と社労士の違い

一方、弁護士以外で退職代行サービスと深く関わっているのが社労士です。

資格を持たない民間の退職代行業者には、労働法令の知識を求める要件がありません。これに対して社労士は、労働・社会保険に関する法令を国家試験で問われ、実務でも日常的に扱う専門家です。

退職トラブルの背景には、長時間労働や未払い賃金といった労務管理の問題があります。就業規則が法令に違反していないか、割増賃金の計算が正しいか。社労士はこうした点を、条文と実務の両面から確認できます。

特定社会保険労務士であれば、会社が「有給は使わせない」「残業代は払わない」といった主張をしてきた場合に、ADR(裁判外紛争解決手続)の場で代理人として会社と交渉できます。ただし、社労士会労働紛争解決センターのような民間の手続では、争う金額が120万円を超えると、弁護士との共同受任が必要になります。 都道府県労働局のあっせんには、この金額の制限はありません。

裁判の場での関わり方も広がりました。2025年10月に施行された社会保険労務士法の改正により、社労士は補佐人として裁判所に出頭し、陳述できます(第2条の2)。改正前は弁護士である「訴訟代理人」とともに出頭する場合に限られていましたが、「代理人」に改められ、労働審判にも同席できるようになりました。 補佐人になれるのは特定社労士に限らず、すべての社労士です。

それでも、会社との交渉や訴訟で最終的な解決を担うのは弁護士です。社労士の強みは別のところにあります。就業規則の整備、残業代の計算、労働環境の改善といった、退職トラブルの根本原因に日常的に向き合っていることです。トラブルが深刻になる前の段階から、企業と働く人の双方に関わることができます。

次章では、このような労務トラブルを解決するために社労士にできることを見ていきます。

7. 労務トラブルの専門家として社労士にできること

2025年の社会保険労務士法の改正では、法律の冒頭に使命規定が新たに置かれました(第1条)。社労士の使命は、労働及び社会保険に関する法令の円滑な実施を通じて、適切な労務管理の確立に寄与することです。あわせて、個人の尊厳が保持された適正な労働環境の形成に寄与することも明記されました。

退職代行に頼らざるをえない職場をなくすことは、この使命そのものです。

労務トラブルの専門家として、社労士ができることは大きく3つに分けられます。

  • 退職者を減らすための職場環境の改善
  • 労働社会保険の手続き
  • あっせんを利用した労使紛争の解決

それぞれ詳しく見ていきます。

7-1. 退職者を減らすための職場環境の改善

まずできるのが、退職者を減らすための職場環境の改善です。
人事労務管理の専門家として、労働者の労働時間を管理したり、優秀な人材の育成や確保を目的とした人事評価の制度をコンサルティングしたりして、職場環境そのものを改善していきます。

ほかに、職場環境を整えるための就業規則や労使協定の作成をするのも社労士の仕事です。

この予防の仕事は、2025年の改正で条文に書き込まれました。社労士の業務を定めた第2条第1項第3号に、法令や労働協約、就業規則、労働契約の遵守の状況を監査することが含まれると明記されたのです。労務監査と呼ばれてきた業務が、法律に位置づけられました。

就業規則を作るところまでではなく、そのとおりに運用されているかを点検するところまでが、社労士の業務です。 なお労務監査は3号業務にあたるため、社労士だけができる独占業務ではありません。

弁護士が「トラブルが起きてから」介入するのに対し、社労士は「トラブルが起きないように」会社の制度を整える役割を担っています。

※社労士の独占業務について詳しく知りたい方は、こちらもあわせてご覧ください。

7-2. 労働社会保険の手続き

従業員が退職すると、会社側に期限つきの手続がいくつも発生します。健康保険と厚生年金保険の資格喪失届は、事実の発生から5日以内に年金事務所などへ。雇用保険の資格喪失届と離職証明書は、離職した翌々日から10日以内にハローワークへ提出しなければなりません。

これらの書類を事業主に代わって作成し、提出するのが、社労士だけに認められた独占業務です。

手続が遅れて困るのは、退職した本人です。離職証明書が出なければハローワークは離職票を交付できず、離職票がなければ失業給付の手続を始められません。失業給付そのものは退職者が住所地のハローワークで申請しますが、その入口にあたる書類は会社が用意します。一方、国民健康保険への加入や国民年金への切り替えは、退職者本人が市区町村の窓口で行う手続です。

退職者の生活に直結する部分を、期限どおりに動かしているのが社労士です。

7-3. あっせんを利用した労使紛争の解決

特定社会保険労務士(特定社労士)になれば、労使紛争の解決にも携われます。
特定社労士には、ADR(裁判外紛争解決手続)における「あっせん(※)」の場面などで、依頼者の代理人として交渉したり・和解契約を締結することが認められています。
(※あっせんとは、裁判をせずに、第三者(専門家)が間に入って、話し合いで労働トラブルを解決する仕組みのこと)

特定社労士が代理人として関われる手続は、3つに分かれます。都道府県労働局の紛争調整委員会によるあっせん、男女雇用機会均等法などに基づく調停、そして社労士会労働紛争解決センターのような民間の紛争解決手続です。

このうち民間の手続だけは、争う金額が120万円を超える場合に弁護士との共同受任が必要になります。 未払い残業代は120万円を超えることも珍しくないため、どの手続を選ぶかが結果を左右します。社労士会労働紛争解決センターは、法務大臣の認証と厚生労働大臣の指定を受けた機関です。

特定社労士が、ADR(裁判外紛争解決手続)として関わっていけるのは、以下のような個別労働関係紛争です。

◉賃金に関する紛争
・未払い残業代や賃金カットの不当性
・賃金や賞与が契約通り支払われない場合

◉ハラスメント問題
・職場でのパワハラ、セクハラ、いじめなどによる労働環境の悪化
・ハラスメント被害に対する企業の対応の不備

◉労働条件の変更
・就業規則や契約条件の一方的な変更によるトラブル
・労働時間の改定や配置転換に関する不満

◉退職や解雇に関する合意形成
・退職勧奨や希望退職の条件についての交渉
・退職後の競業避止義務や守秘義務の範囲

※特定社労士について詳しく知りたい方は、こちらもあわせてご覧ください。

このように、予防と紛争解決の両面から、労働者や企業の悩みに向き合っていくのが社労士の役割です。

今回の退職代行サービス「モームリ」のような事件を知って労働問題に関心を持たれたなら、ぜひご自身が社労士になって労働問題の解決に携わるという道も検討してみてはいかがでしょうか。

なお社労士は、当事者の代理人としてだけでなく、あっせん員として紛争解決に関わることもあります。社労士会労働紛争解決センターであっせんを担当するのは、特別な研修を受けて試験に合格した特定社労士です。代理人とは逆に、どちらの側にも立たない中立の立場になります。

※社労士試験の受験資格と合格後の働き方について詳しく知りたい方は、こちらもあわせてご覧ください。

8. 危機感を持つ企業から、社労士へのオファーが増えている

退職代行サービスが話題になったことによる社会的関心の高まりは、社労士にとって追い風となっています。

株式会社アルバトロスの公表データによると、2025年3月から6月までの4か月間に、2025年度の新卒1,072名が退職代行モームリを利用しました。内定辞退の依頼36名を含む人数で、前年同期の805名から267名増えています。

注目したいのは、その内訳です。1,072名のうち487名、全体の45%が4月に集中していました。入社した月のうちに辞める手続きを他人に頼んだ新卒が、半数近くいたことになります。 前年のピークが連休を含む5月だったことをふまえると、決断の時期はひと月早まった計算です。

退職理由も見過ごせません。最も多かったのは「入社前の契約内容・労務条件と勤務実態の乖離」で、4割を超えています。辞める理由の1位は、人間関係でも仕事内容でもなく、聞いていた条件と実際が違ったことでした。

この事態に本気で危機感を持った企業は、動きはじめています。
出典:株式会社アルバトロス「【退職代行モームリ】2025年度新卒1,072名分の最新退職データを公開」

変化は数字にも表れています。全国社会保険労務士会連合会が2024年11月に公表した社労士実態調査を見てみましょう。全国の社労士45,401人を対象に、25,408人が回答した調査です。

5年前と比べて顧客からの需要が増えたと答えた社労士の割合は、次のとおりでした。

・労働及び社会保険に関する相談業務:71.5% ・各種規程作成、改定、整備に関する業務:66.2% ・手続業務:59.1% ・コンサル業務:57.7%

一方で、社労士が実際に受託している業務の内訳を見ると、手続業務が平均41.5%を占め、相談業務は14.3%、コンサル業務は7.3%にとどまります。需要が伸びている分野と、いま業務の中心にある分野は、まだ一致していません。
出典:全国社会保険労務士会連合会「2024年度社労士実態調査 調査結果概要

企業が今求めているのは、もう単なる事務手続きの代行ではありません。「どうすれば人が辞めない組織を作れるか」という経営課題を解決できる専門家です。コンプライアンス(法令遵守)と人的資本経営への転換が求められる中、人事労務コンサルティングができる社労士へのニーズはかつてないほど高まっています

具体的には、就業規則の見直し、働きやすい環境整備の提案、採用・定着支援といった業務です。これらは試験勉強で学んでいる労働基準法や社会保険法の知識が土台となります。
つまり、試験勉強で覚える条文や判例の一つひとつが、将来、企業の組織づくりを支え、働く人の権利を守る武器に変わるのです。退職代行が必要ない職場を作る——それこそが、これからの社労士に期待されている役割のひとつなのです。

9. 社労士を目指すなら伊藤塾がおすすめ

伊藤塾は、法律系の資格試験で圧倒的な実績を出し続けてきた受験指導校です。
司法試験では、2025年度合格者のうち「9割以上が伊藤塾の有料講座受講生」という実績を誇っており、業界のトップランナーとして創立から30年走り続けてきました。

そして、この司法試験で培った「圧倒的な指導力」を皆様に還元すべく伊藤塾の【社労士 合格講座】を開講中。「伊藤塾」にしかできない価値を提供するために、次のようなこだわりをもっています。

◉安心の「伊藤塾」品質で確実な合格を提供!
◉学習効果を極限まで高める「講義」デザイン
◉「見やすさ」と「使いやすさ」にとにかくこだわったテキスト
◉安心と充実のフォロー制度
◉「合格後」を考える同窓会の存在

法律系の資格試験で圧倒的な実績を出し続けてきた「伊藤メソッド」を集約した社会保険労務士講座で、ぜひ「最短距離での合格」を勝ち取ってください!

~伊藤塾で「社労士」を目指す意味とは~ 伊藤真塾長×持田裕講師の対談動画はこちらをご覧ください。

YouTube thumbnail

10. 退職代行に関するよくある質問(FAQ)

退職代行サービスはすべて違法ですか?

いいえ、すべてが違法というわけではありません。退職の意思を「伝えるだけ」なら合法です。ただし、会社との交渉や法的な主張を行うと非弁行為として違法になる可能性があります。

弁護士がいない退職代行業者は使わない方がいいですか?

会社との交渉が予想される場合は、弁護士が運営する退職代行サービスの利用をおすすめします。単純な退職意思の伝達だけなら民間業者でも問題ありませんが、トラブルが生じた際に対応できません。

社労士は退職代行ができますか?

社労士の資格は、退職代行を引き受けるためのものではありません。会社に退職の意思を伝えることは、社会保険労務士法が定める業務に含まれていないからです。

ただし、特定社会保険労務士であれば、個別労働関係紛争のADR(裁判外紛争解決手続)で、労働者側の代理人として会社と交渉できます。有給休暇や未払い賃金をめぐる争いが対象です。民間の手続では120万円を超える争いに弁護士との共同受任が必要ですが、都道府県労働局のあっせんに金額の制限はありません。

会社が退職そのものを認めない場合や、訴訟まで見据える場合は、弁護士が適任です。社労士が力を発揮するのは、退職代行を使わずに済む職場をつくる段階です。

モームリ以外の退職代行サービスも危ないですか?

弁護士監修を謳っていても、実態として法的交渉を行っている業者は違法の可能性があります。利用前に、運営主体(弁護士・労働組合・民間業者)と対応範囲が「意思伝達のみ」か「交渉を含む」のかを確認することが重要です。

11. 退職代行モームリ事件についてまとめ

退職代行サービス「モームリ」の運営会社社長らが逮捕されたのは、利用者に特定の弁護士を紹介し、その見返りとして報酬を受け取っていたためです。2人は2026年2月24日に弁護士法違反の罪で起訴され、公判で起訴内容を認めました。6月5日には、紹介を受けていた弁護士側にも有罪判決が言い渡されています。あっせんした側と、あっせんを受けた弁護士側の双方が罪に問われるのが、非弁提携を禁じる規定の特徴です。

無資格者の退職代行サービスが合法となるのは、あくまで「退職の意思を伝えるだけ」の場合であり、会社との交渉や法的主張を行えば違法となります。

弁護士は交渉・訴訟まで対応できる一方、社労士は退職トラブルの根本原因である職場環境の改善や、あっせんを通じた紛争解決が可能です。退職代行が必要ない職場づくりこそ、これからの社労士に期待される役割です。

今回のモームリ事件が示したのは、労務問題に対する社会的関心の高まりです。企業は「人が辞めない組織づくり」を切実に求めており、人事労務コンサルティングができる社労士の需要はかつてないほど高まっています。

労働者の権利を守り、企業の成長を支え、より良い労働環境を作る——社労士は、働く人と企業の両方を幸せにできる、やりがいと将来性に満ちた国家資格です。

労働問題に関心を持った方は、ぜひ社労士として問題解決に携わる道も検討してみてください。

あなたがもし、社会保険労務士試験の確実な合格を目指しているなら、法律系資格のトップランナーとして圧倒的な合格実績を誇る伊藤塾にお任せください。

伊藤塾の【社労士 合格講座】では、膨大な知識の整理の仕方や現場思考力の養成に絶対的な自信を持つ講師陣によるわかりやすい講義によって、苦手科目の克服から得意科目のさらなる強化まで無理なく効率的に合格に必要な力を身につけることができます。また、カウンセリングや質問制度など充実したサポートによって、合格まで迷うことなく学びを進めることができます。さらに、合格後は士業のネットワーク形成の場を提供し、実務家としての活躍をも支援しています。

2027年合格目標 社労士合格講座

このように、合格はもちろんのこと、合格後の活躍までサポートが受けられるのは、伊藤塾だけの大きな魅力です。

ぜひ、合格に必要なすべてが揃っている伊藤塾で最短距離での合格を勝ち取りませんか?

あなたの「志」の実現を、伊藤塾が全力で応援します。

※伊藤塾 2027年合格目標・社労士合格講座ガイダンスの動画はこちらをご覧ください。

YouTube thumbnail
伊藤塾 社労士試験科

著者:伊藤塾 社労士試験科

社会保険労務士資格を保有する講師・合格経験者で構成された専門チームが監修・執筆しています。合格率6〜8%という難関試験について、10科目17試験の合格基準・頻出法改正・科目別ボーダーラインまで、実務に精通した専門チームが正確にお届けします。